2015/12/26

『東京自叙伝』奥泉光 感想

東京自叙伝
東京自叙伝
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奥泉 光
集英社
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ジャンル的には歴史ファンタジーになるのかな。
主人公は東京に巣食う地霊で、彼が様々な人間に転生しながら
江戸時代末期から現代までの日本を眺めていくのがこのお話。

主人公となるのは6人の人物。
侍・柿崎幸緒、関東軍軍人・榊春彦、戦後ヤクザ・曾根大吾、
政界参謀・友成光弘、バブル時代のビッチ・戸部みどり、
そして原発ジプシー・郷原聖士という流れになっていて、
いずれの人間もぞれぞれの時代を表した人物像になっています。

150年程度の物語にしては転生ペースが速いですが、
これは本人が死ぬ前に別の人間に転生することもあるからで、
それによって自分が分裂するというのが面白い。
ある時代の主人公の視点で別の時代の主人公の結末が
知らされたりして、普通の歴史小説とはちょっと違った感じで
時代の流れを感じさせられるのが新鮮でした。
…たまに主人公同士で殺し合ったりしてますが。

6人の人物に共通しているのは割とクズであるということ。
まあ根が同じ人格なので当然っちゃ当然なんですけどね。
基本的にその場の雰囲気に流されやすいんですけど、
本人も言うようにその流れに便乗するのが非常に上手く、
しかもそれを悪い方へ煽るのが巧みだから性質が悪い。
他人が自分のせいで死んだ場合でも「悪いことをしたなぁ」の
一言で済ませてあっさり忘れてしまうからどうしようもないです。

ただ、この作品の主人公群を見ていると
どこか共感してしまう面があるのもまた確かなわけで、
流れに乗って騒ぎ、祭りが終わるとあっさり忘れる軽薄さは
東京、そして日本という国をよく現していると思いました。
戦争や安保デモ、バブルといった、その時代の代表的な空気を
馬鹿馬鹿しく描いてはいるものの、それで説教するわけでもなく
「壊れるなら壊れるで別にいいんじゃない?」というような
投げやりな結論に繋がっているのもどこか心地よいです。
駄目だと分かっていてもずっと放置してしまうこの性格が
代々伝わる日本人的なものだと描写されていて
どこか安心してしまうという恐ろしい小説でした。

こう書くとどんよりとした描写ばかりに思えてきますけど、
主人公が徹底的に軽くてストーリーも波乱万丈なので、
話の先が読めずワクワクさせてくれるのが凄まじいです。
この壮大なテーマ性と軽快なエンタメ性の両立は奥泉さんらしい。
日本近現代史の総括として大河ドラマで見てみたい作品です。