2017/11/11

『イアリー 見えない顔』前川裕 感想

イアリー 見えない顔
イアリー 見えない顔
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前川裕
KADOKAWA (2016-11-26)
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主人公はつい最近妻を失った大学教授。
そんな彼のもとに深夜、謎の女性が訪れ、
それを機に彼の周りでは不可解な事件が多発するように…。

とにかく冒頭の女性が訪ねてくるシーンが不気味で、
いきなり不安を煽りまくってくるのが上手いです。
それに対して昼間は大学総長選挙での政治活動という
凄く俗なイベントが同時進行しているチグハグさも良い。
まったく関係ないように見える二つの出来事が
これからどう絡んでいくのかワクワクさせられました。

しかし中盤からは失速してしまった印象です。
学内選挙の方は情勢が二転三転して面白かったのですが、
教授と義妹(妻の妹)の行動がいまいちでした。
妻の妹との爛れた関係とか暗躍する宗教団体とか
色々な要素が絡んできたりするものの、
どれもこれも中途半端で盛り上がりに欠たまま決着。
いつの間にか最初にあった不気味な雰囲気も薄れ、
後半は何ともダラダラとした流れに…。

おそらく義妹がもっと恐ろしいキャラだったら
濡れ場でも怖さがあったんでしょうけど、
ごく普通の濡れ場という感じだったせいで
怖さまで流されてしまったような気がします。

前川さんの小説といえば不気味さが売りですが、
今回はそこがおざなりになってしまったのが残念。
ラストに思い出したように不気味な演出されてもなぁ。
次回作はもっと気合入った怖さを期待したいところ。
2017/11/02

『復讐屋成海慶介の事件簿』原田ひ香 感想

復讐屋成海慶介の事件簿
原田 ひ香
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復讐屋を営む成海のもとに持ち込まれる数々の依頼。
復讐屋を名乗るだけあって依頼人は復讐を望むわけですが、
この作品の新鮮なところは成海の本当の目的が
依頼人に復讐を諦めさせることだという点ですね。

依頼人を時には真摯に説得し、時には嘘情報で騙して
復讐を諦めさせるそのスタイルはなかなか痛快。
ターゲットの駄目なところを暴いて依頼人に
「復讐するまでもない」と思わせる手法は面白いですね。
説得の方で言っているのはごく普通の正論なのですが、
語り口がハキハキしているので読んでいてスッキリします。

事件は遺産争いや盗作など、殺人まとでは行かずとも
そこそこ真面目な事件ではあるのですが
雰囲気はコメディちっくなので気楽に読めました。
主人公である成海も助手である美菜代が
基本的にはお気楽な人物というのも大きいです。

ただ、メインの二人にしても依頼人にしても、
真剣な悩みや過去があるという点では同じで、
それをどう乗り越えるかがこの作品のテーマでもあります。
特に成海の過去は彼が復讐を否定する要因になっていて、
単なる綺麗事では終わらない重さがありました。

ただ、成海が言ってることも結局は感情論なので、
同じぐらい重い過去を持った復讐者が現れたときに
どう対応するのか、ちょっと見てみたかったり。
果たして平行線を歩むのか、それとも復讐を許すのか。
そこらへんを掘り下げる続編が読みたくなる作品でした。
2017/10/15

『ガソリン生活』伊坂幸太郎 感想

ガソリン生活 (朝日文庫)
伊坂幸太郎
朝日新聞出版
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伊坂さんの作品といえば毎回凝った構成が魅力ですが、
今回は一際凝っていると言っていいかもしれません。
何せ語り部が車なんですから。

今作の主人公はマツダの緑デミオ。
平凡な母子家庭の自家用車だった彼がひょんなことから
有名女優を乗せるところから物語は始まります。
物語の中心になるのは女優の死亡事故と、
極悪チンピラによる脅迫事件。
一見関係のない2つの事件がいつの間にか複雑に
絡み合っていくのは伊坂作品では定番のパターンですね。

主人公が車ということもあって、
人間が乗っていないときには人間の行動や会話を
知ることが出来ないという縛りは面白かった。
会話が描写されなくても車だから仕方ないと割り切れるので
作者の都合よく情報を隠せるのは便利過ぎますね。
これだけならずるく感じてしまうところですが、
その代わり車同士の会話で意外な情報が漏れてくるので
総合的に見るとアンフェアに感じないバランスは上手いです。
車が沢山出てくる作品だけに車の名前を知っている人と
知らない人では楽しさに差が出てしまうのは仕方がないか。

事件自体はシンプルでトリックも予想しやすいですが、
話の構成は逆転劇なので読後感は爽快でした。
登場人物に対してそれほど理不尽な結末がなく、
それぞれに妥当な評価が待っているので気持ちいい。
車たちの人間に対する考え方もいちいち面白く、
昔読んでいた車が主人公の童話を思い出しました。
2017/09/29

