2018/05/27

『天下人の茶』伊東潤 感想

天下人の茶
天下人の茶
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伊東 潤
文藝春秋
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戦国時代の武将たちを茶道の視点から描いた短編集。
どの短編も伊東さんらしく面白い出来なのですが、
一番新鮮だったのは秀吉と利休の関係の真相ですね。

本能寺の変の黒幕ネタは今となってはありふれていますし、
その黒幕を利休に求めたというところまでは
それほど意外性は感じられません。
ただ、そこから先にある秀吉と利休の
茶を巡る確執については新しい解釈だったと思います。

信長を光秀に討たせ、更に秀吉に天下を取らせた後は
芸術が分からない秀吉を美味く口車に乗せて
自分がこの世の芸術を支配するという利休の野望。
しかし秀吉が自分を超えるかもしれないと知ってしまい、
嫉妬から秀吉の名声を貶めるために暗躍し、
それがバレて切腹を命じられるという結末…うーん、面白い。

黄金の茶室といえば下品なイメージが強かったですが、
この本ではそれを究極の侘びとして捉えているのが新鮮。
利休にとっての本来の侘びとは、庭や茶室、茶器によって
その人間の有り様を表現してみせること。
しかしそれに辿り着けない凡才たちは利休の真似をし、
質素な茶の形だけをコピーするにとどまるだけ。
利休自身もそんな凡才たちを上から見ていたのですが、
それを覆して見せたのが黄金の茶室というわけです。

黄金の茶室だけを見ると確かに下品ですが、
天下を統一した栄光や傲慢な独裁者を表す作品として見れば
なるほど、確かに完成された芸術作品にも思えてきます。
こういった新たな解釈の発見は歴史小説の醍醐味ですね。
結果的には利休は自分の死と引き換えに
秀吉の豪華絢爛な茶をも葬ったわけですが、
もし秀吉の茶がこのまま発展していればどうなったのか。
その先を見てみたくなる小説でした。
2018/05/16

『義貞の旗』安部龍太郎 感想

義貞の旗
義貞の旗
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安部 龍太郎
集英社
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足利尊氏のライバルとして名高い新田義貞の物語。

この作品の義貞はザ・主人公という感じの人物で、
直情型でありながらも正義を重んじ、
自分の意思を貫き通し典型的な主人公タイプ。
出自は貧乏御家人ながらも、その愚直な性格で
少しずつ周りの信頼を得て仲間を増やしていきます。

この義貞の人物像は分かりやすかったのですが、
義貞以外の人物はというとかなりあっさり描写でした。
尊氏や直義は一応ライバルっぽい扱いはされているものの
お互い深い感情を抱くことはなかったですし、
味方である楠正成などにしても妙なほど扱いが軽い。
折角面白い時代なんですから義貞の恋愛描写を入れるより
他の群雄の扱いに力を入れて欲しかったですね。

義貞の最期についても越前に向かった後は
地の文1ページだけで終わらせたのは物足りない。
ここは無念の死にしても満足しての死にしても
しっかりと描写して欲しかっただけに残念でした。

義貞の冒険譚としてはある程度楽しめたのですが、
この時代の複雑な状況を生かせたかといわれると微妙で、
義貞自身もシンプルな人格であっただけに
あっさり気味な読後感が残る作品でした。
義貞が新田一族だけでなくもう少し他の人物たちと絡めば
もっと味わい深い作品になったかもしれません。
2018/04/29

『孟徳と本初 三國志官渡決戦録』吉川永青 感想

孟徳と本初 三國志官渡決戦録
吉川 永青
講談社
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三国志での関ヶ原ともいえる官渡の戦いを扱った歴史小説。
三国志関係の作品は数多くありますが、
官渡の戦いだけで一冊書いているのは珍しいですね。

袁紹といえば無能扱いされることが多いですが、
この作品では人の話をよく聞き、個性が強い部下達を
まとめることができる名君として描かれています。

人格的には好感の持てる主君として描かれていますし
物語的にも負けるはずがなさそうに見えるのですが、
それをひっくり返すのが袁紹陣営の中の裏切り者の存在。
郭図、お前のことだよ。

