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2010/08/31

『王道の樹』小前亮 感想

王道の樹王道の樹
(2008/10/23)
小前亮

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全ての民族がそれぞれの民族らしさを残したまま
平和に手を取り合える世界の創造を目指した秦の苻堅。
名軍師・王猛を得た彼は燕や涼を滅ぼして広大な版図を
築き上げますが、王猛の死によって雲行きは怪しくなり…。

戦乱が溢れるこの時代に民族融和という崇高な理想を
追い続けた苻堅の人格は素晴らしかったと思います。
文明が発達した現代でもこれを目指すのは至難の業。
違う民族出身で現実主義者であった王猛が苻堅の人格に
惚れて忠義を尽くしたのも分かる気がしますね。

しかし人の心は難しいもの。
苻堅がどんなに他民族を優遇して優れた治世を行おうと、
支配される側の欲望や誇りを抑えることは出来なかった。
この本は苻堅が淝水の戦いに敗れたところで終わりますが、
敗戦後に相次いだ反乱によってあっさり秦が滅ぶところまで
描かなかったのは作者のせめてもの温情でしょうか。

他者と仲良くしたいあまりに厳罰を与えることを恐れ、
結果的に他者の勢力を温存させてしまったのは皮肉としか。
かと言って他民族の勢力を削るようなやり方は苻堅の理想に
反してしまい、これはもう完全に袋小路な状況。
結局、この素晴らしい理想も時代の流れを読めない
夢でしかなかったってことでしょうかね。
史実特有のやるせなさが残ります。

この本では敗北した苻堅がまた理想を目指すような
終わり方をしていますが、史実での苻堅は敗北を期に暴君と
化してしまったらしく、理想を貫くことの難しさを感じます。
自分が上に立っている間は他人に寛容になれますが、
追い詰められると結局自分が一番大事というのが人間。
……と言いたくはないんですけどね。
やっぱり、難しいです。

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