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2018/09/30

『ししりばの家』澤村伊智 感想

ししりばの家
ししりばの家
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澤村伊智
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家に取り憑いた何かが襲ってくるホラー小説。
シリーズ物ではありますが、この本から読んでも問題なし。

1章は短編ホラー小説としても読めそうな出来ですね。
終わった…と思ったら実は本当に怖いのは…
という最後のどんでん返しが綺麗に決まっています。

かつて怪異に遭遇した引きこもりの青年と
運悪くこの家に踏み込んでしまった若妻という
二者の視点で進む構成も上手く機能していました。
青年側は家の外から秘密を探る謎解きがメインで
若妻は家の中で追い詰められるホラーがメイン。
視点が一つだけだとその人物が生き残るか死ぬかですが、
視点が二つだと片方が生き残る可能性が出てくるので
より先が読めなくなってワクワクさせられました。

家に憑いた何かというネタはホラーではよく見ますが、
元は守護霊だったものが空襲の衝撃でエラーを起こして
悪霊化するという発想は他ではなさそう。
ちょっとバカミスに近いノリではありますが、
個人的にはこういう発想は面白くて好きですよ。

ラストも1章と同じく終わったと思わせておいて実は…
という展開ですが、より捻った形で着地しています。
果たして怖いのは怪異なのか、それとも人間なのか…。
後味の悪さは残るものの、爽快感一色の結末よりは
ホラー小説に相応しいと言えるかもしれません。
「ぼぎわん」に続いて今作も堪能させていただきました。
2018/09/22

『玉繭の道』仁志耕一郎 感想

玉繭の道
玉繭の道
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仁志耕一郎
朝日新聞出版 (2013-10-18)
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親徳川派商人として有名な茶屋四郎次郎の物語。

舞台となるのは本能寺の変直前から家康の晩年まで。
信長から秀吉へ天下人が移り変わる動乱の時期を
武士とは少し違う視点で見せるという感じでしょうか。

時代が時代だけにある程度の面白さはあるのですが、
肝心の茶屋の活躍はというと微妙でしたね。
武士の時代を脇役である商人視点で描いてはいるのですが、
あくまで脇役であって商人が主人公というわけではない。
茶屋自身も状況に振り回されている場面が多く、
物語としての爽快感はあまり感じられなかったです。

茶屋自身が元武士ということで武士と商人との間で
迷う感情を書こうとしていたのは分かるのですが、
迷っている期間が長過ぎて途中で飽きが来たのが痛い。
結果的にひたすら右往左往している
小説という印象が強くなってしまいました。
あと、せっかく茶屋という珍しい主人公を選んだのなら
彼の幼少期から掘り下げて欲しかったところです。

茶屋という主人公チョイスにひかれて読んでみたものの、
全体的に物足りなさの残る作品でした。
タイトルの玉繭も最後にちょこっと出るだけでしたしね。
2018/09/12

『エッグマン』辻仁成 感想

エッグマン
エッグマン
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辻 仁成
朝日新聞出版 (2017-10-06)
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心優しい料理人「エッグマン」の物語。

非常に奥手な男性でありエッグマンでもあるサトジ。
その想い人でありバツイチシングルマザーなマヨ。
父親のせいで男性嫌いを患っているウフ。
この一癖ある三人を中心に話が進んでいくわけですが
複雑な家庭環境で暗くなりそうな流れなのに
終始ほんわかした雰囲気が漂っているのは
それぞれの名前が柔らかい雰囲気を持っているからかな。

この3人に限らず、登場人物同士の距離が
一筋縄でいかないところがこの作品の特徴ですね。
サトジが父親にトラウマを持つウフに卵料理を通じて
受け入れられるという流れは王道で気持ちいいのですが、
逆にそれ以外の人間関係はスッキリしないものばかりです。
まあサトジとウフにしても最後にくっついたとはいえ、
それまで12年間も曖昧な関係を続けていましたけど…。

しかしスッキリしない展開が多いのに後味が悪くないのは
その曖昧さが共感しやすいものだからかもしれません。
例えば、ウフのいじめ問題は黒幕はいじめがバレて
結局学校から転校してしまうわけですが、
ラストのシーンでウフと黒幕を簡単に仲直りさせず、
でもウフが黒幕を許した気持ちは伝わったという
捻った描写にしているのが面白いですね。

