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『競馬の終わり』杉山俊彦
競馬の終わり競馬の終わり
(2009/10/20)
杉山俊彦

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第10回日本SF新人賞受賞作品。
二十二世紀、ロシアの植民地と化した
日本で競走馬のサイボーグ化が決定された。
馬主、調教師、騎手、弁務官、そして生産者。
生身の馬が活躍する最後のダービーに向けて、
男達の狂気と執念が走り出す――。


これは世にも珍しい競馬SF。
SF賞を取っていますが作品内容としては競馬小説ですかね。
舞台設定はしっかりSFしているのですが、基本的には
様々な形で競馬に関わる男達の物語になっています。

私の競馬に対する知識は小説で得た程度。
基本的な知識こそあるものの、特に好きでもないです。
しかしそれでも十分に楽しめるのがこの本。
内容が内容だけに競馬に関わる様々な職の人間が
出てきますが、どれも読みやすく解説されるので
最後まで特に混乱することなく読み進められました。

脇役に回っているSF設定も面白いです。
ロシアによる武力侵攻や腹に埋め込む複脳など、
これはこれで一つの小説が作れそうなテーマを
惜しげもなくばら撒いているのが好印象。
同時に、大統領が寿司で死亡とか複脳ジャンキー略して
フッキーというような皮肉の効いたネタもちらほら。

しかし本題はやはり競馬。
そしてそこから描かれる中年男達の狂った夢の残滓。
弱小牧場でダービー馬の夢にしがみ付く者、血統を信じて
近親交配馬を作る者、自分の手で競馬を終わらせようとする者。
中年男達の体臭が匂ってきそうなじっとりとした心理描写は
共感できる部分も多くむしろ現代社会的な物を感じるのですが、
そこに未来的なSF設定が入り込むことでいい意味で
違和感が発生し、妙に頭に残る雰囲気を生み出しています。
この雰囲気は癖になる。

競馬SFという言葉に癖はあるものの、
作品自体は非常に読みやすく出来ているかと。
素直に面白かったです。

テーマ:読書感想文 - ジャンル:小説・文学