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2020/01/07

『室町無頼』垣根涼介 感想

室町無頼(下) (新潮文庫)
垣根 涼介
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応仁の乱直前、混沌の気配のある京都を描いた物語。

話の筋としては、親を亡くした少年・才蔵が
蓮田兵衛、骨皮道賢といった曲者と出会ったことで
一人の男として成長していくというもの。
骨皮道賢は応仁の乱に絡んでくるのでそこそこ有名ですが、
蓮田兵衛についてはまったく知らなかったです。

応仁の乱直前に起こったただの土一揆に
焦点を当てて一作書くという発想は大正解ですね。
歴史小説ではお題が被っているものが多いのですが、
こういったネタで書いた作品は初めて読みました。
同じ人物を別の方向から掘り下げる作品もいいですが、
ネタ自体が新鮮だとインパクトがあります。

後の下剋上の時代のための捨て石覚悟で挙兵する
蓮田兵衛もいいですが、弱体化した守護大名に
とって代わろうと暗躍する骨皮道賢も面白い。
史実で書かれている骨皮道賢の末路は哀れですが、
彼が何を考えてああいう行動を選んだのかという
肉付けのおかげで感情移入できる人物になっています、

最近室町時代を扱った作品は増えてきましたけど、
まだまだマイナーな出来事への掘り下げは少ないので
今後はこういった作品が増えることに期待したいですね。
2019/12/05

『本懐』上田秀人 感想

本懐
本懐
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上田秀人
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戦国時代以後の武士の切腹を扱った短編集。
話としては意外性のある物とよくある展開のものが半々。
よくある展開の作品も面白いのは確かですが、
意外性のある作品のインパクトには敵わない感じですね。

まず初っ端の大石内蔵助の話が面白い。
吉良を討った後の切腹直前の話なのですが、
ひたすら愚痴りまくって切腹するのが新鮮でした。
刃傷沙汰を起こした浅野内匠頭の愚かさを貶しまくり、
敵討ちを目指す部下たちの愚かさも貶しまくり、
自分の息子が若くして切腹する哀れさを嘆く。
ここまで後ろ向きな内蔵助は初めて見ましたよ。

ただ、その理屈自体はとても納得できるもので、
筆頭家老の仕事を平和に、忠実にこなしていたのに
その生活を壊した浅野内匠頭を憎むのは当然ですし、
自分の息子を洗脳して敵討ちに巻き込んだ
部下たちを恨むのもまた当然なのかもしれません。
自分の息子も家老として穏やかに生きて欲しかったという
親としての願いを否定するのはちょっと難しいです。

もうひとつ面白かったのが西郷隆盛の物語。
西郷隆盛といえば堂々とした英雄な印象がありますが
この作品では死んだ目をしてひっそりと生きる
人間として描かれているのが新鮮ですね。
龍馬の「小さく叩けば小さく響く」という西郷評を
西南戦争の結末に結びつけているのも感心しました。

狩野融川、堀直虎はどちらもよく知らなかったので
意外性はなかったのですが、その自尊心や良し。
織田信長と今川義元は面白かったんですけど
話自体はよくあるものだったと思います。
今川義元だけ切腹しそこなったのは意外でしたけど、
義元の性格は割とテンプレ寄りでしたしね。

そんな感じで切腹を扱った珍しい短編集ですが、
大石内蔵助と西郷隆盛の話は特に面白かったですね。
意外な掘り下げ方が見たい人にはオススメな作品です。
2019/11/30

『戦神』赤神諒 感想

戦神
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赤神諒
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赤神諒さんが描く大友家シリーズのうちの一作。

今回の主人公は戸次鑑連。
一般的には立花道雪という名の方が有名な気がしますが、
これは立花道雪という字の美しさもあるでしょうか。
しかし今作で描かれるのは二階崩れの変まで。
よって戸次鑑連は出家せず、立花道雪は出番なしとなります。

