2018/03/21

『永遠の殺人者 おんぶ探偵・城沢薫の手日記』小島正樹 感想

永遠の殺人者 おんぶ探偵・城沢薫の手日記
小島 正樹
文藝春秋
売り上げランキング: 846,552

巨漢におんぶされたお婆ちゃん探偵が
地獄を模した連続殺人事件の謎を追う推理小説。

両手首が切断された死体が発見されるところから始まり、
その両手首も貨物の中や壁の中から発見されるという
物語冒頭の掴みはよくできています。
人形の首が撒き散らされた第二の現場や
死体が竹に刺さった第三の現場もそうですが、
死体の演出という点においてはお見事でした。

メインキャラクターは4人なので
通常の探偵助手コンビと比べると多めですが、
いい感じでバランスが取れていて読みやすかったです。
探偵役は偏屈な性格をしていることが多いですが、
この作品は愛嬌のあるお婆ちゃんなのが良いですね。

犯罪のトリックについては運任せな部分が多く、
事件の動機についても不運が重なり過ぎていて
全体的にフワッとした印象になってしまったのは残念。
あと、いかにも思わせぶりだった安達刑事の過去が
結局明かされなかったのもスッキリしないところ。
まあ、安達刑事については真犯人っぽい描写でしたし
それにまんまと釣られた悔しさもあるのですが。

そんな感じでスッキリしない部分もあるのですが、
読みやすくてある程度の意外性も確保されているので
気軽に手を出せる推理小説だと思いました。
2018/03/09

『噂の女』奥田英朗 感想

噂の女 (新潮文庫)
噂の女 (新潮文庫)
posted with amazlet at 18.03.08
奥田 英朗
新潮社 (2015-05-28)
売り上げランキング: 33,965

噂の女をテーマにした短編連作小説。

舞台となるのは昔ながらのしがらみが多い田舎。
そんな田舎で様々な人物が糸井美幸という女について
噂するというのがこの本の基本的な流れ。

最初の短編を読んだときは何も解決していなくて
なんじゃこりゃ状態だったのですが、
読み進めていくうちに美幸が次々と愛人を乗り換え、
しかも死亡した愛人からは遺産を相続していることが
分かってくると一転して面白くなりますね。
あくまで殺しているのでは?という噂だけで
実際殺すシーンがないのが怪しさを倍増させています。

美幸が悪人なのは確かですけど、それに対して
周囲の風当たりが意外と優しいのは面白いところ。
殺された愛人の親族は怒っているものの、
遺産を取られたことに怒っているだけで
故人の死を悲しんでいる人間が少ないのが冷たい。

増してや血の繋がらない他人からすれば
お金持ちからお金をとって何が悪いという感じで
むしろ美幸の行動を応援してすらいます。
ここらへんは外野の無責任さをよく現していますね。

一人の女に振り回される欲深い関係者と、
それを面白おかしく噂する田舎の人間という
社会構造をブラックに描いていて最後まで楽しめました。
ちょっと人間不信に陥りそうですけどね。
2018/03/06

『僕たちのアラル』乾緑郎 感想

僕たちのアラル
僕たちのアラル
posted with amazlet at 18.03.06
乾 緑郎
KADOKAWA (2017-09-29)
売り上げランキング: 241,104

社会実験が行われているドームの中を舞台にしたSF小説。

将来の惑星移住のため、隔離された空間で
15万人が生活しているという舞台設定は面白い。
ただ、そこで起こったテロに青年が巻き込まれ、
苦い思い出とともに成長していく物語かと思いきや、
思ってたよりドロドロした方向へ進んだのは意外でした。

ともかく出てくるキャラクターたちがゲスばかりで、
父親は家族のことを欠片も愛していないですし
ヒロインにいたっては平気で人を殺すサイコパス。
そういうキャラクター設定が悪いという訳ではなく、
そんなヒロインに何故主人公が惹かれているのか、
いまいち説得力が感じられなかったです。
このお年頃の初恋なんてそんなもんかもしれませんが。

