2017/09/28

『ハンニバル戦争』佐藤賢一  感想

ハンニバル戦争
ハンニバル戦争
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佐藤 賢一
中央公論新社
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名将ハンニバルが大活躍した第二次ポエニ戦争の物語。

ハンニバル戦争というタイトルですが、
本作の主人公はハンニバルのライバルであるスキピオ。
前半はまさにハンニバル無双といった感じで、
ローマは戦うたびに負けているという状況なので、
主人公であるスキピオも禿げ上がるほど追い詰められます。
親戚も次々と戦死して暗くなりそうな状況なのに
どこかコミカルで読みやすいのは佐藤さんの作風ゆえか。

後半はスキピオがその知識と才能を開花させるわけですが、
そこまでローマを持ちこたえさせたのがファビウス。
戦術面では無敵だったハンニバルを
戦略で押さえ込んだのがファビウスなわけですが、
こういう戦術を戦略で封じ込める展開は熱いです。
逆に戦略を戦術で突破する展開も好きですけど。
自分はファビウスについてはまったく知らなかったので
この人物のことを知れたのは大きな収穫でしたね。

しかしハンニバルの強さは凄まじい。
相手より少ない軍で包囲殲滅戦を行うとか、
当時の人間からすれば魔法としか思えなかったのでは。
作中でスキピオがハンニバル以前の戦術を学ぶより
ハンニバル自身の戦術を学ぶ方向へと舵を切りますが、
それだけ画期的な戦術家だったというのにも納得できます。

ハンニバルがすぐにローマを滅ぼさなかったことや
ザマの戦いでの敗北の原因がハンニバルの感情としたのは
賛否が分かれるところかもしれませんが、
こういう感情的な人間描写は佐藤さんらしさでもあります。
個人的には感情に振り回される人間は嫌いじゃない。
感情豊かなスキピオと冷徹なハンニバルの対比かと思いきや、
終盤でハンニバルの感情が明かされる流れはお見事でした。
スキピオもハンニバルも晩年は不遇でしたけど
彼らが残した戦いの軌跡は今なお輝き続けていることを
改めて教えてくれる作品でした。
2017/09/17

『九十三歳の関ヶ原 弓大将大島光義』近衛龍春 感想

九十三歳の関ヶ原 弓大将大島光義
近衛 龍春
新潮社
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弓術に生涯を捧げた一人の老将の物語。

物語は信長の美濃攻めから始まるのですが、
主人公である大島光義はこの時点で既に53歳。
戦国物としては異例の高齢主人公ではないでしょうか。

一般的な戦国武将で53歳といえば
長男に家督を譲って大御所として差配する年齢ですが、
光義の場合はまだまだ前線の一兵卒。
弓の腕ではそこそこ名が通っているとはいえ、
小者一人を連れてひたすら弓を引くだけの存在です。

面白かったのは作中の大半を一介の射手として過ごした点。
斎藤義龍の部下から始まって龍興、織田信長、信孝など、
次々と主を変えながら天下が統一されるまでの流れを
前線の兵士の視点で描いているのは新鮮でした。
主人への忠義と強い者に付く合理的判断の狭間で悩む姿は
一人の人間として共感しやすかった。

年を取って用済みと思われつつある老兵と
鉄砲の進化によって用済みと思われつつある弓を重ね、
鍛錬によって他人に一泡吹かせる展開も痛快。
90歳でも敵を射倒せる光義は超人だからこそですが、
それでも老人の活躍を見ると明るい気分になれますね。

光義は歴史に大きな影響を与えたわけではありませんが、
一つの道を極めるために死ぬまで走り続けることの
気持ち良さを教えてくれる作品だったと思います。
2017/09/04

『利休の闇』加藤廣 感想

利休の闇
利休の闇
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加藤 廣
文藝春秋
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日本史上、最も有名な茶人である千利休の物語。

期間としては秀吉と出会ってから利休が切腹するまで。
藤吉郎だった頃は利休を師として敬愛していた秀吉ですが、
天下人が見え始めた頃からその立場は逆転し、
最後には悲劇的な結末に辿り着くというのが本書の流れ。
基本的にはよく知られている歴史通りですね。

しかし細かいところでは目新しい描写が多かったです。
新参である利休と古参である津田宗及、今井宗久との争いや、
文化人として落ち着いたイメージが強かった利休にも
遊び人で傲慢な一面があったことなど、
利休を一人の人間として掘り下げていたのは好印象。

