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『光圀伝』冲方丁 感想
光圀伝
光圀伝
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冲方 丁
角川書店(角川グループパブリッシング)
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水戸黄門として名高い徳川光圀を主人公にした歴史小説。

水戸黄門といえば元副将軍な好々爺というイメージですが、
この小説における光圀は老いてなお苛烈という印象。
まず老体でありながら家老を刺し殺す場面から始めることで
今までの水戸黄門のイメージを初っ端から吹き飛ばしています。

その後、物語は光圀の子供時代からの成長を追うわけですが、
ここで重要となってくるのが「義」という概念について。
兄ではなく自分が跡継ぎに選ばれた光圀は
そのモヤモヤのせいで不良生活を送ることになるのですが、
自分にとっての「義」を見つけたことでその生活が一変します。

その「義」とは兄の子を自分の跡継ぎとすること。
それによって政権は正統の下へと還り、
自分の中の鬱屈も解消されるというのが光圀の考え方。
親としては自分の子を跡継ぎに立てたくなるのが当然ですが、
それだけにこの考えを実践してみせたのは確かに見事でしょう。
特に血を血で洗うお家騒動が日常茶飯事だった時代では
この一件をもってして光圀が聖人扱いされたのも当然かと。

しかしここから更に掘り下げてみせたのがこの物語の凄さ。
中盤に現れ光圀にその才を愛された少年・紋太夫。
後に家老となり光圀に刺殺されることになるこの男。
光圀を慕いその全てを叩き込まれた俊英ですが、
それ故に光圀が到達できなかった領域まで達してしまいます。

その紋太夫の考えとは、大政奉還。
政権を正統に戻すという点では光圀と同じですが、
それを更にスケールを大きくした考えと言えるでしょう。
しかし後の明治維新時ならともかく、今は平和な幕府全盛期。
大政奉還がいくら正しくても、結果的に平和が乱れるわけで
それを是としなかった光圀は紋太夫を手討ちにすることに…。

いやはや、見事な物語構成というしかないでしょう。
未熟で迷走していた光圀が悟りを経た末に教える側へと回り、
教えられた紋太夫によって光圀は更なる深遠へと到達する。
愛弟子を始末した光圀はとてつもなく苦しかったでしょうが、
同時に出来過ぎた愛弟子を誇らしく思っていたかもしれません。

「義」という考えやその助けとなる教育が
時には人を傷つける酷い悲劇を招くものであったとしても、
それすらも糧として生きていこうと思わせてくれる作品でした。
これだから歴史小説は面白い。

テーマ:歴史小説 - ジャンル:小説・文学

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