もともと郭図は褒められた人間ではありませんが、
この作品の郭図は自分を曹操に高く売りつけるために
袁紹陣営で愚策を実行するという汚れオブ汚れな役割。
おかげで袁紹の株を落とさず負けさせることが出来たものの、
便利過ぎる悪役という使われ方には同情してしまいました。
曹操に手痛いしっぺ返し食らったときは痛快でしたけど。

しかしそれはそれとして若い頃には悪友だった袁紹と曹操が
譲れないもののため激突するという展開はいいですね。
お互いを凄く高評価しているところなんかも好き。
友情を抱えつつ戦うシチュは何度読んでもいい物です。
2018/04/15

『長篠の四人 信長の難題』鈴木輝一郎 感想

長篠の四人  信長の難題
鈴木 輝一郎
毎日新聞出版 (2015-09-23)
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信長、秀吉、光秀、そして家康が活躍するシリーズ3作目。
今回はかの有名な長篠の戦が舞台となります。

三河武士といえばその勇猛さは天下に轟き、
しかもそれを率いるのが海道一の弓取りとなれば
そこいらの大名にはそうそう遅れを取らないはずですが
それでも相手が武田となると流石に分が悪い。
勝頼が来ると聞いて織田を捨てて武田に着くか
真剣に検討し始める姿は微笑ましいですね。

しかしそこで圧倒的大軍で援軍に来る信長は流石です。
軍勢だけでなく当時高価だった弾薬を
有り余るほど用意している財力も恐ろしいところ。
更に相手が射程外にいる時点から一斉射撃をはじめることで
織田鉄砲隊のレベルが低いよう見せかけるところから始まり、
主力である騎馬兵でなく歩兵ばかりを狙うことで
武田側に被害が少ないように錯覚させる手の込みよう。

長篠の戦いといえば騎馬VS鉄砲という印象が強いですが、
初手では歩兵を狙っていたという解釈は新鮮でしたね。
これに対して武田が第二陣は歩兵を出さずに速攻狙いで
騎馬ばかりで突入するという発想も納得できるものであり、
ここでようやく歴史通りの騎馬VS鉄砲の戦いとなるわけです。

ここで面白かったのが歩兵と騎馬の身長差。
徳川の歩兵が腰を落として槍を構えているのに対して
武田の騎馬は明らかに身長が高く、
それゆえに徳川歩兵の後ろからでも武田側が丸見えで
鉄砲で狙い放題になるというのは発想の勝利でしょう。
こういう単純な盲点を突く戦法は小説的に大好きです。

今回もドタバタ歴史小説として面白かったのですが、
その影で松平信康と信長に不和の気配が漂っていたりと
じわじわと不安も増してきた感があります。
次辺りで信康切腹事件だったりするのかしらん。
そうなると仲良し4人組の間にも致命的な傷が入りそうで、
残念に思いつつも期待する気持ちもあったりします。
はてさてどうなるか。
2018/04/04

『殿さま狸』簑輪諒 感想

殿さま狸
殿さま狸
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学研プラス (2015-03-24)
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蜂須賀といえば秀吉を支えた小六が有名ですが、
この本の主人公は息子の方である家政の方。
自身は十分に優秀といえる才覚を持ちながらも、
秀吉や小六といった英雄たちを身近に見ていたせいで
微妙に自己評価の低い家政が一人の大名として
自立していく姿を描いた歴史小説です。

この作品の家政は基本的によく悩み迷うのですが、
それを隠そうと常に強がっているのが特徴です。
一歩間違えると強がりが過ぎて嫌われそうな人格ですが、
彼自身が自分の欠点を弁えていてそれを補うために
考え続けるという努力をしているところは好印象。
自分の才能の限界を承知しているからこそ
常に自分の作戦に見落としがないか考え続ける
臆病なところは小心者としてはとても共感できますね。

序盤から思わせぶりに登場していた法斎の正体や、
作中で何度も使われていた川並衆という言葉が
クライマックスに結び付く構成もお見事。
関ヶ原に参戦せず出家したと見せかけて…という展開は
小説として上手く想像力を広げて作った感がありますね。
こういうのは歴史小説の醍醐味でしょう。

父親に対して素直になれない反抗期の青年が
狸と言われる大名にまで成長する姿を
見事に描ききった作品だと思います。