対する秀吉にしても一般的な暴君イメージではなく、
利休にも様々な原因があった結果の切腹という扱いです。
利休のわび茶は確かに文学として高尚なものですが、
秀吉の明るい祭りとしての茶会が間違っているかというと
決してそうではなく、どちらにも一理あると言えるでしょう。

ただ、秀吉と利休の関係は面白かったのですが、
投げっ放しの伏線も多いのが評価が難しいところ。
読後に調べて知ったのですが、どうやら同じ作者さんの
他の作品とリンクさせて考えた方が楽しめる作品のようで、
これ単品で読むとモヤモヤ感が残ってしまいました。
この作品の真価を楽しみたいのなら
まずは他のシリーズ作品を読むべきかもしれません。
2017/08/31

『戯史三國志 我が土は何を育む』吉川永青

戯史三國志 我が土は何を育む (講談社文庫)
吉川 永青
講談社 (2013-11-15)
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三国志の武将では地味な立場の廖化を主人公にした物語。
この廖化、前半生が謎な人物ではあるのですが、
この本ではむしろその前半生を重視し、
魏呉蜀を巡る冒険譚として描いているのが特徴ですね。

物語は少年だった廖化がまだ小物だった劉備に
拾われるところから始まるのですが、
放浪する劉備について回ったり、劉備と分かれて
今度は呉の程普に拾われたりしているうちに
一人前の武将として成長していきます。
恋愛や友情といった王道成分が多いこともあって、
前半は爽やかな気分で読むことが出来ました。

後半、劉備たち三兄弟が死んで孔明が踏ん張り、
更に孔明が死んで姜維に託されるという流れは
いつもの三国志なのですが、序盤から劉備の傍にいて
一人残される廖化の感じる寂しさは共感しやすかったです。
この一人残される感覚は序盤から読み続けた読者が
主役級に次々退場されていく寂しさに近いのでは。

年老いた廖化が最後に得た、いつまでも3国を
分立させておくべきではないという結論にも納得。
3つの国のそれぞれに大事な人がいる廖化だからこそ、
この3国状態の危うさを誰よりも実感できたのでしょう。
そう思いながらも、悪足掻きを諦めない姜維を
見捨てられないところは廖化の人の良さか。

廖化はもともとそれほど活躍した人物ではないですし、
それは主人公となったこの本でも同じなのですが、
英雄たちの傍らにあり続けた凡人として
これまでの人生経験から一つの答えを見つけたのは
一人の人間として立派な生き様だったと思います。
この作品は三国志の脇役たちを主人公に据えた
シリーズ物のうちの一作という扱いらしいですが、
他の作品にも手を出したくなりました。
2017/08/24

『我が名は秀秋』矢野隆 感想

我が名は秀秋
我が名は秀秋
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矢野 隆
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戦国時代で最も有名な裏切り者、小早川秀秋の物語。

物語は秀秋が小早川の養子に入るところから始まり、
前半は秀秋が元実家である豊臣家に失望する過程と、
義父である小早川隆景に救われる姿が描かれています。

自分が兄と慕った秀次を強引過ぎる濡れ衣で殺され
心に傷を負った秀秋を救ったのは新たな義父である隆景。
隆景による教育によって自信を取り戻した秀秋は
若年ながら大胆さと冷静さを併せ持つ青年に成長します。
そんな隆景から見ると秀吉亡き後の豊臣家は風前の灯。
早々と家康に通じ裏切りを画策したのは当然のことでしょう。

しかし自らの才覚を誇り過ぎたのは若さゆえの失敗か。
最終的にはそれを危険視した家康によって消されるという
夭折した武将のお約束パターンをなぞることになります。
家康の忍者軍団設定は便利過ぎるなぁ。

今回の話、秀秋の過去の出来事から
独特の人格が形成されるまでは上手く書かれていたものの、
家康が恐れるほどの才能の描写は薄かったですね。
関ヶ原での立ち回りも史実とほとんど同じですし、
その才能を実感出来る場面が少なかったのは残念でした。

ここらへんは『鬼手 小早川秀秋伝』の方が良かったなー。
あっちの秀秋は鳥居元忠と対面したり京極高次を寝がえらせたり
松尾山を攻め落としたりと、アクティブで面白かった。
石田三成も総大将に相応しい怖さがありましたしね。

今回の『我が名はry』も手堅い出来ではあるのですが、
折角悪名高き小早川秀秋という素材を料理するなら
もっと大胆に妄想を広げてもいいのではないかと思いました。