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『蜃気楼の犬』呉勝浩 感想
蜃気楼の犬
蜃気楼の犬
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呉 勝浩
講談社
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とある地方都市で起こった陰惨な難事件を
二周り年下の妻を持つ刑事・番場が解決していく短編集。
なんでしょうね、この全編渡って漂うじっとりした雰囲気は。
ある意味、梅雨に読むのに相応しいのかもしれませんが。

最初の2本はバラバラ死体に空を飛ぶ死体と、
いかにもミステリー小説という事件。
しかしどちらも実につまらない人間による犯行で、
この世に夢もロマンもないということを見せ付けてくれます。
警察小説としては面白いのでまったく問題ないですが。

次の2本は弱者の醜さを描く物語。
容疑者が一人しかいないので犯人は絞られていますが、
その容疑者が弱者側なので何か事情があったのだろう…
と思いきや、その事情がなかなかの身勝手っぷり。
しかしそれに対して法が適切な裁きを下せるかというと
これまた微妙なところで、法の無力さを実感します。
番場が個人的な判断で裁いているという状況は
法の番人としてはあってはならないことなのですが
他にやりようがあったかと言われると…。

そして最後はありふれた復讐劇。
ありふれていますが、だからこそ同じ状況になると
自分も復讐に走ってしまうと共感してしまいます。
もしかしたら、自分の身内を殺した犯人が分からない方が
幸せなのかもしれないと思ってしまいました。

ただ、番場と二周り年下の妻の関係の裏には
ドロドロした何かが隠されていると思っていたのですが、
そこらへんがスルーされたのは物足りなかったですね。
番場も妻もどことなく頭がおかしい雰囲気を出してたように
感じたのですが、特に大きな破綻も無く終わりましたし。
いや一応別居とかしてますけど、もっと凄いのが来ると
思っていたので拍子抜けした感があります。

とはいえ全体的に漂う重い雰囲気は素晴らしく、
事件の意外なオチという点でも満足できました。
どんでん返しでより救いの無い動機が明かされる展開は好き。
この作者さんの作品はデビュー作である「道徳の時間」も
楽しめましたし、今後も追って行きたいと思います。

テーマ:読書感想文 - ジャンル:小説・文学