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『ビビビ・ビ・バップ』奥泉光 感想
ビビビ・ビ・バップ
ビビビ・ビ・バップ
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講談社
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猫と音楽とSFの入り混じったファンタジー小説。
一応、奥泉さんの過去作品と繋がりがあって
そちらを読んでいればニヤリとできる場面もありますが、
この作品から読んでも十分楽しめると思います。

主人公は女性ジャズピアニストのフォギーさん。
34歳という現代では中年に当たる年齢ですが、
舞台となる21世紀末は平均寿命が大きく伸びたせいで
まだまだ精神的にも肉体的にも若者といっていいレベルです。
他にも紙の本が絶滅して本屋がなくなってたり
携帯端末も装着型になっていたりと、
想像しやすい近い未来の姿が描かれているのが面白い。
お墓ですらネット上に作るとなると
風情もなにもあったもんじゃないようにも思えますが、
作中のようなお見送りが出来るならこれはこれでありかも。

そんな世界でちょっとお間抜けなフォギーさんが
人類の命運を握るゴタゴタに巻き込まれるのがこのお話。
話の肝となるのは人類VSコンピューターという
使い古されたSF作品と同じネタなのですが、
作中の人物も使古されたネタだと分かっていても
コンピューターの暴走を止められないのは少し怖いです。
まあ、今の自分たちにしてもコンピューターに対して
どんな手が打てるのか微妙なところですが。

この場合のコンピューターというのも
厳密にコンピューターといっていいのか微妙なところで、
人間の記憶をそのまま移したコンピューターを
機械として扱っていいものかというのはありますし、
同じ意識でも人の身体を失うだけで変質してしまうと思うと
これまた怖いようなやるせないような気持ちになります。
逆にかつての偉人の技術だけを移植されたロボットたちが
勝手に動き出して最後にセッションするシーンには、
意思の有無とか細かいことはどうでもよくなるぐらいの
カタルシスを感じさせられたりもしました。

奥泉さんの作品は地の文の軽快さが特徴ですけど、
話の方もめちゃくちゃ凝っていて面白いので
そろそろ長編の一本ぐらいは映画化して欲しいところ。
今作なんかは音楽シーンとかSFシーンとか
ビジュアル的に面白いシーンも多いですしね。

テーマ:読書感想文 - ジャンル:小説・文学

『金閣寺の首』朝松健 感想
金閣寺の首
金閣寺の首
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朝松 健
河出書房新社
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室町時代を舞台にした幻想怪奇小説集。

どの小説も面白かったのですが、
特に面白かったのは京都に取り付かれた大内家の話と、
奇妙な妖怪に取り付かれた足利将軍家の話。
どちらも歴史物として長い目で両家を語りつつ、
その盛衰の裏にあった奇妙な出来事について語っていて、
短編なのに壮大な物語を読んだ気分になりました。
足利将軍家のグダグダっぷりには最近魅力を感じます。

他にインパクトがあったのは首狂言天守投合。
開始時は普通の時代小説っぽいのですが、
話が進むにつれて3人のお姫様と生首たちが
はっちゃけていく姿には妙な爽快感がありました。
ホラー的設定をコメディに一転させた手法はお見事。

一休が様々な怪異に襲われるシリーズは
上記の作品と比べるとインパクトでは劣るものの、
45分時代劇的な安定感のある面白さがあります。
一休といえばアニメの印象が強いですけど、
そういう人ほど、このシリーズの風狂坊主一休には
新鮮な面白さが感じられるのではないでしょうか。

朝松さんの作品は異形コレクションでいくつか
触れていたものの、個人の本として読むのは
初めてだったのですが、かなり満足度が高かったです。
今後はちょっと過去作を漁ってみようかなと。

テーマ:読書感想文 - ジャンル:小説・文学

『聖者が殺しにやってくる』後藤リウ 感想
聖者が殺しにやってくる (角川書店単行本)
KADOKAWA / 角川書店 (2013-06-17)
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隠れキリシタンの元締めだった旧家を舞台に
一族に関係する人間が次々と殺されていくミステリー小説。

話自体はなかなか凝っていて、隠れキリシタンという設定や
旧家の複雑な血縁関係、14年前に起こった事件との繋がりなど、
それらが最終的に一つに繋がっていくのは面白かったです。
犠牲者たちの猟奇的な装飾もいい雰囲気を出しています。

ただ、キャラクター造形に関しては微妙でした。
ミステリーといえばエキセントリックな探偵と
ちょっとドン臭い助手の組み合わせがお約束ですが、
この作品ではちょっとドン臭い主人公が探偵役なので
捜査パートがいまいち面白く感じられなかったです。
助手役の幼女も生意気でやかましいタイプで、
よく特撮でいる話をかき回す子供に近い感じです。
これはもう好みの問題なので仕方ないといえばそうですが、
普通の探偵と助手の組み合わせならもっと楽しめたかなと。

