FC2ブログ
2019/04/25

『洛中洛外画狂伝―狩野永徳』谷津矢車 感想

洛中洛外画狂伝―狩野永徳
谷津 矢車
学研パブリッシング
売り上げランキング: 683,188

戦国時代の画人、狩野永徳の物語。
最近読んだ『安土唐獅子画狂伝』の前作に当たり、
時代としては永徳の少年期から青年期に当たります。
そして将軍、足利義輝の躍進と滅亡の時期でもあります。

前半の永徳は子供らしく親に反抗してばかり…
にも見えるのですが、実際にはその圧倒的才能故に
一流絵師である父親すら永徳少年を理解できないという、
天才として生まれたものの孤独さが描かれています。
この孤独描写は後半や続編でも同じでしたけど、
これだけ一貫して天才性を描いている作品は珍しいかも。

とはいえ、永徳が人としての感情を
持ち合わせていないかというと決してそうではなく、
当たり前の人間らしさを持ちつつも
天才としての絵への欲望を抑えられないという感じ。
ここら辺の周囲と合わない悲しさを持ちつつ、
それでも絵のためなら全てを捨てられるという
複雑な人間描写が面白かったですね。

松永弾正や日乗といった登場人物の結末は
続編で描かれていますが、自らの才を信じる彼らの
若い頃の姿を知ることが出来たのも良かったです。
足利義輝は自分の才を信じ最終的には敗れましたが、
松永弾正もそれと同じ道を進んだと思うと
上手く言葉にできない複雑な感情が湧いてきます。

絵師という立場から戦国時代を描いた本作。
激動の時代を絵の才能で突っ走るその姿、
続編も合わせて、非常に楽しませていただきました。
2019/04/22

『宗麟の海』安部龍太郎 感想

宗麟の海
宗麟の海
posted with amazlet at 19.04.21
安部 龍太郎
NHK出版
売り上げランキング: 188,011

戦国時代の北九州の雄、大友宗麟の物語。

作中時間は宗麟の青年時代から毛利の進行を撃退するまで。
耳川の戦いなどはさらっと流しているので
基本的に大友家の調子が良かった頃の話となります。

この作品の宗麟は優秀ではあるもののやる気にムラがあり、
状況を積極的に動かすことが少ないので、
主人公としては物足りなさを感じる場面は多かったです。
幼い頃から病弱で死が身近にあったため、
どこか厭世的で投げやりという解釈は納得できますが、
それはそれとしてもう少し積極性が欲しかったところ。

しかし当時の北九州の状況も面白いですね。
二階崩れによる大友家のグダグダから始まって
隣国大内家でも内乱が起こって毛利が台頭し、
更にその周囲では島津や尼子も蠢いている。
まあこの時代の日本はどこでも大抵面白いのですが、
宗麟の話はキリスト教の扱いが大きいのが特徴ですね。

ただ、宗教対立について触れられてはいるものの、
ここでも宗麟が優柔不断っぷりを発揮したせいで
あまり掘り下げられずに終わってしまった感が。
ちょっと前に読んだ『大友の聖将』では
宗麟の神に対する思いを結構掘り下げていただけに
この作品は薄味に感じられてしまいました。

決して面白くないわけではないのですが、
耳川の戦い以降も描いてもっと宗麟を掘り下げていれば
より心に残る作品になったかもしれません。
2019/04/16

『二重螺旋の誘拐』喜多喜久 感想

二重螺旋の誘拐 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
喜多 喜久
宝島社 (2014-10-04)
売り上げランキング: 590,796

二つの視点で進む誘拐ミステリー。
物語の中心にいるのは一人の女の子で、
その女の子と仲のいいぽっちゃり型中年研究員と
女の子の父親の二つの視点から物語が進んでいきます。

父親側の誘拐事件は中編小説としてはまずまずで、
事件の真相のどんでん返しも良かったと思います。
研究者側は少女への思い入れが気持ち悪かったですが、
それも一つの魅力としてこれまた読み応えがありました。

話の仕掛け自体はこの手の物語としては定番で、
二つの視点の間の情報のズレはすぐ分かりました。
それ自体は物語の構成上仕方がない面もあるのですが、
二つの物語が繋がった際のカタルシスが少なかったのは残念。
二つの誘拐事件がそれぞれで纏まっているせいで
謎の少女についての種明かしが蛇足になった感があります。

ラストもロリコン大勝利なのはまあいいのですが、
あまりすんなり大勝利になるのもな…という感じですね。
世間的にはあまりよろしくない関係だけに、
それを吹き飛ばすような展開が欲しかったところです。
いや年の差カップルは好きなんですけど、
それだけに基準が厳しくなってしまうんですよね…。
2019/04/09

『信長嫌い』天野純希 感想

信長嫌い
信長嫌い
posted with amazlet at 19.04.09
天野 純希
新潮社
売り上げランキング: 127,600

織田信長に関わった様々な人物の短編集。
こういうネタの作品も既に数多くある気がしますが、
何度読んでも面白いのがこの時代の魅力ですね。

内容としてはハッピーエンドで終わる物語もありますが、
それ以上に意地を通して満足して終わる物語が多め。
特に三好義継、織田秀信は名門の矜持を見せる内容で、
世間のパッとしない評価を覆す生き様を見せました。
実力とプライドが合っていないと言われればそれまでですが、
それでも足掻こうとする生き様には魅せられます。

名門の出ではないものの真柄直隆の物語も同じですね。
周囲を馬鹿にし自分の力を過信している直隆が
最後に自分の無力さを受け入れ姉川の合戦で名を遺す。
敗れはしたものの、歴史に埋もれるほど無名かと言われると
決してそんなことはなく、僅かでも輝いたことは確かです。

どの話も面白い物語だったんですけど、
ちょっと残念だったのは信長の描写ですね。
なんだかよく分からないけど圧のある信長という描写は
流石にマンネリ化してきたような気もします。
信長が冷酷という定説に対する反論も増えてきましたし、
そろそろ新鮮な信長像も見てみたいところですね。
2019/04/07

『営繕かるかや怪異譚』小野不由美 感想

営繕かるかや怪異譚
営繕かるかや怪異譚
posted with amazlet at 19.04.07
小野 不由美
KADOKAWA/角川書店
売り上げランキング: 284,941

家を題材にしたライトなホラー短編集。

それぞれの話で様々な不可思議現象が起こるのですが、
建物を直すことで解決するという展開が面白いです。
例えば誰もいない部屋で何かが暴れる音がした時には
部屋に窓を作ってやって解決するみたいな感じで
何だかよく分からない現象に対して
きちんと理屈で納得できる結論が用意されています。

幽霊や妖怪っぽい存在が相手ではあるのですが、
それらを除霊するではなく同居人として
上手く共存する方向へ持っていくのも新鮮ですね。
先住民を尊重する優しさのようなものを感じます。
あと、自分も古い家に住んでいるので
リフォーム関連など興味深い点も多かったですね。

古い家が舞台になるだけあって
しっとりとした雰囲気が楽しめる作品でした。
怖さも控えめなのでホラーがちょっと苦手な人でも
気軽に手を出せる作品になっていると思います。