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『完全なる首長竜の日』乾緑郎 感想

現実と脳内を行き来するSFミステリー小説。

植物状態の患者の脳にアクセスして
患者をカウンセリングしていくという設定は面白い。
似たような設定の映画に「インセプション」があるのは
巻末の選評でも触れられていましたけど、
インセプションでは外国映画らしい派手なアクションが
多かったのに対して、こちらは日本のミステリー小説らしく
精神世界での謎解きを重視した作品になっています。

この作品で印象的だったのは描写の巧みさ。
南の島の風景から主人公の作家生活までいちいち描写が丁寧で、
読んでいてそのシーンが想像しやすい作品になっています。
そのせいで現実に非現実が混じる異常な部分、
例えば首長竜のシーンなんかも容易に想像できてしまうため、
幻想小説を読んでいるような酩酊感が感じられました。
こういう現実と非現実が交じり合う作品は大好き。

ただ、良くも悪くも小さく綺麗に纏まった作品なので、
インセプションのように深く深く潜っていく作品と比べると
あっさりした読後感になってしまうのはしょうがないですかね。
これは方向性の違いでどちらがいいというわけではないです。
ひたすら深く潜って真相を求めるインセプションに対して、
この作品は死角になっている場所を発見する感じでしょうか。
どちらも知ってると比べる楽しみが出来ていいですね。

しかしインセプションはめっちゃ面白かったので
この作品も映画にすると面白そうだと思っていたのですが、
既に映画化されてたんですね…でも評価がいまいち。
ちょっと興味があるのでそのうち見てみようかな。

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『オー!ファーザー』伊坂幸太郎 感想
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伊坂 幸太郎
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4人の父親を持つ少年が主人公のドタバタコメディ。

基本的にはいつもの伊坂小説という感じで、
ヘンテコな登場人物たちがヘンテコな状況に陥りつつも
なんだかんだで協力して危機を脱するという内容です。

4人の父親がいるというと世間的にはとても駄目な状況ですが、
自分は女性中心のハーレムが結構好きだったりするので
個人的にはそれほど拒否感を持っていなかったりします。
まあ世間的にはとても駄目でしょうけど。

でもこの小説の家族はホント楽しそうで憧れます。
博打好き、インテリ、ナンパ師、体育教師と、
これだけ父親がいれば大抵の事態はなんとかなるでしょう。
もちろん実際に血が繋がっているのは一人だけですが、
産まれたときから一緒に暮らしているのなら
血の繋がりなんて些細なものでしょうね。
ここらへんは重力ピエロに通じるところがあります。

ただ、多恵子や鱒二は好きになれないなー。
いいところもあるんですけど、それ以上に普段の行動が嫌い。
こういう人が嫌がっててもぐいぐい来るタイプは苦手です。
だから富田林さんが鱒二を脅すシーンはスカッとしましたね。
まあこういう人ともそれなりに付き合っておけば
何かの拍子に役に立つということなのかもしれませんが。

とはいえバラエティー豊かな父親たちは面白かったですし、
彼らのおかしな親子関係が羨ましくなりました。
父親たちも結構フリーダムなのに不快感が無いのは不思議。
読んだ後にちょこっと親孝行したくなる作品です。

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『ウルトラマンF』小林泰三 感想
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初代ウルトラマンの後日談的小説…でいいのかな?
自分はウルトラマン本編は見ていないですし
設定についても基本的な知識しか持っていないのですが、
それでも特に引っかかることなく最後まで読めました。
…いやむしろ初代を見ていた方が引っかかるのかも。

話としては、ウルトラマンが去った後も地球には
様々な脅威が飛来し、人類が四苦八苦するというもの。
研究シーンが多いのは面白いですね。
今まで現れた怪獣の研究から怪獣に対抗するための
超兵器や巨大化の開発まで、SFとしても興味深い内容です。

戦闘以外でのイザコザが多かったのも面白い。
人類の組織間での手続きや勢力争いのせいで
怪獣対応が後手に回ってしまうことが多かったですが、
これは初代からそうだったのか気になるところです。

怪獣が出るとまず交渉しようとするのも新鮮でしたね。
戦隊やライダーだと敵が一つの勢力なことが多いですし
毎回交渉する必要なんてないですけど、
ウルトラマンでは様々な知的生命体が存在するのが違いか。

新たなウルトラマン「F」が誕生する流れから
ウルトラマンの本質を掘り下げていたのは良かったですし、
更にその後も続く戦いにまで触れていたりして
まさに今だから書けるウルトラマン小説という感じでしたね。
大人となった今改めてウルトラマンを見たくなりました。

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『天下一の軽口男』木下昌輝 感想
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上方落語の祖ともされる米沢彦八の物語。

文化面の偉人でありながら大衆落語というジャンルゆえに
その実態がほとんど知られていない米沢彦八ですが、
だからこそ作者が自由に書くことができる面もありますね。

この本の彦八の物語は分かりやすいサクセスストーリー。
江戸時代初期の落語界と聞くととっつき辛そうなお題ですが、
話が分かりやすいためすらすら読み進めることが出来ます。
落語の一門というと今でこそ文化エリートとはいえ、
落語がなかった時代に話で身を立てるのがどれだけ大変だったか。
そんな不可能と思われていた夢に人生をかける彦八の姿には
呼んでいるこちらまで勇気付けられました。

ただ、安楽庵策伝関連の使い方は微妙だった気がします。
彦八の話だけでは話が広がらなかったのかもしれませんが、
策伝と彦八の繋がりはどうもとってつけた感が強い。
これはこの繋がりが中盤で決着が付いてしまって
終盤には出てこなくなるというのが大きいかも。
序盤であれだけ意味深に結構なページ数で語ったんですし、
終盤にももう一押し、面白い絡みが欲しかったです。

しかし木下さんの作品といえば「人魚ノ肉」のような
ドロドロした歴史ホラーなイメージだったのですが、
今回のような明るくて前向きな作品も書かれるんですね。
これはこれで読みやすいので悪くないのですが、
自分はやはり重苦しい歴史ホラーの方が好みだったりします。

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『猟犬の國』芝村裕吏 感想
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ガンパレで有名な芝村裕吏さんのハードボイルド小説。

今回は予備知識無しで読み始めたんですけど、
マージナルオペレーションのスピンオフ小説だったんですね。
自分はマージナルについては全く知らなかったのですが、
初見でもついていけないほどではなかったです。

ただ、1話と2話以降で雰囲気が変わるのは気になりました。
1話はまだハードボイルドな雰囲気があったのですが、
2話以降は後輩との掛け合いがメインになってしまって
スパイ家業がおまけになってしまったような気が。
個人的には1話の雰囲気が好きだったのでちょっと残念。
2話以降の雰囲気が変わったせいで一冊の本としても
ちぐはぐな印象が残ってしまった感がありますし、
これなら2話から始めた方がすっきり読めたと思います。

あとちょくちょく入る車ネタの微妙さ。
言ってることは分からなくはないんですけど
ネットの車オタみたいな感想で全体的に軽かったです。
主人公がにわか車オタという設定なら分かりますが、
多分そうではないでしょうし単純に余計な描写だったかなと。
エロゲーでよくいる、オタクじゃない主人公が
オタクネタを使う違和感に近いものを感じました。

スパイに関する設定は面白かったんですけど、
どこか小説として洗練されていない感じを受ける作品でした。

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