2011/04/13

『立ち向かう者たち』東直己 感想

立ち向かう者たち立ち向かう者たち
(2009/06/23)
東 直己

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様々な事態に立ち向かう者たちの姿を描いた短編集。
立ち向かうと一言で書いてるものの何に立ち向かうかは
人それぞれで、常識に立ち向かう異常者や周囲の
期待に対して立ち向かう少年など、様々な事態に対し
立ち向かっている者たちの物語になっています。
中には爽やかな物語もあるものの、基本的には単純に
答えの出ない難しい問題を扱っている短編が多く、
全体的な雰囲気としては少し重い感じですね。
ただ、普段は目を瞑っている問題を突き付けられた
面もあったりして、考えさせられる点も多かったです。

ここからは収録作のうちいくつかの感想。

最初に収録されている「立ち向う者」がいきなり重い。
自分の娘が知的障害者に傷付けられた!というこのお話。
幸いにも娘に大した怪我もなく軽い気持ちで裁判に望んだ
主人公ですが、加害者を見て大きなショックを受けます。
反省の言葉を繰り返す加害者ですが、それは教えられた言葉を
繰り返しているだけであって意味が分かっているわけじゃない。
裁判の意味もよく分からないまま被告として教えられたとおりに
返答するしかないその姿は実に滑稽で、実に切ないです。
最後、どうすればいいか分からなくなって泣きながら
「なんとかしてやってください」
と繰り返す主人公に凄く共感してしまいました。

社会的なことを考えるとこの加害者には罰を与えるのが当然。
自分の身内が被害者になったら怖くてしょうがないですし。
ただ、それとは別に凄く納得できない気持ちがあるのも確か。
裁判の意味も、善悪の意味もよく分かっていない相手に
判決だけを投げつけて終わりにしていいものだろうか。
答えが出ることはなさそうです。

「重り」は逆恨みに関するお話。
自分の今の境遇の原因を他者に押し付け逆恨みしているものの、
実はそれが逆恨みだということに気付いているのがやるせない。
恨めば恨むほど行き場がなくなって重くなるんですよね。
結局のところ、自分で殻を破るしかないんですけど、
それが出来れば苦労はないという堂々巡りです。

「疑惑」と「責任」は対になっています。
「疑惑」で語られるのはまともな育ちをしなかったせいで
まともな生活が分からないまま落ちていく女の姿。
後先考えずにうっかり殺人まで起こしてしまうのが怖いです。
「立ち向かう者」でもそうでしたけど普通ということが
分からない相手に対して何か出来ることはないのだろうか。
「責任」はそんな駄目女と結婚してしまった男の話。
つい何事にも責任を感じてしまい相手に押されるままに
なってしまう主人公が、最後の最後に下した決断とは。
オチは綺麗に決まっていますがそれが皮肉ですね。

最後に収録されている「ケンシの人」は文句なしに爽やか。
重い作品が多い本だけに、この一本には救われました。
最後が「立ち向う者」でも面白かったかもしれませんけどね。

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