2018/04/15

『長篠の四人 信長の難題』鈴木輝一郎 感想

長篠の四人  信長の難題
鈴木 輝一郎
毎日新聞出版 (2015-09-23)
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信長、秀吉、光秀、そして家康が活躍するシリーズ3作目。
今回はかの有名な長篠の戦が舞台となります。

三河武士といえばその勇猛さは天下に轟き、
しかもそれを率いるのが海道一の弓取りとなれば
そこいらの大名にはそうそう遅れを取らないはずですが
それでも相手が武田となると流石に分が悪い。
勝頼が来ると聞いて織田を捨てて武田に着くか
真剣に検討し始める姿は微笑ましいですね。

しかしそこで圧倒的大軍で援軍に来る信長は流石です。
軍勢だけでなく当時高価だった弾薬を
有り余るほど用意している財力も恐ろしいところ。
更に相手が射程外にいる時点から一斉射撃をはじめることで
織田鉄砲隊のレベルが低いよう見せかけるところから始まり、
主力である騎馬兵でなく歩兵ばかりを狙うことで
武田側に被害が少ないように錯覚させる手の込みよう。

長篠の戦いといえば騎馬VS鉄砲という印象が強いですが、
初手では歩兵を狙っていたという解釈は新鮮でしたね。
これに対して武田が第二陣は歩兵を出さずに速攻狙いで
騎馬ばかりで突入するという発想も納得できるものであり、
ここでようやく歴史通りの騎馬VS鉄砲の戦いとなるわけです。

ここで面白かったのが歩兵と騎馬の身長差。
徳川の歩兵が腰を落として槍を構えているのに対して
武田の騎馬は明らかに身長が高く、
それゆえに徳川歩兵の後ろからでも武田側が丸見えで
鉄砲で狙い放題になるというのは発想の勝利でしょう。
こういう単純な盲点を突く戦法は小説的に大好きです。

今回もドタバタ歴史小説として面白かったのですが、
その影で松平信康と信長に不和の気配が漂っていたりと
じわじわと不安も増してきた感があります。
次辺りで信康切腹事件だったりするのかしらん。
そうなると仲良し4人組の間にも致命的な傷が入りそうで、
残念に思いつつも期待する気持ちもあったりします。
はてさてどうなるか。
2018/04/04

『殿さま狸』簑輪諒 感想

殿さま狸
殿さま狸
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蜂須賀といえば秀吉を支えた小六が有名ですが、
この本の主人公は息子の方である家政の方。
自身は十分に優秀といえる才覚を持ちながらも、
秀吉や小六といった英雄たちを身近に見ていたせいで
微妙に自己評価の低い家政が一人の大名として
自立していく姿を描いた歴史小説です。

この作品の家政は基本的によく悩み迷うのですが、
それを隠そうと常に強がっているのが特徴です。
一歩間違えると強がりが過ぎて嫌われそうな人格ですが、
彼自身が自分の欠点を弁えていてそれを補うために
考え続けるという努力をしているところは好印象。
自分の才能の限界を承知しているからこそ
常に自分の作戦に見落としがないか考え続ける
臆病なところは小心者としてはとても共感できますね。

序盤から思わせぶりに登場していた法斎の正体や、
作中で何度も使われていた川並衆という言葉が
クライマックスに結び付く構成もお見事。
関ヶ原に参戦せず出家したと見せかけて…という展開は
小説として上手く想像力を広げて作った感がありますね。
こういうのは歴史小説の醍醐味でしょう。

父親に対して素直になれない反抗期の青年が
狸と言われる大名にまで成長する姿を
見事に描ききった作品だと思います。
2018/03/17

『でれすけ』簑輪諒 感想

でれすけ (文芸書)
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北条と並ぶ関東の雄・佐竹義重の物語。

物語の期間は北条滅亡から関ヶ原の戦いまで。
時代の主役が豊臣から徳川へ移り変わる激動の時代を
名門佐竹家のトップとしてどう乗り切るのか
問われるというのが今回の作品の主なテーマです。

血筋と実績に裏打ちされた義重の落ち着きは頼もしい。
秀吉や家康に対しても畏怖を感じつつも
堂々とした応対を見せるのはお見事ですね。

ただ、その落ち着きゆえに時代の流れに対する反応は鈍く、
豊臣に近付く義宣と意見が分かれてしまうのが皮肉。
義宣が義重の愛刀を削って脇差にしたエピソードは好き。
義重は作中でも何度も戦国時代を懐かしがっていますし、
宮中政治には向かない武人として描写されています。

