2013/02/07

『城を噛ませた男』伊東潤 感想

城を噛ませた男城を噛ませた男
(2011/10/18)
伊東潤

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後北条家に纏わる5つの物語を収録した短編集。
表題作「城を噛ませた男」は直木賞候補になりました。
ついこの間も「国を蹴った男」が候補にあがってましたし
これはもう伊東さんの受賞もそう遠くはないかも?

「見えすぎた物見」は何ともやるせないお話ですね。
上杉と北条に挟まれた係争地で織田の侵攻、本能寺の変、
秀吉の北条征伐、更に関ヶ原まで生き延びた小豪族が
最後の一手でしくじって台無しにしてしまうという展開。
常識的に見ると素晴らしい判断だったんですけど、
それが致命的な失敗を招いてしまうのがこの時代の難しさ。

「鯨のくる城」は一転して爽快な短編。
いやはや、まさか鯨漁からこういう話にを持っていくとは。
個人的には伊東さんはこういう大味な爽快さを出すのは
苦手なのかと思っていたんですけど、これは良かったです。
いい意味で荒唐無稽に突っ走ってる。

表題作である「城を噛ませた男」は真田昌幸が主人公。
後北条氏滅亡の原因を作った猪俣邦憲が最初から最後まで
昌幸に踊らされていたという発想にはゾクゾクします。
最初から最後まで昌幸の底知れなさが光るお話でした。
「城を噛ませた男」というネーミングは秀逸。

「椿の咲く寺」はこの本では少し異質かな。
大局から外れた復讐の話なので規模は小さいのですが、
いつもと違い時代背景を思い浮かべずに読めるのが新鮮。
規模の小さな騙し合いもこれはこれで面白い。
オチは半分読めて半分騙されたといったところ。

「江雪左文字」は「見えすぎた物見」と対になる一編。
自らの才覚を隠し切るという一見後ろ向きなお話なのに、
それでここまで気持ちよさを出せる上手さは凄いです。
特に最後の1ページのやり切った感はお見事。
このオチをやるなら本の最後に持ってくるのは当然か。
主人公に向かって全力で拍手したくなりました。

伊東さんの長編も決して悪くはないんですけど、
それ以上に短編の切れ味の凄まじいですね…。
毎回毎回読んだ後の充実感と疲労感が気持ちいいです。

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