しかし主人公の親友までゲスなのには笑いましたね。
最初はギャルゲーの親友的な立ち位置だったのに
主人公の立場が悪くなると絶交したり、
彼女にストーキング行為してたりホントろくでもない。
彼女の方は普通にいい子だったのにあっさり死ぬし
なんかもう嫌がらせのような後味の悪さですよ。

ただ、閉鎖空間での世代交代による意識の変化や
テロ組織の変質など、話としては面白かったですし、
人間関係のグチャグチャっぷりを覚悟して読むのなら
普通に楽しめるSF小説なのかもしれません。
2018/03/04

『ライオン・ブルー』呉勝浩 感想

ライオン・ブルー
ライオン・ブルー
posted with amazlet at 18.03.04
呉 勝浩
KADOKAWA (2017-04-27)
売り上げランキング: 245,713

田舎の交番のお巡りさんを主人公にしたハードボイルド小説。

お巡りさんのハードボイルドというと違和感がありますが、
そこに田舎特有のドロドロした人間関係を挟むと
意外としっくり来るのが面白かったです。

事件の発端は一人のお巡りさんの失踪事件。
彼の親友だった澤登は彼が勤めていた交番に着任し、
何かを隠してそうな同僚たちと仕事していくのですが、
そこで新たな殺人事件が発生し…というのが序盤の流れ。

交番の同僚の一人である晃光がいいキャラしています。
犯人なのか、共犯なのか、それとも無罪なのか、
終盤まで上手く混乱させてくれるトリックスター。
物語が緩みかけるたびに登場しては思わせぶりな行動で
物語を引き締めてくれる存在です。

田舎で大地主が権力を持つのはよくありますが、
権力があるのは警察官も同じ。
特に地域と密接に結び付いたお巡りさんであれば
協力者を得て犯罪を揉み消すことも容易い。
そんなお巡りさんという立場で地元を守るために
手を汚せるか…というのがこの作品のテーマですね。

最終的に澤登は手を汚す方向に進むわけですが、
最初はどこか投げやりだった澤登が
強い意志で道を選ぶという終わり方なため、
正義と反する結末にもかかわらず爽快感がありました。
呉さんの作品は序盤の掴みのよさに反して
終盤小さく纏まってしまう感が強かったのですが、
今回はしっかり最後まで突き進んでくれました。
次回作も楽しみです。
2018/02/26

『ケムール・ミステリー』谺健二 感想

ケムール・ミステリー (ミステリー・リーグ)
谺 健二
原書房
売り上げランキング: 782,500

谺健二さんの久々の新作です。

奇妙な館でケムール人の仮面を被った引き篭もりが
次々と自殺するというへんてこな事件が発生。
偏屈な玩具屋である鴉原とその知人である多舞津は
更なる自殺者の発生を防ぐべく屋敷を向かうことに…。

というのが本作の導入部ですが、
ケムール人という単語から分かるように
古き良き特撮職人であり芸術家でもあった
成田亨が深く絡んで来るのが大きな特徴ですね。。

作品としては正統派の新本格ミステリー。
仮面を使った入れ替わりネタや大掛かりな仕掛け屋敷、
更に怒涛の如く流れる特撮や引き篭もりに関する薀蓄と、
これだけ新本格らしい作品は久々に読んだ気がします。

仮面による中の人交代ネタは読めてたんですけど、
これはむしろ読ませるためのネタという感じですね。
ミステリー好きなら更なる仕掛けを期待するでしょうし、
実際その期待に応えるどんでん返しを味わえました。

助手役である多舞津は助手としてはかなり鈍い方ですが、
いざというときの行動力は評価できる部分もあります。
探偵役である鴉原との関係は一見ギスギスしているのですが、
多舞津は鴉原の無茶振りに文句を言いながらも答えたり
鴉原は妻を失った多舞津を憎まれ口で激励したりと、
これはこれでいい関係なのかもしれません。

新本格ミステリーとしては直球ど真ん中なのですが、
最近こういう作品は読んでいなかったので新鮮でしたし
谺健二さんが久々に新作を出してくれたのも嬉しい。
寡作でもいいので今後も出し続けて欲しいところです。