探偵がしっかりしていないせいで
クライマックスの盛り上がりもいまいちでしたし、
やはり定番の天才探偵とおとぼけ助手という組み合わせは
よく出来ていると実感させられる作品でした。

テーマ:読書感想文 - ジャンル:小説・文学

『鬼手 小早川秀秋伝』大塚卓嗣 感想
鬼手 小早川秀秋伝
鬼手 小早川秀秋伝
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大塚 卓嗣
光文社
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小早川秀秋と日本史では裏切り者の代表みたいな扱いですが、
この本ではそんな小早川秀秋を主人公にしています。

基本的に無能として描かれることの多い秀秋ですが、
今回は主人公だけあってなかなか有能な動きを見せます。
小さい頃は才気を感じさせながらも秀吉が乱心すると
小早川家に非難して粛清回避のために無能を装う。
三成が挙兵すると即座に東軍に連絡を取りつつ
西軍の中核戦力としてできるだけダラダラ行動し、
東軍の岐阜進出を助け、更に京極家を仲間に引き込むなど
裏切り以外でも東軍の勝利に大きく貢献しています。

流石に主人公補正は大きいものの、関ヶ原の合戦前哨戦での
小早川の不可解な動きを見るとある程度説得力はありますね。
伏見での鳥居元忠との会談は面白かったですね。
数の力を信じる秀秋に対して決死の精鋭を信じる元忠。
どちらが正しいかはともかくとしてこの会談が
後の秀秋に大きな影響を与えたことは確かです。

肝心の関ヶ原本戦はというと、この本ではまず秀秋が
松尾山を奪った時点で宣戦布告をしたという解釈。
つまりまず小早川勢から手切れ宣言したわけで、
西軍が松尾山を攻めているうちに家康が到着してから
一気に西軍を攻め潰すという作戦だったわけで
これなら例の裏切り問題は発生しないはずだったのですが、
ここで三成が取った作戦がまさに鬼手でした。

それは松尾山を西軍の陣として取り込み
小早川勢が西軍だと大きく宣伝するということ。
これによって小早川勢が西軍をに味方しない場合は
裏切り者として世間の評判はがた落ちになり、
今後の政権での出世の芽も潰すという恐ろしい一手です。
そして西軍は敗れたもののこの策は見事に当たって
小早川秀秋の名前は地に落ちることに…。

とはいえ秀秋が生きていれば挽回できたんでしょうけど、
それからすぐに死んでしまうから救われない。
しかも毒殺で黒幕は最初から出ていたあの男という
ミステリー的などんでん返しも備えているのですが、
これについては若干強引過ぎた感じも。

しかし関ヶ原中の秀秋の行動を東軍のためと仮定して
再構成しているのは面白かったですし、
何より秀秋主人公という目新しさが良かったです。
今後も新鮮な楽しさを生み出し続けて欲しいですね。

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『新選組颯爽録』門井慶喜 感想
新選組颯爽録
新選組颯爽録
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門井 慶喜
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門井さんによる新撰組を題材にした短編連作集。
内容としてはメジャーな人物の短編が3本、
マイナーな人物の短編が3本の計6本になっています。

メジャーな人物は他の作品でも散々書かれているので
独自の描写を出すのが難しいところはありますが、
剣術下手で戦闘力の低い土方や、山南と沖田の関係など、
面白い掘り下げ方をしていて楽しむことが出来ました。
芹沢の暗殺についてはこれまた使い古された素材で
本作でも特に目新しい展開もなかったのですが、
それでも面白いのは芹沢という人物の魅力ゆえですかね。
新撰組序盤の障害としてはこれ以上ない存在感ですし。

一方、マイナー人物側は凡人から見た新撰組という感じで
それぞれ登場人物をより自由に掘り下げています。
安富才助、村山謙吉、尾形俊太郎と各主人公を並べてみても
新撰組に詳しい人でなければまず分からないのでは。
しかしどの人物も地味なりに自分の生き方を貫いている点が
評価されているので、読後には爽快感が残りました。

特に尾形俊太郎の物語は痛快でしたね。
思想もなく給金目当ての文官として新撰組に入り、
度胸も機転もないせいで周囲に馬鹿にされながらも
ひたすら真面目に文筆仕事に励んだ結果が
近藤に評価されるというのはやっぱり気持ちいいです。
そして安定の悪役・武田観柳斎。
この人がかっこよく書かれる時代は来るのだろうか…。

新撰組の本を読む前にはいつも今更感を持つのですが、
読んでみるとなんだかんだで面白いですし、
きっとこれからも読み続けることになるんでしょうね。
本当に美味しい素材だと思います。

テーマ:時代小説 - ジャンル:小説・文学