話の大筋は戸次鑑連の立身出世譚という感じで、
親の代で大きく衰退した戸次家で生まれた鑑連が
持ち前の戦の才能を駆使してのし上がっていくというもの。
鑑連の性格が真っ直ぐということもあって、
基本的には痛快な雰囲気の漂う作品となっています。

ただ、赤神さんの作品全般に言えることですが、
主君の理不尽な命令にもただ黙って愚直に従う忠義を
美化する面が強いのは相変わらずなので、
そういう場面になると途端に重くなるんですよね。
有能配下を使い潰す君主というのはよくある展開ですが、
赤神さんの作品では特に理不尽さが目立っていて、
それに逆らわない主人公の魅力も損なっているような。
外敵の脅威描写が薄めということもあって、
いつも理不尽な味方に振り回されている印象が強いです。

もう少し外敵を倒す爽快感を重視するなり、
主君の理不尽さへの対応を上手く描写するなりすれば
読後感のよい作品になってありがたいのですが…
そうすると個性もなくなりそうなのが難しいところですね。
2019/11/26

『政宗の遺言』岩井三四二 感想

政宗の遺言
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岩井三四二
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伊達政宗といえば独眼竜として名高く、
彼を主役にした歴史小説も数多く書かれています。
この小説も彼の歴史を辿った小説の一つかと思いきや、
そこは岩井三四二さん、凝った仕掛けが施されていました。

舞台は江戸時代初期。
当時としては長寿な政宗もいよいよ死が近付き、
政宗に仕える小姓の視点から政宗のこれまでの生き様を
辿っていくという形で物語は進んでいきます。

一応、政宗の生涯を描くという形ではあるのですが、
それと並行して仙台藩謀反の真相を掴むという
話も進んでいくのが面白いところですね。
伊達政宗という人物のイメージからすると
あってもおかしくないと思わされるのが絶妙です。

しかし最後まで読んでみるとそういったイメージ自体を
逆手にとって構成された作品であることが判明します。
政宗の最後の一言は情けないと思う反面、
そんな情けない本心を隠して油断できない戦国大名という
イメージを作り上げたその生き様は天晴というしかない
最後に落とすことで人としての魅力を上げるという
見事な人物描写を見せていただきました。
新しい伊達政宗像を見たい人にはオススメの作品です。
2019/10/27

『大友落月記』赤神諒 感想

大友落月記
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赤神 諒
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戦国時代初期の大友家の内紛、姓氏対立事件の物語。
この事件を扱った作品は初めて読みました。

話のストーリー自体はなかなか凝っていて、
大友義鑑が死に大友宗麟体制が確立される過程で
とばっちりを受けて滅ぼされた小原鑑元…
という形で、姓氏対立事件を描いています。

宗麟側近である田原紹忍が実力者である小原鑑元と組み
田原親宏を討伐しようとするものの、
親宏の奇策によって逆に紹忍が追い落とされ、
小原鑑元が単独で挙兵させられるという流れは
なかなか緊迫感のある陰謀劇でしたし、
敗北した小原鑑元にしても主君である宗麟に対しては
弓引けないという理由で敗北を受け入れる形にしたのは
格を落とさないように工夫されていると思います。

ただ、前半は話が動かないので結構退屈でした。
中盤で田原紹忍が失脚する辺りからは
話が走りっぱなしになるので全体的に見ると
半分まったり、半分全速力という感じなのですが、
前半はもう少し目を引くイベントが欲しかったかなと。
主人公である吉弘鎮信の性格が地味なので、
日常シーンがあまり面白くならないのが痛いですね。

あと、大友宗麟の気まぐれさを見てると
二階崩れで宗麟が跡を継いだのが失敗としか思えない。
赤神さんの大友シリーズはまだ続くようですし、
果たして男気を見せてくれる日が来るのでしょうか。
…史実を見てると微妙な気がしますが、
このシリーズ自体は面白いので追って行こうかなと。