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『悪と仮面のルール』中村文則 感想
悪と仮面のルール (100周年書き下ろし)悪と仮面のルール (100周年書き下ろし)
(2010/06/30)
中村 文則

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この世界に害を成すためだけに存在する
「邪」の後継者として育てられた主人公が
その運命に苦しみながら生きていくお話。

ではあるのですが、終わってみると
一人の青年の純愛物語だった気もします。

前半は少年だった主人公が特異な家庭環境に
振り回されながらも、初恋の少女のために
父親の殺害を狙うという青春小説風な流れ。
美少女と同居して仲良くなっていくという
甘酸っぱい雰囲気と、その背後に忍び寄る
破滅の気配の対比が実にいいバランスでした。
じわじわと追い詰められて殺すしかないと
思い詰めてしまうところが若者らしいですね。
でもこういう一人で抱え込んだうえに
前へ進もうとする少年は嫌いではないです。
進む方向が間違っていたとしても。

後半は成人した主人公が再び初恋の女性を
守るために次々と邪魔者を始末する話。
こういう話の場合、主人公が独りよがりで
気持ち悪いダメ男として書かれていることも
多いのですが、この本は違いましたね。
主人公が日頃から淡々としてて
殺される方が文句なしに悪だからかなぁ。
法律的な問題は置いておくとして
心情的には殺して正解だったと思いますし。
初恋の結末に関しては定番のものでしたけど、
私としてはこの切なさが好みではあります。

人を殺すのは悪いことだとしても、誰かを
守るためには殺すしかない場合もあって、
殺したのが正解だと思っていてもその後
ずっと魘されたりして、でも自分が
誰かを助けたことで救われたりもして…。
世界に対する悪意の塊である「邪」という
大風呂敷設定の割に、最後に辿り着いたのが
個人の救済だったというのはなんとも皮肉。
でもこのちゃぶ台返しは実に爽快でした。
人間ってやっぱり素晴らしい。

テーマ:読書感想文 - ジャンル:小説・文学