2017/12/07

『天下を計る』岩井三四二 感想

天下を計る
天下を計る
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岩井三四二
PHP研究所
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豊臣家の兵站を支えた長束正家の物語。

長束正家については伊東潤さんも書いていて
あちらの正家は全く融通の利かない石頭でしたね。
岩井さんの正家も数字に拘る頑固な面はあるものの、
人間的には好意的に見られる部分も多かったです。

この本の正家はとにかく計算が好きなのですが、
石頭なりに嫁や子供を大事にしていたり、
主君への忠義を持っていたりするところが魅力ですね。
正家の喜怒哀楽をしっかり描くことによって
冷たいロボットではなく一人の人間として描写しています。

検地によって全国の富を数字化することに
ロマンを感じるところは数字オタクらしいですが、
新しいデータを見たいという欲望には共感できます。
島津征伐や北条征伐の頃はやりがいのあった兵站管理が、
朝鮮出兵時には絶望しかない仕事になっているのも面白い。
かつて兵站を重視していた秀吉がボケていくことで
兵站軽視になっていくという書き方は新鮮でした。

関が原についてはあっさりした描写ですが、
小大名で活躍の機会もないことを考えると仕方ないか。
とはいえ、不正は許さないという生き方を
家康に対しても貫いた生き様は見事といえるでしょう。
切腹すらも仕事と考えて淡々とこなす姿に
彼の仕事人としての矜持を見せ付けられた思いです。
2017/11/26

『伊達の企て』近衛龍春 感想

伊達の企て
伊達の企て
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近衛 龍春
毎日新聞出版 (2016-04-12)
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遅れてきた戦国武将こと伊達政宗の物語です。

この物語の政宗は優秀な凡人という印象。
才能も度胸も並み以上のものを備えているものの、
秀吉や家康にはとても勝てそうにないです。
まあ、それでも何度も悪足掻きする諦めの悪さに対して
秀吉も家康も愛嬌を感じたのかもしれません。

タイトルにも企てとあるように、この物語の政宗は
しょっちゅう陰謀を練っているのですが、
どれもこれも他人の力に頼るものが多いせいで
最後まで空回りし続けることになります。
結果的に敗れたとはいえ西軍を主導した石田三成の方が
まだ大人物だったような印象を受けました。

とはいえ政宗の空回りは面白かったですね。
最上と上杉が戦ってるときに押されている最上のことを
散々馬鹿にしておきながら、自分が上杉に対して
有効な手を打てるかというとそうでもない。
豊臣家が健在なうちにイスパニアとの同盟を計るも
結果が出る前に大阪の陣が終わって後の祭り。
他にも一揆の煽動など策に溺れる様な面も多かった。

もっとも、これらの策謀に走ったのも伊達家の勢力が
大きくないからであって、それでも諦めない姿勢は
見習うべき部分も多かったと思います。
これだけ暗躍して一部バレてたりするものの
最終的には改易されずに家を残したのは確かですしね。
政宗の陰謀と愚痴ばかりの内容でしたけど、
雰囲気は暗くならずどこか爽快さすら残る作品でした。
2017/11/15

『決戦!関ヶ原』 感想

決戦!関ヶ原
決戦!関ヶ原
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葉室 麟 冲方 丁 伊東 潤 上田 秀人 天野 純希 矢野 隆 吉川 永青
講談社
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関ヶ原をテーマに7人の作家が書いている短編集。

まずトップバッターの伊東潤さんの徳川家康が面白い。
三成と家康が豊臣家の武断派七将を排除するために
手を組む場面から始まるのですが、
この機にお互いがお互いを除こうとしてるから油断できません。
陰謀が動き出してからのグダグダっぷりも面白い。
伏見城を無血開城する予定が鳥居元忠の暴走で城兵が玉砕して
家康が頭を抱える場面では笑いました。
その後も上手く行かずたまに家康が切れてるのが面白過ぎる。
伊東さんの作品では珍しいコメディ色の強い作品ですが、
またこういうのを読みたくなるぐらい楽しめました。

吉川永青さんが取り上げたのは可児才蔵。
関ヶ原で抜け駆けした井伊直政を福島正則陣営の可児才蔵が
追い回すというこれまたコメディ色の強い作品で、
お馬鹿な才蔵、正則と直政のクールな対応が好対照でした。
伊東さんの作品と吉川さんの作品は明るめですけど、
これは明るい話をわざと前半にまとめたのか偶然なのか。

天野純希の話は織田有楽斎が主人公。
腰抜けという汚名を晴らすために参戦しながらも
荒事には向いていないため無様を晒す有楽斎ですが、
大軍に翻弄される小勢という雰囲気はよく伝わってきました。
徹底して小人物として描かれる有楽斎も共感しやすかった。

上田秀人の宇喜多秀家の話はひたすら暗かったです。
徳川に付いた福島や加藤の恩知らずっぷりを愚痴り、
三成の机上の空論に呆れ、宇喜多から出奔した家臣達に怒る。
ひたすら文句と自嘲を繰り返し、あのときああすればと
言い続ける歴史小説というのはこれはこれで新鮮ですね。

