2013/10/11

『遠乃物語』藤崎慎吾 感想

遠乃物語遠乃物語
(2012/07/19)
藤崎 慎吾

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かの有名な遠野物語のオマージュ作品。
「願わくはこれを語りて平地人を戦慄せしめよ」

人類学者・伊能嘉矩と青年・佐々木喜善が
異界「遠乃」で経験する数々の不思議現象。
それらを解決しながらこのマヨイガから
抜け出す方法を探るというのがこの本の大筋。

題材となるのは山姥や河童といった
メジャー過ぎる妖怪から、デンデラ野や
オシラサマという遠野特有のネタまで一通り。
それらの不思議現象をホラー気味に描きつつ、
その根源を民俗学的に分析していくという
一粒で二度美味しい作品になっています。

いやーこの作品の雰囲気、素晴らしいですね。
舞台である明治三九年は日露戦争の直後。
都会では文明化が著しいとはいえ、
地方ではまだまだ伝承が力を持っていた時代。
ちょっと前までは農村での口減らしが
日常的に行われていたということを考えると、
そこらに祟りが溜まっていてもおかしくない。
そこに蝦夷の祟りも結びついたとなると…。

一見、長閑で落ち着いた農村の暗部と、
それを巧みに覆い隠している民話の数々。
隠蔽したいはずの話を伝え続けるのは
やはり当時としても罪悪感が強かったからか。
民話と懺悔の意外な共通点を見た気分です。