そんな佐竹親子が悪戦苦闘しながら
何とか時代の波を乗り切っていくのは面白いのですが、
やはり問題は関ヶ原の合戦での立ち回りです。
佐竹親子の小説ではここがクライマックスになることが
多いのですが、どう頑張って描写しても
実際に戦ってないので微妙に盛り上がりません。
江戸に特攻して自爆していれば
それはそれで物語として美しかったんですけどね…。

一定の面白さはあったのですが、
佐竹親子の扱いの難しさを感じる小説でした。
2018/03/15

『くせものの譜』簑輪諒 感想

くせものの譜
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御宿勘兵衛といえば知る人ぞ知る侍大将ですが、
彼のような戦場での仕事人が数多くいたのが戦国時代。
そんな戦人たちの生き様を描いた短編集。

英雄・武田信玄を間近で見続けた故に
自らが武田家を再興しようとした依田信蕃。
成り上がり者の秀吉の才覚を誰よりも認めつつも、
だからこそ負けたくないと逆らった佐々成政。
武勇優れた坂東武者として生きようとする野本右近と、
あらゆる手段を使って城を救おうとする伊達与兵衛。
結城秀康亡き後の越前藩を守ろうと奔走した挙句、
壮絶な殺し合いに至ってしまった家老たち。
いずれも理想の人生を歩めなかった男たちの物語ですが、
その結末は千差万別で面白かったです。

依田信蕃や佐々成政はやるだけやった感がありましたし、
野本右近と伊達与兵衛はハッピーエンドと言ってもいい。
逆に越前藩の物語は結城秀康の偉大さが
残された者たちの悲劇を呼んでしまったのが皮肉です。
こういう血を血で洗う内部抗争は好きなんですけど、
同時に胃がムカムカしてくるのが癖になりますね。

そしてそれら全てを見てきた御宿勘兵衛が最後の主人公。
戦歴も自信も十分で徳川家康からも評価されるほどの
勇名を得ながらも、大阪の陣で主人公になれなかった男。
ただ、真田信繁の圧倒的な才能に心を折られながらも
自らを奮い立たせて越前勢との対決に挑むその姿は
文句なしにかっこ良かったです。
戦国時代の男たちの熱い生き様、楽しませて頂きました。
2018/02/21

『うつろ屋軍師』簑輪諒 感想

うつろ屋軍師 (祥伝社文庫)
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丹羽家に仕え続けた江口正吉の物語。
長秀死後の丹羽家の領土大削減と改易、
大名家としての再生は知っていたのですが、
それを支え続けた重臣・江口正吉については
ほとんど知らなかったので新鮮な気持ちで読めました。

本作の正吉は気宇壮大な軍略家であると同時に
実現できない戦略を考え続けるうつろ屋(空論家)です。
そんな正吉が丹羽長秀や豊臣秀吉といった人物を
間近で見て学びつつ、持ち前の突飛な思考と
現実をすり合わせる術を会得していくというのが
本作も基本的な流れになります。

長秀没後、秀吉によって領土が削減され
次々と重臣たちが出て行く中、丹羽家に残って
立て直しを図るという展開は実に主人公らしい。
武力ではなく職人集団として功績を挙げるという発想は
うつろ屋の面目躍如といったところでしょう。

北陸の関ヶ原といわれた浅井畷の戦いも面白かった。
数では圧倒的に勝る前田軍に対して
だまし討ちと情報戦で対抗する丹羽軍。
敵役である前田利長もなかなかの切れ者に描かれていて、
緊張感のある読み合いが展開されるのが良かったです。

ただ丹羽家改易はちょっと駆け足になってしまったかな。
特にエピソードもない時期なので話を広げるのは
難しかったでしょうけど、ここまでが丁寧だっただけに
駆け足っぷりが目立ってしまった印象です。

とはいえ面白い作品であったのは確かで、
正吉以外にも前田利長や長連龍といった脇役の見せ方も渋く、
マイナーな人物の意外な活躍が楽しめる作品でした。
まだまだ作品数が少ないものの、
今後の活躍が楽しみな作者さんですね。