マヨの元旦那でありウフの父親である男の場合は
女性に対しては偉そうに当たるクズなのかと思いきや、
サトジに対しては「マヨを頼みます」といえる
潔さを持っていたりして、でもそれなのに
最後は詐欺で逮捕されてしまうという
悪い奴ともいい奴とも言い切れない曖昧さが面白い。

こういう曖昧な距離感を扱っている作品は
ほろ苦い終わり方をするものが多いような印象ですが、
この作品は色々なマイナス要素を組み込みつつも
総合的に見ればプラスが多いところに着地する感じで、
読後は7割の温かさと3割のモヤモヤが残りました。
このモヤモヤが隠し味になっているのかもしれません。
2018/09/09

『未来ラジオと人工鳩』 感想

公式はこちら。
laplacian『未来ラジオと人工鳩』応援中!
SFエロゲーメーカーLaplacianの3作目に当たる
『未来ラジオと人工鳩』の感想です。

うーん、前作より粗が目立ってしまったかな。
SFエロゲーなんて多少の粗があるのは仕方がないですし、
そこを話の勢いやキャラの魅力で上手く誤魔化すのが
重要なのですが、この作品はそこが弱かったです。

体験版でも感じていた、かぐやのメインヒロインとしては
力不足という印象は結局最後まで覆りませんでした。
それなのに主人公がベタ惚れしているから違和感が凄い。
意識を共有しているという設定があるとはいえ、
自分の命や家族を捨ててまでかぐやを救うという展開に
最後の最後まで違和感が拭えなかったです。

ここはかぐやへの恋愛感情を掘り下げられなかった
シナリオの怠慢ですが、他のヒロインたちの掘り下げが
ちゃんとされていたかと言われるとそれも微妙なところ。
かぐやよりはマシとはいえ、普通のエロゲーと比べると
恋愛描写はあっさりで、全体的に物足りなさが残りました。

肝心のSF要素は、ループ物にしなかった点は好印象。
鳩による電波妨害やラジオによる情報伝達という設定も
どこか情緒のある雰囲気があって好きですね。
ただ、思いついた設定を放り込んだのはいいものの、
それだけであっさり終わってしまった感があります。
名作と言われるSFゲームの真相が判明したと思ったら
更に別の真相があって…というのが当たり前ですが、
それらと比べると盛り上がりが足りなかったです。


まとめ。
ヒロインの扱いにしても、SF設定にしても
終わってみると雑な印象ばかり残ってしまいました。
前作でも雑な部分はありましたが、
それでも今作と比べるとまだヒロインの個性や
謎解きのワクワク感は強かったような記憶があります。
前作から長所を減らして短所を伸ばすような
内容になってしまったのは残念。

次回作も面白い設定があれば手を出すかもですが、
期待はあまりしない方がいいと心に留めておきます。
2018/09/07

『Tの衝撃』安生正 感想

Tの衝撃
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安生正
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日本国内に存在する核を巡る軍事サスペンス。

とにかくあらゆる動きが派手で面白いです。
冒頭、いきなり重火器によって自衛隊の車両が襲撃され
核燃料が奪われるシーンが派手なのはもちろんですが、
事件を追う自衛隊情報部の溝口へのパワハラも派手。
違法行為を厭わず真相を究明しトカゲの尻尾になれと
堂々命令する自衛隊という組織の姿は痛快ですらあります。

捜査パートと襲撃パートが交互に訪れる構成もいい。
捜査を進めるにしたがって部下は病院ごと爆殺され、
直属の上司であった陸幕長は機関銃で蜂の巣にされるという
敵側の容赦ない対応も緊迫感に繋がっていますね。

敵の正体の意外性も良かったです。
北朝鮮の工作員が最有力容疑者と思わせつつも、
そこへ情報を流す日本側の裏切り者がいる…
という流れかと思いきや、さらにもう一つ裏がるとは。
四つ巴と言える複雑な状況を二転三転する物語として
上手く描写して見せたのはお見事でした。

少し引っかかったのは自衛隊の不甲斐なさですね。
陰謀物では振り回される側が不利なのは仕方ないですが、
それにしてもやられっぱなし過ぎたような。
襲撃犯の正体の意外性で誤魔化されましたけど、
改めて考え直してみれば単に真相に辿り着いただけで
敵に一矢報いたわけではないですし、
ちょっとモヤモヤしたものが残りました。

そんな感じで読後感は少し重いのですが、
核を巡って日本国内が戦場となるシチュだけでも
十分面白かったので自分的には満足度は高い作品でした。