2013/02/16

『掏摸』中村文則 感想

掏摸(スリ)掏摸(スリ)
(2009/10/10)
中村 文則

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とあるスリの青年を主人公にした犯罪小説。

自分に足りないものを求めるかのように
淡々とスリを繰り返すという人物描写は面白い。
スリだけして生きていたせいで無意識のうちに
物をスってしまうという状況も妙な説得力がある。
自分に似た少年の世話を焼いてしまう展開も
ありがちではありますが感情移入しやすいです。

そんな彼の前に現れた絶対悪の男・木崎。
人を恐怖で支配するといういかにもな悪役ですが、
こういう男に人質を取られると逆転は不可能。
人殺しのリスクを散々理論的に語っておいて
笑いながらサクッと殺すとか性質悪過ぎですよ。
悪役としての怖さレベルはかなりのものです。

ただ、物凄く面白くなりそうな展開だけに
結末を投げ捨ててしまったのが非常に残念。
気まぐれに人生が終わらせられる理不尽さが
作品のテーマの一つになっているとはいえ、
もっとこの主人公の話を見たかったですね。
ただ、それだけに主人公のこんな終わり方は
嫌だという無念さは実感しやすくなっています。

でもやっぱりもう少し掘り下げて欲しかったなぁ。
塔の話とか木崎とか美味しい素材だっただけに
いくらでも長く出来そうだと思うのですが。