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『ブルーネス』伊与原新  感想
ブルーネス
ブルーネス
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伊与原 新
文藝春秋
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伊与原新さんといえば理系ミステリーなイメージですが、
今回の作品はミステリー色薄めのエンタメ小説です。

テーマとなるのは新型津波感知システム。
舞台となるのは東日本大震災を経験し南海トラフが迫る日本。
主人公・準平の所属するチームは一刻も早い
新型システムの稼動を目指して動き出したものの、
そこには既存のシステムや学閥が立ちはだかることに。

国家レベルのプロジェクトとなると動きが鈍くなり、
革新的なシステムが受け入れられるには
実際の災害で実績を出すしかないというのは分かりますが、
災害から人間を守るシステムを認めさせるために
災害が必要というのはなんとも皮肉ですね。
机上の理論に資金を出せないというのも分かるのですが…。

とはいえ、これは権威側だけの問題ではなく、
災害対策に失敗したとき叩く市民側の問題でもあります。
前例も予算も時間もなく、それでも予報や分析を外したら
ボロクソに言われるんだから守りに入るのも分からなくもない。
この本の終盤のように海保(政府)と学者と民間が
それぞれ自分に出来ることで積極的に力になる心構えこそが
地震大国日本では求められているのかもしれません。

現在の災害対策の限界を見せつつも
その最前線で戦う人々の懸命さをしっかり描くことで
爽やかな読後感を与えてくれる小説でした。

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『ブレイン・ドレイン』関俊介 感想
ブレイン・ドレイン
ブレイン・ドレイン
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関 俊介
光文社
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テストによってサイコパスが隔離されるようになった世界で、
サイコパス判定試験に引っかかってしまった主人公が
なんとか真っ当な世界へ帰ろうと足掻くSFアクション小説。

前半の舞台である危険人物だけが隔離された島の
スラムっぷりはなかなか緊張感があって面白いですね。
単純に治安が悪化してモヒカンが徘徊しているような
世界観は近未来SFではよくありますけど、
一つの島がサイコパスの溜まり場というのは珍しいかも。

ラスボスもザ・サイコパスって感じで良かったですね。
人を騙して傷付けることを心底楽しんでるのが
伝わってきましたし、それでいて狡猾さも持っているので
絶対に出会いたくないタイプと言えるでしょう。

ただ、主人公は物足りなかったです。
お人好しで実に主人公らしいタイプではあるのですが、
設定で精神異常を扱っている割には普通過ぎでした。
殺意を読むという能力の使い方は面白かったですけどね。
どうせなら主人公もサイコパスか、サイコパスほどでなくても
性格的に何らかの異常なところがある人物だったら
もっと深い作品になったような気がします。

本作のサイコパス判定試験は結果的に穴があったわけですが、
近い未来、脳の仕組みが解明されれば判定は可能でしょう。
しかしいざ可能になったときどう対応するかについては
今から考えておいた方がいいのかもしれませんね。

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『漆黒の象』海野碧 感想
漆黒の象
漆黒の象
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海野 碧
光文社
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2つの奇妙な親子関係を扱った探偵小説。

自分が提供した精子から生まれた
5人の息子を探して欲しいという依頼は面白いですね。
依頼主である社長夫婦も何か隠していそうで先が気になる。
それに加えて主人公の過去に多大な影響を与えた
母子惨殺事件の真相も絡んできたりして、
序盤はなかなか複雑な展開を見せてくれます。

しかし最後まで読んでみると思っていたよりも
これら二つの事件が絡んでいなかったような印象でした。
特に息子捜索の方は序盤の謎が謎を呼ぶ展開の割に
拍子抜けのオチで、これなら息子の数を減らして
短編小説として書いた方がすっきりしたような気がします。

一方、母子惨殺事件の方はしっかり推理していて、
事件に隠されていた真相は面白かったですし、
話の重要な鍵となる青年・哲也の使い方や
主人公の過去と事件の関係などが
綺麗にオチに繋がっていたのは対象的でした。
とはいえ、これもボリューム的には中編レベルですが…。

なんだか、二つの作品を混ぜて長編に仕立て上げたものの
融合が上手く行かずに空中分解したような作品でした。
最初から短編集として出せばまた違ったかもしれません。

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『神様が殺してくれる』森博嗣 感想
神様が殺してくれる Dieu aime Lion (幻冬舎文庫)
森 博嗣
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久々に森博嗣さんの本を読みました。

フランスでの女優殺人事件を発端に様々な国で人が殺され、
最終的には日本で決着するというサスペンス小説。
基本的に主人公とかつてのルームメイトを中心に
物語が進んでいくのですが、美形過ぎるルームメイトの
怪しげな雰囲気はよく出ていたと思います。
ついつい誘惑されてしまいそうになるのも分かる。

ただ、前半の怪しげな雰囲気こそ良かったものの、
事件の後半はいまいち盛り上がりに欠けました。
様々な国を舞台にしているといっても
それぞれの国をあっさり通り過ぎるだけですし、
最後に日本にやってくる理由も薄くて、
これなら舞台をフランス国内に限定した方が
話の雰囲気に統一感が出て良かったような気がします。

真犯人の正体も唐突感が強く感じられましたし、
事件の結末自体も納得できるものではなかったです。
特に最初怪しげだったルームメイトが
後半では顔が綺麗な凡人になってしまったのは残念でした。
怪し過ぎて逆に黒幕ではないと思っていましたけど、
ここまで扱いが悪くなるとは思っていなかったです。
そのせいか読後感もモヤモヤした感じに…。
これならもっと徹底して救いのない悲劇だった方が
まだ読後感が良かったかもしれません。

性別ネタを使っている推理小説は数多くありますが、
この本はあまり気持ちのいい騙し方ではなかったです。

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『メガバンク絶滅戦争』波多野聖 感想
メガバンク絶滅戦争
メガバンク絶滅戦争
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波多野 聖
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メガバンクが大量の国債を購入した直後に利回りが急上昇。
それに伴って国債の価値が暴落し、破産の危機に陥った
メガバンクを巡って様々な勢力が暗闘を繰り広げる経済小説。

舞台になっている銀行のモチーフは三菱東京UFJでしょうか。
行内最大勢力である三菱閥が結構酷い扱いですが、
財閥系企業は動きが鈍い割にはプライドが高いという
よろしくないイメージがあるのも確かです。
合併ネタだと大抵は強い側が弱い側に対して
陰険な嫌がらせをしていますけど、実際はどうなんだろう。
さすがに本書のように名前を三菱銀行にしろみたいな
無茶で愚かな要望は出さないとは思いますが…。

体力が落ちた銀行を狙って個人投資家やファンドが
動き出すというのも経済小説ではお約束ですが、
今作では人間関係によって買収を回避するのがポイント。
過去の因縁がピンポイントで敵対組織のキーマンに繋がって
裏切りを誘発してくれたおかげで勝てるというのは、
ちょっとご都合主義過ぎるようにも見えます。
とはいえ、そうでもしないと敵側に隙がないですし、
お金だけでなく人間関係で決着が付くというのは
経済小説としては綺麗に終わっているようにも思えます。

でも主人公の扱いはふわっとした感じでしたね。
中間管理職で気弱ながらも決めるときは決める男ですが、
個人的にはこの主人公のプライベートは余分に感じました。
過去の恋とか嫁関連とかいまいち興味が持てなかった。
これなら主人公より上司である桂さんに重点を置いた方が
経済戦争を描写するという点では腰が座ったかも

そんな感じで割と引っかかる場面も多いのですが、
二転三転する国家規模の話は面白かったですし、
経済ネタも小説として分かりやすく読める作品でした。

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