2015/03/31

『王になろうとした男』伊東潤 感想

王になろうとした男王になろうとした男
(2013/07/29)
伊東 潤

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伊藤さんお得意の短編歴史小説集。
今回は織田信長の関わった5人の男の物語です。

内訳としては毛利新助、塙直政、中川清秀、
津田信澄、彌介といった戦国時代に詳しくなければ
誰か分からないのではというチョイスになっています。

毛利新助と塙直政の物語は対になっているのが特徴。
桶狭間で大戦功を上げながらそれ以降は地味で
最後は信忠の元で一介の槍持ち武士として終わった新助と
出生街道をひた走り国持ち大名にまでなりながら
最後に大コケしてしまった直政の対比が面白いです。
出世競争から脱落しても愚直に職務をこなす新助に対して
信長・信忠親子がかけた言葉が本当に暖かく、
「果報者の槍」というタイトルに相応しい内容でした。
桶狭間でも本能寺でも信長のために戦えたというのは、
確かに武士として最高の人生だったかもしれません。

一方で直政の生き方が悪かったかというとそうではなく、
自分の実力以上のものを求めて全力疾走するという人生も
これはこれで読者の胸を打つものがありました。
本人が満足して死んでいったというのも爽快感があります。

中川清秀の話はミステリー風味。
前半は中川清秀が荒木村重を陥れる内容で、
後半はその村重が清秀に復讐するというのが大筋です。
村重の賤ヶ岳の戦いを利用したダイナミックな復讐方法は
歴史小説ならではという感じで目から鱗でした。

津田信澄の話は彼が丹羽長秀に討たれた理由が主題。
信澄を本能寺の黒幕とすることで彼が討たれたことに
説得力を持たせつつ、更に真の黒幕は秀吉と長秀という
二段構えの凝った構成になっているのが売りですね。
秀吉黒幕説自体は新鮮さがなかったものの、
ダークヒーロー的な長秀というのは珍しかったです。
信澄は典型的な策に溺れる小才子ですが
個人的にはこういう人間、嫌いではなかったり。

彌介の話は冒頭でアフリカ生活が始まったときには
何事かと思いましたけど、最後まで読んでみると
しっかり戦国歴史小説をしているのだから面白いです。
信長が黒人相手でも差別意識が全くないというのが
妙にイメージ通りなのは彼の革新性ゆえか。

伊東さんの信長イメージは自分の役割を
きっちり果たす者に対しては意外と寛容で、
それができない者に対しては苛烈という感じなのかな。
秀吉は本能寺の黒幕という大役の割には
彼自身の心の底がまったく見えてこなかったですし、
いつか秀吉メインの話も書いて欲しいですね。

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