2017/09/06

『北斗 ある殺人者の回心』石田衣良 感想

北斗 ある殺人者の回心 (集英社文庫)
石田 衣良
集英社 (2015-04-17)
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一人の殺人者が回心するまでの物語。

主人公の北斗は両親に虐待されて育ったせいで
精神的なバランスを欠いたまま育ってしまった青年。
物語の前半は彼に対する虐待描写がメインになるのですが、
度重なる虐待によってひたすら親の顔色を伺うだけの
他人を信用できない少年へと育っていく姿が描かれています。

そんな彼が父親の死後に母親とも別れて
初めて自分のことを愛してくれる義母に出会うのですが、
更にその義母が詐欺に騙され、義母が病死した後に
詐欺犯を殺そうとしたところで別人を殺してしまう…と、
ここまででもドラマチックな展開なのですが、
物語の本題はここからの北斗の心の動きになります。

もともと北斗は真面目な青年なので
殺人事件を起こした自分は死ぬべきだと思うわけですが、
これが一見反省しているように見えて実に軽いんですよね。
しかし自分の命を何よりも軽く考えている人間にとって
果たして死刑がどれだけの罰になるのかというのが
この作品の重要なポイントの一つでしょう。

裁判が始まってからはこの部分が更に掘り下げられます。
ただ自分が死ぬべきとだけ考えていた北斗は
遺族たちと向き合うことで自分の罪について実感し、
更に裁判の過程で自分の過去の全てを明かされることで
空っぽだった自分を再構築していくこととなります。
北斗が最後に辿り着いた結論は殺人とは程遠い
人間として誰もが持っている感情だったわけですが、
だからこそ共感しやすくて北斗の哀れさが伝わってきました。

弁護士先生のキャラも良かったですね。
死刑反対派というと現実ではいいイメージがないですが、
この人の場合は犯罪者も生きて考えて反省するべきだと
心から思っているのが伝わってきました。
最初は自分は死ぬべきという一点で思考停止していた北斗が
遺族や弁護側の必死さをに対して本気で答えなければと
思い始めたのは、この弁護士先生の功績が大きいでしょう。

陰惨な物語(特に前半)でしたけど、読後感は爽やか。
虐待されて壊れてしまった人間が殺人という大事件を経て
再構築されていく流れが克明に描かれている小説でした。
主人公である北斗だけでなく北斗に家族を殺された遺族や
北斗を助けようとする人たちなどにも共感できましたし、
そこがこれだけリアルな感動を与えてくれたのだと思います。

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