2017/06/28

『風の如く 久坂玄瑞篇』富樫倫太郎 感想

風の如く 久坂玄瑞篇
風の如く 久坂玄瑞篇
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富樫 倫太郎
講談社
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維新初期の大物である久坂玄瑞の物語。
…とはいっても他の登場人物の出番も多く、
実際には久坂が活躍した時期の群像劇という感じです。

物語は松陰の死後から始まるわけですが、
いかに俊英揃いとはいえ松陰という強力なカリスマを失った
松下村塾のメンバーは時勢に対して有効な手が打てず、
歯がゆい状況のまま蛤御門の変を迎えることになります。
蛤御門の変だけを見ると久坂たちの無謀な暴挙に見えますが、
そこに至るまでの長州藩の混沌っぷりを見ていると
あそこで戦うしかなかったのかもと思えてきますね。

途中で長州藩の方針が二転三転するのはとても面白い。
尊皇攘夷を掲げたかと思えば公武合体を唱え、
かと思ったら再び尊皇攘夷を唱えだす。
これでは志士たちからの信用もガタ落ちですわ。
ただ、幕府の力も外国の力も分からない状態だと
こうやって右往左往するのも仕方ないとも言えます。
これは正確な情報よりも過激な思想を重視して
突っ走っていた時代特有の迷走なのかもしれませんね。

ただ、久坂自身が冷静なインテリということもあって
行動が突飛な高杉晋作や同じインテリでもより突き抜けている
大村益次郎と比べると地味な存在になっているのが惜しい。
終盤でも述べられているように人としてまともで
兄貴分として付き合いやすいのは魅力ではあるのですが、
この激動の時代で主導権を握るには強かさも行動力も
ちょっと足りなかったかという印象です。

恐らく最後まで桂辺りと歩調を合わせていれば
維新を生き延びて英傑として称えられたでしょうけど、
蛤御門の変の参加してしまったのが致命的でした。
もっとも天狗党などの挙兵事件や数々の暗殺事件を見ると
どこに地雷があるか分からないのがこの時代ですが…。

久坂玄瑞の物語としてはちょっと物足りなかったですが、
この時代特有の熱い雰囲気は感じ取れましたし、
長州藩の内情を楽しむには良い小説だと思います。