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2018/11/11

『くるい咲き 越前狂乱』大塚卓嗣 感想

くるい咲き 越前狂乱
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大塚 卓嗣
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越前朝倉氏といえば信長の敵対勢力として有名ですが、
この小説ではその朝倉氏滅亡後の越前の混乱、
そして騒動の主人公ともいえる富田長繁の活躍を
彼の背中を撃った小林吉隆の視点から描いています。

この作品の富田長繁は己の欲望のまま動く危険人物。
しかしその直感力や戦の腕は本物で、
最後の吉隆の裏切りがなければ第二の織田信長に
なっていたかもしれないというのが作中での評価です。

越前の混乱や富田長繁の行動は前からは知っていたのですが、
改めて見てみると確かに長繁の行動はキレッキレですね。
朝倉滅亡の前兆を感じるといち早く織田に寝返り、
前波吉継の政治の綻びを見るや越前に一揆衆を引き込んで
吉継を討ち取り、更に一揆衆と敵対すると
数万の一揆衆に700の軍勢で挑んであっさり勝利する。
この史実での行動力だけでも大したものですが、
作中の描写も長繁の異常さを強調する方向です。

織田信長にできて自分にできないはずがないという思考。
敵が10万と聞いた時にも「桶狭間の戦い」よりも
美味しい戦いが出来そうでラッキー程度の反応ですし、
相手が武士だけでなく農民も多い一揆衆とはいえ
この戦力差で何度も勝利しているのは凄まじいです。
だからこそその溢れんばかりの狂気と才能を恐れ、
ともに戦争地獄を進むかここでお終いにするか悩んだ末に
運任せで弾を放った小林吉隆にも共感できました。

この時代の越前を扱った小説を読んだのは初めてですが、
混乱期の越前の中で短期間といえど輝いていた
富田長繁の怖さが実感できる作品でした。
2018/11/08

『秀吉の活』木下昌輝 感想

秀吉の活
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木下 昌輝
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豊臣秀吉の生涯を描いた短編集。

木下昌輝さんといえば歴史上の有名人物を
ホラー的な切り口で描く斬新さが魅力だったのですが、
今作については真っ当な歴史小説という感じで、
全体的に物足りなさの残る作品でした。

秀吉というこれまで腐るほど書かれた人物を扱いつつも、
意外性を出そうとしているのは感じられるんですよね。
山崎合戦で自らの手で光秀に止めを刺すところとか、
賤ヶ岳で恥も外聞もなく利家に泣きついて
裏切らせるところとかは他では見ない展開です。
あと、秀吉物なのに小六の出番がほとんどないのも珍しい。

ただ、肝心の秀吉の性格がいまいち面白くない。
感情豊かな凡人として描こうとしたのは分かりますが、
あまりにも凡人過ぎて天下人の凄みがありません。
無能というわけでもないですが有能でもなく、
天下人になれたのはご都合主義にしか見えなかったです。
ここは凡人ならではの強さを見せて欲しかったところ。

新聞連載の短編として読むなら
これでもあっさり読めていいんでしょうけど、
一冊の本として読むと後に残るものが少なかったです。
2018/11/04

『画狂其一』梓澤要 感想

画狂其一
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江戸時代後期の絵師、鈴木其一の物語。

私自身はこの本を読むまでは鈴木其一について
まったく知らなかったのですが、
北斎や広重と同世代の絵師なんですね。
作中では其一以外も様々な絵師の名前が登場するので、
彼らの作品を検索しながら読み進めたのですが、
素人から見ても素晴らしい作品が多くて勉強になりました。

内容としては其一が師匠に弟子入りしてから
亡くなるまでが書かれているので、
江戸時代の絵師たちの生き方がよく分かります。
自分で絵を描いても弟子であるからには
師匠の作品として出すしかないのは芸術家としては辛い。

ただ、自分の名前こそ出せないものの
代筆は暗黙の了解として知られていますし、
師匠もあちこちに連れ回してくれるおかげで
幅広いコネが出来るのでそのメリットも大きい。
ここら辺のシステムはなかなかよく出来ているなと。

其一と、その師匠である抱一の
「自分が一番上手い」という自負はいいですね。
どちらも表面上は穏やかなのですが、
その内面は絵師としての貪欲さが溢れています。
そこにどうやって折り合いをつけて自分の技術として
昇華していくのか、丁寧に描かれていました。

その反面、終盤はあっさりしてましたけど
絵師として自分の道を見つけて大成した後は
エピローグみたいなもんですしまあ仕方ないかな。
江戸時代の絵師の生き様を感じられましたし、
日本画の展覧会に行きたくなるような小説でした。
2018/11/02

『残り全部バケーション』伊坂幸太郎  感想

残り全部バケーション (集英社文庫)
伊坂 幸太郎
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時系列がバラバラの短編を読んでいくことで
物語が見えてくるという伊坂さんらしい短編連作集。

まず1ページ目で家族の話かと思ったのですが騙された。
いやまあ最初の話は家族がメインではあるのですが、
この本の真の主役は最初の物語の主役である家族ではなく、
飄々とした不思議な雰囲気を持つ青年・岡田と、
その上司である粗暴なおっさん・溝口の二人。
どちらも実に伊坂さんらしい人間だと思います。

特に面白かったのは2章と5章ですね。
2章は岡田がターゲットに特定の情報を与えることで
勝手に想像させ出鱈目を信じさせるという話。
ターゲットにターミネーターを見せたり
偽の新聞を見せたりして徐々にタイムスリップの実在を
信じさせるという作戦は、大人の財力とコネを使った
壮大な悪戯という感じで、ワクワクさせられます。

最終章である5章はこれを溝口がやる話。
ここまで粗暴で行き当たりばったりだった溝口が
亡き岡田の手法を真似て相手をハメるのは爽快感抜群。
岡田についてのどんでん返しは
伊坂さんならこう来ると思っていましたけど、
まあそれはそれで期待通りなので問題なし。
でもラストについてははっきり描写する方が好きかなぁ。
こういう終わり方が似合う作品もありますが、
この作品はしっかり着地して欲しかったかも。

そんな感じでラストはちょっと引っかかりましたけど、
意外な人物が意外な役割を果たすという
伊坂小説の醍醐味は感じられたので満足できました。
2018/10/29

『警視庁捜査二課・郷間彩香 ガバナンスの死角』梶永正史 感想


班長を任された女性刑事が空回りしつつも奮闘する警察小説。
シリーズ物らしいですがこの本から読んでも楽しめました。

警察小説といえばハードな雰囲気の物が多いですが、
この小説は比較的ライトな雰囲気で進むのが特徴ですね。
主人公である郷間刑事はボケもツッコミもこなしますし、
地の文もコミカルな表現が多いのでサクサク読めます。
推理中に指が動きまくるという気持ち悪い癖も面白い。

そんな感じなので事件の重さや怖さは薄めですが、
地味な事件からどんどんネタが繋がっていって
大物の黒幕に辿り着くという基本は抑えられています。
相棒のセクハラ中年刑事や県警の古株刑事といった
個性豊かな刑事たちと最初はぶつかり合うものの、
話が進むにつれて打ち解けていくというのもお約束。

決して強い特徴があるわけではないですが、
笑いあり推理あり、そしてちょっぴり泣ける場面ありと
軽めの推理ドラマを見るノリで楽しめる作品でした。