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2022/04/03

『戀童夢幻』木下昌輝 感想

戦国時代の衆道関係、念友に焦点を当てる…と見せかけて
実際にはこの時代に花開いた文化芸術に関する連作小説。

主人公となるのは森蘭丸、梅若太夫、
千利休、不破万作、そして徳川家康の5人。
この5人それぞれに関係する大事件の裏には
実は謎の踊り手・加賀邦ノ介が絡んでいたという、
他では見られない切り口の作品となっています。

小姓から芸術家まで立場が全く違う主人公たちですが、
話に共通しているのは芸術が絡むことですね。
最初の森蘭丸、梅若太夫の話で衆道のドロドロした
嫉妬描写が多かったので衆道の話かと思ったのですが、
終わってから考えると衆道文化を掘り下げてたのかなと。
千利休あたりは完全に文芸面での戦いの話でしたし。

加賀邦ノ介の正体についてはこじつけと思うか
そう来たかと思うかは微妙なところかもしれません。
個人的にはいい意味で裏切られましたけどね。
それより最後の話の徳川家康の小物っぷりがちょっと残念。
物語のラスボス的な立ち位置なんですけど
普通のスケベ親父っぽさが強くて盛り上がりに欠けました。
文芸は権力を超えるというオチ自体は好きですけどね。

そんな感じで衆道描写が非常に多いので癖がありますが、
他の小説とはちょっと違う戦国時代が楽しめる作品でした。
2022/03/24

『乱都』天野純希 感想

応仁の乱から戦国時代にかけての京都を舞台にした連作小説。

お題として選ばれたのは畠山義就、細川政元、大内義興、
細川高国、天文法華の乱、足利義輝、足利義昭と多種多様。
これらを題材にした作品が時代の流れ通りに並べられていて、
それぞれの話の繋がりがあるのが面白かったですね。
どの話も面白かったのですが、全部感想書くと長いので
特に印象的だった話だけピックアップしてさらっと書きます。

畠山義就は一代の傑物として書かれていますね。
何度も追い詰められながらも武力知略を尽くして立ち向かい、
幕府を敵に回しながらもついには討ち取られなかった英雄。
一時は天下人を目指してそこには届かなかったものの、
自分の国を築きそこそこ満足死ぬという生き方は憧れます。

大内義興の生き方もまた一つの理想でしたね。
天下人になれる器でありながら危ない賭けには出ず、
的確に状況に対応して京への執着もなく帰国する。
負け惜しみでなく本心から京より山口が好きと言えるのは
これもまた一つの強さなのではないかと感じました。

天文法華の乱を一般市民視線で描いていたのは新鮮。
戦への恐怖と高揚、損害と利益が混ざりあった結果、
制御不能な大乱に育っていくのは恐ろしいです。
民衆の生活が今より不安定だったからこそ、
戦の旨味に吸い寄せられる人間も多かったんでしょうね。

足利義輝は自分の立場に対して終始イライラしていたものの、
最後の最後で自分の本当の望みに気付いたのが良い。
建前をすべて捨てて最後に残ったのが
日本の頂点に立ちたいという願いだったのは
シンプルなだけに純粋さが感じられて爽快感がありました。
2020/11/28

『呉漢』宮城谷昌光 感想

光武帝配下の雲台二十八将の二位、呉漢の物語。

下層の農民から光武帝政権の最重臣まで上り詰めるという
サクセスストーリーなのですが、主人公である呉漢が
功名心が薄く落ち着いた人格なところは宮城谷さんらしい。

物語の前半でオリジナルキャラやエピソードを盛って
物語として楽しめるように作るのも宮城谷さんらしさですね。
まず様々な特技を持つ仲間を集めてチームを作り、
それを中枢として兵を率いるようになるという流れは
いつもの流れはあるんですけどワクワクさせられます。

オリキャラの中でも特別なのは呉漢の師匠ともいえる祇登。
呉漢と出会った頃は知識と頭脳こそあるものの
仇討ちに囚われ、性格も少し捻くれていたのですが、
呉漢の中にある大器に魅せられてからは
教養のない呉漢をサポートすることが生きがいになります。

こいつを育てていけば面白い光景を見られるかも、
程度の考えで呉漢を育て始めた祇登ですが、
呉漢が成長するにつれて祇登が持っていた
捻くれた部分も消えていくのは良かったですし、
最終的に祇登が呉漢を庇って死ぬというのもエモい。
この祇登の生き様は物語として綺麗に纏まっていて
宮城谷さんのキャラの中でも心に残る存在になりました。

久々に宮城谷さんの作品を読みましたが、
この爽やかさと広大さを感じさせる作風はやっぱ好きですね。
2020/04/22

『信長を生んだ男』霧島兵庫 感想

信長を生んだ男
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織田信長物語の序盤最大の敵である織田信行の物語。
信行は歴史小説での出番は多いものの、
主人公として扱われている小説を読むのは初めてかも。

この作品の信行は、有能な優等生であるところは
数々の信長小説で描かれてきた人物像に近いです。
ただ根本的に兄大好きであるところが大きな違いですね。
ちょっと病んでるブラコンキャラというのはFGOに近い。
兄の才能に嫉妬しつつもそれ以上に兄大好きというのは
捻くれたブラコン好きにはたまらない性格でしょう。

終盤の展開も面白かったです。
信長を非情にするために自分を殺させるというのは
愛の重い作品では割とよくある展開なのですが、
そこに帰蝶を巻き込んだのは面白い。
子供こそ産めなかったものの信長の母代わりとして
確固たる地位を築いていた帰蝶を信行が殺すことで、
信長が信行を殺すしかないように仕向ける。
信長、帰蝶、信行という仲の良かった三人の関係が
信長の尻を叩くために崩壊していくのがたまりません。
帰蝶早死に説をこう使ってくるのは新鮮でした。

織田信行の最期は信長による暗殺と言われていますが、
その裏にこういう事件があったのかもしれないと
妄想させてくれる、良い作品だったと思います。
2020/04/16

『敗れども負けず』武内涼 感想

敗れども負けず
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歴史の中での敗者たちに焦点を当てた短編集。

いずれの短編も敗者を扱っているため
結末がすっきりしない話が多いのですが、
扱っている人物が珍しいので退屈はしませんでした。
敗者を扱っている割には読後感は重くなく、
短編なので心情を深く掘り下げていないところが
かえって読みやすさに繋がっているのかもしれません。

メインになるのは上杉憲政、板額御前、
龍造寺隆信、足利持氏の子である春王と安王、
そして源頼朝の庶子である貞暁。
長編の主役になれそうなのは龍造寺隆信ぐらいかな。
板額御前なんて歴史小説で初めて見たかも。

どの短編も短い中で各人物にとっての重大事件を
読みやすくさらっと描いていたのですが、
一番読後感が良かったのは貞暁の話ですね。
他の話はただでは負けないという感じであるものの、
結局負けであることには変わりはないのですが、
貞暁の話だけは勝ち寄りの結末です。
頼朝の子でありながら将軍にならないという選択は
一見負け組に見えるものの、自らの生き様を
しっかりと貫いているので読後感が爽快でした。

短編なので読後の達成感は控えめですが、
珍しい人物の話を気軽に読めるのは良かったです。