手を出したものの感想を書き溜める場所
『野望の憑依者』伊東潤 感想
野望の憑依者 (文芸書)野望の憑依者 (文芸書)
(2014/07/09)
伊東 潤

商品詳細を見る

室町幕府の立役者の一人であり足利家の執事として
尊氏を支えた高師直を主人公にした歴史小説。

この小説の師直は徹底した実力主義者であり
足利家に天下を取らせるためには手段を選びません。
彼の最終目的な足利将軍家の下で天下を差配すること。
そのために頼りない主である尊氏を時に叱責し時に煽てて
室町幕府の成立まで導いていくことになります。
この小説の尊氏は欝描写が多いこともあって
その世話を焼く師直が凄くいい人に見えてきます。

しかし実力主義と標榜しながら主筋である
尊氏や直義に冷徹に対応できなかったのが運の尽き。
最後はだまし討ちに近い形で滅ぼされてしまうのですが、
あと一歩で鎌倉幕府における北条氏になれたと思うと
なんだか非常に勿体無く思えてきます。
まあ、ここで尊氏たちを討てなかったところが
師直という人物の面白さでもあるのですが。

話として盛り上がりに若干欠けた感があるのは
ライバル的な人物の活躍が少なかったからか。
楠正成は流石にオーラがありましたけど、
史実的に早く死ぬこともあって出番は少ないですし、
後半の政敵である直義はなんだか地味な人物です。
それを補うためか参謀役の佐平次の出番が多いものの、
この人物にしても立ち回り方こそ面白いものの
物語を引っ張るような強烈な個性は欠けています。
ここは直義に強烈な個性をつけた方がよかったかも?

その点、この作品の尊氏は個性的ですね。
情緒不安定で他人の口車に乗せられまくりですし、
勇敢なのかヘタレなのかさっぱり分かりません。
躁鬱の気があったという説もある尊氏ですが、
こんな人間に振り回される方は溜まったもんじゃない。
あまりにも何を考えてるのか分からな過ぎて
逆にこいつ主人公の物語を読みたくなるぐらいです。
馬鹿を装って権力者同士を潰し合わせて
幕府の基礎を築いたという説もありますが…。

高師直という目の付けどころはよかったですし、
並みの歴史小説程度の面白さはあるのですが、
伊東さんの作品としては少し物足りなかったかな。
後醍醐天皇や直義なども掘り下げて欲しかったですね。

テーマ:歴史小説 - ジャンル:小説・文学