『バイバイ、ブラックバード』伊坂幸太郎 感想

バイバイ、ブラックバード (双葉文庫)
伊坂 幸太郎
双葉社 (2013-03-14)
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5股をかけていた男主人公がドナドナされる前に
5人の女性に別れを告げに行く物語。

5股というとどんなクズ男やねんって感じですが、
いざ読んでみるとこの男、それほど悪くはない人間でした。
もちろん5股をかけるという行為自体はクズですが、
これはそれぞれの女性を元気付けた結果なので、
むしろいいことをしたのではと思えてくるのが不思議。
そう思わせるところがこの男の性質の悪さでもあるのですが。

ハーレム物の主人公の長所で「優しいところ」を
挙げられる展開というものがありますが、
そういう部分を突き詰めて行ったのがこの男なのかも。
ただ、行き当たりばったりの優しさを突き詰めて
5人と付き合うところまで行ったこの男の場合、
最終的に1人を選んでしまうハーレム主人公よりは
一本筋が通っているといってもいいのかもしれません。

5人の女性のバラエティ豊かさもギャルゲちっくですね。
普通、子持ち、怪盗、薄幸、女優と、
微妙にありえそうな女性からまずありえない女性まで
個性豊かで毎回新鮮な気持ちで読むことが出来ました。
基本的にどの女性もいい人ばかりなのですが、
怪盗の人は行動が突飛過ぎて付き合うと疲れそうですね。
個人的には気丈な子持ち女性と、飄々としている女優が好き。

最後の6番目の物語のヒロインが
最初から主人公の隣にいた繭美というのもギャルゲちっく。
怪獣みたいな外見の暴力女が真のヒロインというのは
ギャルゲとしては尖り過ぎですけど、
傍若無人だった彼女が最後にデレる展開は胸に来ました。

最後は主人公が助かったのか分からない感じで終わりますが、
この男、いい奴とはいえ5股野郎には違いないので
助かって欲しい気持ち半分、助かって欲しくない気持ち半分…
なので主人公の行く末をぼかしたのは正解かもしれませんね。
2017/09/17

『無貌の神』恒川光太郎 感想

無貌の神
無貌の神
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恒川 光太郎
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恒川光太郎さんらしい雰囲気を持った幻想短編集。

「無貌の神」はどこかの村が舞台で神を殺したものは
神になってしまうという割とよくある設定の話なのですが、
そこに現代社会人が定期的に流れてくるところに違和感が。
このファンタジーなのに妙に現実感のある気持ち悪さは
恒川さんの作品特有の味になっていると思います。

「青天狗の乱」も同じで、基本的にはとある島を舞台にした
よくある昔話という感じの流れではあるものの、
それが妙に現実感のあるオチに繋がっているのが面白い。
「無貌の神」が幻想に飲まれる終わり方なのに対して、
こちらは現実に着地するハッピーエンド寄りなのもいいですね。

「死神と旅する女」は童話風SFって感じですね。
77人の人間を殺して日本の未来を変えた少女が
つまらないDV夫と結婚するのは意外性がありましたし、
黒幕的扱いだった死神の最後の行動も気が利いていて素敵です。
77人殺しという大冒険が終わった後の平穏な日常の方が
むしろどんでん返しの連続になるところは興味深い。
今回の6作の中では一番好きな作品です。

「十二月の悪魔」は近未来SFかな。
主人公である老人の語り口が幼くて違和感があるのですが、
犯罪者への刑罰として頭を弄られていたというのが
明かされるとストンと納得させられるのが爽快でした。

「廃墟団地の風人」はサスペンス風味。
前半で裕也と入れ替わると見せかけておいて
後半でハッピーエンドになるのはいい意味で裏切られました。
こういう人外存在と絡む話って人間主人公が多いですけど、
人外主人公をぐいぐい掘り下げていくのが恒川さんらしさ。

「カイムルとラートリー」も人外主人公。
喋る獣・カイムルに対して人間がしたことを考えると
カイムルが人間を恨んでもおかしくないのですが、
ただ穏やかに人間に寄り添う姿には神聖なものを感じます。
皇帝は高慢で酷い人間でしたけど、死ぬ間際の一言で
嫌いになれなくなるのは絶妙でした。
ラートリーという名前から神話関係だとは分かったのですが、
不勉強故にどの程度原点に添っているかまでは分からず。
それでも十分に楽しめる作品だったと思います。

うーむ、相変わらず外れなしの出来。
定番の設定で先が読めそうな話もあったんですけど、
読み終えてみると定番から半歩ずれている違和感が癖になる。
ハッピーエンドの作品が優しい世界を描いてるのに対して、
バッドエンドの作品も優しい終わりを描いているので
どの短編も穏やかな気持ちで読み終えることが出来ました。