2012/11/20

『化身』宮ノ川顕 感想

化身化身
(2009/10/22)
宮ノ川 顕

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日本ホラー小説大賞で見事大賞を勝ち取った
「化身」と、その他二本の中編を纏めた一冊。

まず表題作である化身。
これが文句なしに素晴らしいです。
南の島の密林で大穴に落ちてしまった男が
生き延びようと試行錯誤していくうちに
環境に合わせて少しずつ体が変化していき…
という話なのですが、話の透明感が凄いです。

自分の身体が変化していく、という普通なら
ホラーっぽい展開なのにあえてホラー的な
雰囲気を排除し、生きるための変化として
淡々と描写しているのが逆に印象的な作品。
主人公自身もまず何よりも生き延びることが
第一であるため、肉体の変化に対しても
恐怖より便利さを覚えているのが新鮮です。

穴の中という限定された舞台なのに
蟹や魚を捕まえて食べたりお酒を作ったりと
色々なイベントがあるのにも感心させられる。
サバイバル物としても楽しむことが出来ます。

そして最後のオチ。
まさか人間に戻って途方にくれるとは。
正直、魚のまま死ぬと思っていたのですが、
人間に戻って投げっ放しの方がずっと深いな。
このまま人間として密林をさ迷うもよし、
再び穴に入って魚人生活へ戻るのもよし。
本人にとってはどっちが幸せなんだろうか…。

というような感じで「化身」が優れている分、
他の二編の印象が薄いのは仕方がないか。
両方ともネタやストーリーはよくあるもの。
ただ、どちらも描写力自体は素晴らしく、
ありがちなネタで読ませる力は感じられます。
雰囲気作りは上手い作家さんだと思うので
「化身」のような特殊なシチュをどれだけ
思い付くことが出来るかが勝負ですかね。