2016/05/24

『聖徳太子: 世間は虚仮にして』三田誠広

聖徳太子: 世間は虚仮にして
三田 誠広
河出書房新社
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日本人なら知らないものはいないほどの有名人である
聖徳太子の一生を描いた長編歴史小説。

この時代の歴史小説はそれほど多くないのですが、
信頼できる資料の限られている時代だけあって、
限られた資料から想像しがいのある題材だと思います。
この小説では一般的には聖人として扱われている聖徳太子を
一人の人間として掘り下げているのが新鮮でした。

頭脳明晰な神童、と書くと聖徳太子のイメージ通りですが、
この本の場合はその明晰さゆえに他の人間を見下す、
冷徹な人間という描写が出発点になっています。
卓越した知識量に裏づけされた絶対的な正しさを持つが故に
他者が愚かにしか見えないのは分からなくはないですが、
一般的な聖人とは程遠い人物なんですよね。

国のために法や秩序を整え安定した社会を作るという思想や
実際に残した実績を見ると名君といえるのは確かですし、
その後の日本に多大な影響を与えたのも事実ですが、
一方で家族に対しては冷たく、どこか怖さを感じさせる人物。
しかしそんな彼が蘇我氏との付き合いや仏教の研究によって
少しずつ人間として柔らかくなり、最後に母や息子との
わだかまりを解くシーンにはホロリとさせられました。
冷たい人間が温かい感情を取り戻すというのはお約束ですが、
それを聖徳太子でやったのが非常に面白かったですね。

もう一つ面白かったのが聖徳太子と蘇我蝦夷の関係。
聖徳太子が皇室を祭り上げて平和を作ろうとしたのに対し
蘇我蝦夷は蘇我氏の支配によって平和を作ろうとするのですが、
同じ平和を目指す者として通じ合っているのがいいですね。
蝦夷の思想にしても武力ではなく政治による支配ですし、
日本を高度な国家に成長させるという目標は太子と同じ。
甥である山背大兄王を非常に可愛がっているところは
後の政変を知っている者としては切なかったです。
この本の蝦夷は太子の対になる人物として書かれていますが、
こちらも上手く掘り下げられていたと思います。

しかし虚仮って馬鹿にするイメージしかなかったんですけど
元の意味は違ったんですね…勉強になった。

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