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2020/05/27

『人間に向いていない』黒澤いづみ 感想



引き篭もりが突然異形に変化する奇病が発生。
ただでさえお荷物だった家族が異形に変化したとき、
果たして周りの家族はどう対応するのか…。
そんな設定で現代の家族関係を掘り下げた作品ですね。

主人公となるのは、引き篭もりの息子が
人間と虫が混じった異形に変化してしまった母親。
法律的には異形となった時点で死亡扱いになるものの、
それでも諦められず一緒に生活しながら
様々な人物と関わることで、自分にとって
息子とは何なのか掘り下げて行く…という流れです。

異形となった息子をあっさり見捨てる父親。
娘が異形になってしまった若い母親。
そして異形の身内を持つ親たちの互助会。
このような異形への態度が違う人たちと交流させて
主人公の考えを深めていくという構成は分かりやすい。
異形となってしまった時点で死亡扱いなので
殺してしまっても無罪というのはシビアな設定ですが、
無罪でも子殺ししたという事実は消えないわけで、
そこら辺の苦悩はやはり人間らしさだなと。

ラストは母親の献身で子供が元に戻るわけですが、
その献身が出来ないような家庭は崩壊し続けており、
家族関係のままならなさを感じさせられる内容でした。

と最後まで読んで気付いたんですけど、
これメフィスト賞受賞作品だったんですね。
よくまとまった素人離れしてる作品だとは思いますが、
メフィスト賞にしては優等生的過ぎる印象で驚きました。
2020/04/22

『信長を生んだ男』霧島兵庫 感想

信長を生んだ男
信長を生んだ男
posted with amachazl at 2020.04.22
兵庫, 霧島
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織田信長物語の序盤最大の敵である織田信行の物語。
信行は歴史小説での出番は多いものの、
主人公として扱われている小説を読むのは初めてかも。

この作品の信行は、有能な優等生であるところは
数々の信長小説で描かれてきた人物像に近いです。
ただ根本的に兄大好きであるところが大きな違いですね。
ちょっと病んでるブラコンキャラというのはFGOに近い。
兄の才能に嫉妬しつつもそれ以上に兄大好きというのは
捻くれたブラコン好きにはたまらない性格でしょう。

終盤の展開も面白かったです。
信長を非情にするために自分を殺させるというのは
愛の重い作品では割とよくある展開なのですが、
そこに帰蝶を巻き込んだのは面白い。
子供こそ産めなかったものの信長の母代わりとして
確固たる地位を築いていた帰蝶を信行が殺すことで、
信長が信行を殺すしかないように仕向ける。
信長、帰蝶、信行という仲の良かった三人の関係が
信長の尻を叩くために崩壊していくのがたまりません。
帰蝶早死に説をこう使ってくるのは新鮮でした。

織田信行の最期は信長による暗殺と言われていますが、
その裏にこういう事件があったのかもしれないと
妄想させてくれる、良い作品だったと思います。
2020/04/16

『敗れども負けず』武内涼 感想

敗れども負けず
敗れども負けず
posted with amachazl at 2020.04.16
涼, 武内
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歴史の中での敗者たちに焦点を当てた短編集。

いずれの短編も敗者を扱っているため
結末がすっきりしない話が多いのですが、
扱っている人物が珍しいので退屈はしませんでした。
敗者を扱っている割には読後感は重くなく、
短編なので心情を深く掘り下げていないところが
かえって読みやすさに繋がっているのかもしれません。

メインになるのは上杉憲政、板額御前、
龍造寺隆信、足利持氏の子である春王と安王、
そして源頼朝の庶子である貞暁。
長編の主役になれそうなのは龍造寺隆信ぐらいかな。
板額御前なんて歴史小説で初めて見たかも。

どの短編も短い中で各人物にとっての重大事件を
読みやすくさらっと描いていたのですが、
一番読後感が良かったのは貞暁の話ですね。
他の話はただでは負けないという感じであるものの、
結局負けであることには変わりはないのですが、
貞暁の話だけは勝ち寄りの結末です。
頼朝の子でありながら将軍にならないという選択は
一見負け組に見えるものの、自らの生き様を
しっかりと貫いているので読後感が爽快でした。

短編なので読後の達成感は控えめですが、
珍しい人物の話を気軽に読めるのは良かったです。
2020/04/10

『金庫番の娘』伊兼源太郎 感想

金庫番の娘
金庫番の娘
posted with amachazl at 2020.04.10
伊兼 源太郎
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政治家の懐刀である金庫番。
その娘として産まれた女性を主人公にした政治小説。

内容としては潔癖気味だった元やり手OLの女性が、
政治家の新米秘書として政治の裏表を見ていくうちに
自分が本当に目指すものを手に入れるという話。

この本の主張は大きな目標を達成するためには
汚い手や絡め手を使ってでもそれを達成するための
力を手に入れる必要があるというものですが、
個人的にはこの主張には共感できますね。
もちろん間違った目標のためにこの手法を用いると
ただの極悪人ですが、正しい目標のためならありです。

そしてその目標が正しいか間違ってるかを
判断するためにも国民が政治を勉強する必要があると。
言われてみれば自分にしても選挙には行くものの、
新聞のマニュフェストをさらっと読むだけで
深く考えずに投票しているというのはあります。
もっと深く政策や将来の展望を語っている候補が
いるかもしれないのに、1人1人の候補を
しっかり調べるということをしてこなかった。

最近は良い政治家がいないと言いながらも、
そもそも政治家について調べていないということを
改めて気付かせてくれる作品でした。
2020/04/02

『刑罰0号』西條奈加 感想

刑罰0号 (文芸書)
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posted with amachazl at 2020.04.02
奈加, 西條
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人間の記憶を他人に転写するシステムを題材にしたSF小説。

記憶転写という題材はシンプルなのですが、
犯罪被害者の記憶を加害者に転写して苦しみを実感させ
反省を促すという使い方は面白かったですね。
こういう刑罰的な方向から話を作っているのは珍しい気が。
他人に記憶を上書きすることで永遠に生きるという
使い方もネタにしていましたが、こっちの方が定番かも。

しかし刑罰というお堅い話の方向から出発したのに
最終的には世界の危機レベル話になったのは驚きでした。
エンタメとしてはどんどん大きくなる話に
ワクワクさせられた面もあるのですが、
前半のお堅い雰囲気からすると後半とのズレは
ちょっと迷走したような印象を受けましたね。
いや、分かった上で最初から読むと記憶をテーマとして
一貫してるんですけど、初見で序盤を読んだ際には
「自我とは何か」を掘り下げるかと思ったので。

まあそんな個人的な読み違えはあったものの、
記憶をテーマにしたSFとしては纏まっていたと思います。