2016/07/12

『光秀の定理』垣根涼介 感想

光秀の定理 (単行本)
光秀の定理 (単行本)
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垣根 涼介
角川書店
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垣根さんといえばハードボイルドなイメージですが、
今回は初めて歴史小説に挑戦した模様。
その題材として選んだのは稀代の謀反人として有名な明智光秀。
果たして垣根流の歴史小説の出来や如何に…。

光秀という人物は小説家にとって実に魅力的な素材なようで、
今までもあの手この手で様々な掘り下げられています。
自分が直近に読んだ本でも博打好きのカブキ者だったり
認知症に苦しむ老人だったりと、面白い書かれ方でしたが、
それらと比べるとこの本の光秀は比較的マトモですね。
愚痴っぽくて感激屋なところはあるものの、
基本的には真面目な堅物であるその姿は多くの人が想像する
光秀像に近いものであるような気がします。

しかし面白いのは描写方法。
確率論を駆使した博打で儲ける坊主・愚息と
剣術馬鹿である新九郎という二人の人物と絡ませることで
他の歴史小説とは一線を画した雰囲気を見せています。
出来る大人と青臭い青年が絡む成長物語というのは
垣根小説ではよく見るシチュなんですが、
歴史小説でこういう青春風なのは意外と少ないような気が。

三人が出会った時点では一番子供っぽかった新九郎が、
ひたすら剣を振り続けて行くうちに
一種の悟りの領域まで達するというのは面白い。
好きだという一点を極めればここまで成長できると思うと
読んでいる側としてもなんだか希望がわいて来ますね。

一方、光秀はというと一生懸命突き進んだとはいえ
最後には責任感に押し潰されてしまったのが哀れ。
ここまで来る前に全部投げ出しても良かったのでは…
とは思うものの、その愚直さもまた光秀の魅力なワケで、
そんな彼だからこそ愚息や新九郎も友人になったんでしょう。

光秀の生き方はブラック企業で働く現代人そのものですが、
そこらへんはリストラ小説を書いている垣根さんらしい描写。
垣根さんと歴史小説の相性がどうなのか不安もありましたけど
今回は予想以上の結果を見せていただきましたし、
歴史小説ジャンルでの次回作も楽しみですね。

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