2015/03/13

『賢帝と逆臣と 小説・三藩の乱』小前亮 感想

賢帝と逆臣と 小説・三藩の乱賢帝と逆臣と 小説・三藩の乱
(2014/09/11)
小前 亮

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中国・清王朝初期の大乱である三藩の乱を扱った歴史小説。
時代的には小前さんの『李巌と李自成』の続きであり、
李自成の勢力に止めを刺した呉三桂の物語でもあります。

物語の中心となるのは清の四代目の皇帝・康熙帝と、
雲南の支配者であり反乱の首謀者でもある呉三桂。
更に客観的な視点としてオリキャラである李基信という
三人の視点を交互に切り替えながら話は進みます。

紆余曲折を越えて名君として成長していく康熙帝と
物語開始時には既に汚い裏切り者として扱われている
呉三桂の立場を上手く対象的に見せているのは上手い。
ただ、やはり素材としては呉三桂の方が面白かったのか、
全体の描写としては呉三桂の方が魅力的に見えます。
李基信も呉三桂の方に肩入れしていますしね。

呉三桂といえば清に降り漢民族を売った卑怯者で、
しかもその後は清に対して反乱を起こすという
裏切り人生のおかげですこぶる評判は悪いですが、
この本の呉三桂は男としては非常に共感しやすいですね。
明を滅ぼした順を清の力を利用して滅ぼし、
返す刀で清を追い出して救国の英雄になるという野心。
普通ならただの夢物語で終わるんでしょうけど、
それが出来そうな位置にいたのが呉三桂の不運でもある。

実際、非常に有能な人だったとは思うんですよね。
漢民族からの評判が最悪な状態で反乱を起こしながら
自身が死ぬまでは持ちこたえたという事実を見ると、
指揮官としての優秀さはもちろん、部下からの人望も
かなり高かったと見て良いのではないでしょうか。
この小説の呉三桂にしても色々と欠点はあるものの、
そこが完璧超人とは異なる魅力に感じられます。

ただ、天下人になるには少しだけ勇気が足りなかった。
清に対抗するなら明の生き残りがいるうちに
反乱を起こすべきでしたし、三藩の乱を起こした際も
優勢なうちに長江を越えて進撃するべきでした。
優秀なだけに好機を伺って用心深くなってしまい、
結果的に唯一博打に勝ったのが清を招き入れたこと。
しかし彼自身の名声は地に落ちてしまったのが皮肉です。

ただ、そんな思い切りのなさすらも共感できますし、
だからこそ死ぬ間際の「長江を渡れ」というセリフには
激しく胸を打たれるんですよね…目頭が熱くなりました。

小前さん、最初は立派な英雄を書くイメージでしたけど、
男の屈託描写に力を入れ始めてから化けたと思います。
次回作が楽しみな作家の一人ですね。

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