矢野隆さんの島津義弘の話はこの本で一番好きです。
家康からも三成からも軽んじられた義弘が、
石田と徳川の戦いが終わった後に
島津と徳川の戦いとして仕切り直す拘り。
この頑固さこそ薩摩武士という感じで燃えました。

冲方丁さんの主人公は小早川秀秋。
秀秋が主人公の小説はいくつかありますが、
ここまで実利重視の人物として描いているのは珍しいかも。
とはいえ冷たいわけではなく、国を豊かにするということを
冷静に考えた結果家康に付くという考え方は面白かったです。

ラストは葉室麟さんの石田三成。
毛利の狙いが三成と家康の共倒れだったら…という発想を広げ、
三成が毛利を巻き込んで負けることによって
豊臣家の延命を図ったという筋書き。
これ自体は面白い発想でしたけど、最終的に徳川によって
豊臣家が滅ぼされてるせいでちょっと苦しかったかな。
もう一捻りあれば斬新な真相として素直に驚けたんですけどね。

そんな感じで実に読み応えのある短編集でした。
作家名を見てピンと来る人なら損はしない本だと思います。
2017/11/09

『戦旗 大坂の陣 最後の二日間』松永弘高 感想

戦旗 大坂の陣 最後の二日間
松永弘高
朝日新聞出版 (2016-01-07)
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大坂夏の陣、最後の2日間を描いた歴史小説。
今まで何度も描かれてきたこの戦いですが、
今作の特徴は松平忠明をメインという点でしょうね。

松平忠明といわれてもどういう人物なのか
思い浮かぶ人は少ないと思いますし、
実際それほど大した活躍をするわけではないのですが、
それだけに伊達や水野といった味方の立ち回りや
毛利に真田といった敵の奮闘に振り回される立場で、
他の大阪の陣小説とは少し異なる雰囲気になっていました。

徳川側からすると勝って当然の戦ですが、
だからといってサボってたら家康が怒りそうですし、
無様に戦っても改易されそうということで、
徳川側としても必死になっているのは面白いですね。
水野みたいに戦うために戦ってるバーサーカーもいますが。

大阪側は毛利勝永がメインになっていましたが、
大阪側の最後まで描くなら真田よりもこの人でしょうね。
最初から最後まで戦い続けたその姿は天晴れ。
とはいえ真田が活躍していないという訳ではなく、
一瞬の隙を突いて家康本陣に突入する流れは燃えました。

家康の描写も面白かったです。
的外れな和平交渉をしたりとボケた部分もあるのですが、
真田が近付くと一目散に逃げる決断の速さは逆に凄い。
他人から見るとひたすらかっこ悪いですが、
ここで討たれてたらそれこそ桶狭間再びですしね。
一人本陣に残された大久保彦左衛門の対応も見事。

たった二日間という短い戦いでしたが、
登場人物それぞれに見せ場がある熱い小説でした。
2時間ぐらいの疾走感のある映画に向いてそうな作品です。
2017/10/26

『決戦!本能寺』 感想

決戦!本能寺
決戦!本能寺
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葉室 麟 冲方 丁 伊東 潤 宮本 昌孝 天野 純希 矢野 隆 木下 昌輝
講談社
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本能寺の変について7人の作家が書いた短編集。

特に面白かったのは伊東潤さん、木下昌輝さん、冲方丁さん。
伊東潤さんと木下昌輝さんの作品はどちらも復讐譚ですが、
伊東さんの織田信房の話はマイナーな人物を抜擢して
本能寺の真相に結び付けたのに対して、
木下さんは細川幽斎という大物を扱っているのが正反対。
しかしどちらも復讐へ致る心情描写は見事でしたし、
信長の覇王の孤独を描いているのも面白い共通点でした。

冲方さんは明智光秀という主役級の素材担当でしたけど、
光秀の心情描写をゴリゴリ掘り下げていて良かったです。
平穏に生きていた光秀が信長という劇薬に魅せられ、
その姿を必死で追い続けた結果があの謀反という悲しさ。
信長の優しさがこの事態を生んだという救いのなさも良い。

逆に微妙だったのが天野純希さん。
島井宗室という商人が主人公でしかも一人称という
挑戦的な内容でしたが、いまいち盛り上がりに欠けました。
「一般人から見た本能寺の変」みたいな部外者メインの
短編集だとこれはこれで面白かったと思うんですけど、
今回は他が積極的に変に関わっていく話ばかりでしたからね。
宮本昌孝さんの家康も微妙に部外者でしたけど
まあ家康公には伊賀越えという十八番がありますし。

とはいえ微妙と書いた天野さんの話も
あくまでこの中でというだけで一気に読めましたし
全体的にクオリティの高い短編集だったことは確かです。
こういう多人数短編集だと信長にしても光秀にしても
バラバラな描かれ方をしているせいで直前に読んだ話とは
180度キャラが変わったりするのが楽しいですね。