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2016/12/03

『道徳の時間』呉勝浩 感想

道徳の時間
道徳の時間
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呉 勝浩
講談社
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第61回江戸川乱歩賞受賞作。

かつて講演会で300人が見守る中に起こった刺殺事件。
犯人は「道徳の問題」と言ったまま口を閉ざし13年後、
この事件のドキュメンタリー映画が撮られることに。
カメラマンとして撮影に参加した伏見は
撮影を続けるうちに監督の行動に不信感を持ちはじめ…。

まず設定が非常に魅力的ですね。
果たして300人の目撃者は本当にナイフを見たのか。
被害者と加害者、目撃者の本当の関係とは。
映画の撮影は冤罪を匂わせながら進むのですが、
あからさま過ぎてそれが真相ではないのは分かる。
しかしそれならこの物語に隠されているものは何なのか。
という不気味さにグイグイ引き込まれました。

ドキュメンタリー映画の撮影という手法も
通常のミステリーの捜査パートとは一味違っています。
自分の想像通りの絵を撮りたいという欲望と
事実を明らかにしたいという欲望に挟まれ足掻くのは
ジャーナリストという立場ならではのもの。

ここで問題となってくるのが「道徳」ですね。
芸術のためにどこまで無茶をできるかというぐらいなら
まだ分かりやすいですが、更に正義を行うために
人としての道を踏み外すとなると答えは迷宮入りに。
この作品の主要人物はそれぞれが譲れないもののために
暴走といっていいほどの無茶をしてしまうわけですが、
それに対して法ではなく個人として許せるか許せないか、
その基準になるのが道徳ということなんでしょうか。
作中の子供ですら持っていた自分個人としての行動基準を
いい大人である自分が持っているかというと…。

単に道徳を守るというだけではなく、自分だったら
どういう状況ならそれを踏み越えられるかというところまで
考えさせられる作品だったと思います。