2017/08/11

『悪名残すとも』吉川永青 感想

悪名残すとも
悪名残すとも
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吉川永青
KADOKAWA/角川書店 (2015-12-25)
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陶晴賢といえば主君に謀反を起こした挙句に
毛利元就という超有名人に討たれてしまったせいで
どうしても噛ませ犬という印象が強いのですが、
この本ではそんな晴賢をしっかり主人公として描いています。

この本の晴賢は主君・大内義隆を敬愛する一人の熱血漢。
かつて衆道の関係にあった義隆を盛り立てるべく、
若輩ながらも必死に大内家を差配していきます。
しかし息子を失った大内義隆が政務を放棄したせいで
家中では文治派と武断派が内戦勃発寸前になり、
それを止めるため愛する主君を除く決断を迫られることに。

ここに至るまでに何とか穏便に済まそうとする
晴賢の苦労描写には力が入っているせいで
晴賢へ自然に感情移入できるのは良かったですね。
何かと悪人扱いされる晴賢ですが、
実際、義隆の行動によって国が乱れていたのは確かですし、
彼の謀反自体はむしろ正しかったと言えなくもない。

この物語のもう一人の主人公である毛利元就。
後に晴賢を討つことになる彼が、
最初は晴賢の才能に惚れ込んでいたという設定は面白い。
元就が晴賢に期待したのは大内という古い器を
破壊することであり、大内を維持しようとする晴賢に
失望して自分で立つことを決意する流れも面白いです。
作中では年寄り側である元就が最も先進的な
下剋上的思考を持っていたというのは皮肉ですね。

結局、晴賢は自らが頂点に立つこともできず、
大内義長を旗頭にしても大内家中を統制できなかったですし
器がその程度の大きさだったと言われればそれまでですが、
そんな晴賢が何とか主君と和解しよう、
何とか大内家だけでも残そうと足掻く姿には
つい応援したくなるような懸命さが感じられました。
もともと辞世の句が好きな武将だったので、
今回魅力的な描写がされてたのはとても嬉しかったです。
2017/08/03

『応仁秘譚抄』岡田秀文 感想

応仁秘譚抄 (光文社文庫)
光文社 (2015-02-27)
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応仁の大乱を4人の人物の視点から見た短編集。

最初の主人公は足利義視。
この人が兄である足利義政から将軍職を譲られると言われ
ホイホイ乗ってしまったのが全ての始まりですが、
実際自分がこの誘いに乗らないかといわれるととても難しい。
その後も兄や細川勝元の都合に振り回され
迷走してると思われても仕方のない行動を取るわけですが、
この話では孤立無援な義視の心情描写が上手いせいで
義視の不安定な行動にいちいち共感してしまいました。

次の主人公である日野富子でもそれは同じ。
将軍の妻として、将軍の母として必死に頑張りながらも
決して報われない富子の姿はただただ哀れでした。
汚い手段をいくつも使っているとはいえ、
こういう真っ直ぐな人間は嫌いにはなれません。
しかし息子の義尚のために応仁の乱を起こしておきながら
その義尚が早死にしてしまうんだから歴史は面白い。

3人目の主人公は細川勝元。
義視視点では頼りにならない後見者だった彼ですが、
義政や富子、山名宗全といった妖怪相手に
沈着冷静に一手一手を打っていく…とみせかけて
予想外の出来事が起こりまくる状況には同情できます。
応仁の乱があまりに長引き過ぎて乱の後半では
ひたすら早期終結させようと焦っている姿にも共感できる。
乱を早期に終結させようとする方針は
義視と同じなのにまったく協力できないのも面白かったです。

ただ、最後の義政の物語は微妙でした。
足利幕府を破壊するためにわざと政務を投げ出し
応仁の乱を長引かせたという真相は強引過ぎた感があります。
これまでの3人が感情的な行動を見せていたのに対して
義政にはそれがなく、黒幕役のロボットにしか見えなかった。
この義政を自らを殺して目的を達成した傑物と見るか、
ただの性格の悪い外道と見るかは難しいところでしょうね。

個人的には後味の悪い結末でしたけど、
応仁の乱というグダグダな事件を人間として共感しやすい
感情の流れを中心に上手くまとめた一冊だと思います。
義政がもう少し人間的な感情から黒幕をやっていてくれれば
文句なしだったのでそこだけが惜しいですね。
2017/07/27

『決戦! 熊本城 肥後加藤家改易始末』松永弘高 感想

決戦! 熊本城 肥後加藤家改易始末
松永弘高
朝日新聞出版 (2015-03-06)
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清正公で有名な肥後加藤家の改易騒動を描いた物語。

話としては最初から最後まで地味な感じですね。
戦国時代の派手な大戦を描く物語と違って
たかだか一大名が改易されるだけとなればそれも当然か。
とはいえ、改易という事件の裏にあった
ゴタゴタの見せ方が上手くて退屈しなかったです。

戦国時代の生き残りがまだいる状態での
若手との複雑な関係という着眼点は面白い。
特に水野家での、戦を経験している父と兄に対する
戦を経験していない弟のコンプレックスというのは
現代人から見ても共感しやすい描写だったと思います。

逆に加藤家が改易を受け入れる流れは共感しにくかったなぁ。
泰平の世の象徴となるという理屈は分かるんですけど
やっぱり幕府のやり方は理不尽ですし、
ここは腹を括って一戦交えて欲しかったところです。

もちろん熊本が火の海になるのを防いだともいえますけど、
物語としての盛り上がりを求めてしまうのは読者の性。
あと、改易する幕府側がビクビクしてるのは面白いのですが、
全てが終わってみるとビクビクしていた割には
平穏な結末だったというところも拍子抜け感がありました。

歴史小説ではあまりネタにされない
加藤家の改易に目を付けたのは良かったのですが、
魅力的な物語に発展させるとまでは行かなかったという印象。
歴史小説の題材選びの難しさを実感させられる作品でした。
2017/07/19

『家康の遺言』仁志耕一郎 感想

家康の遺言
家康の遺言
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仁志 耕一郎
講談社
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時代の主役が豊臣から徳川へ移り変わる流れを
5人の人物の視点で描いた短編小説集なのですが…
うーん、個人的にはちょっと微妙だったかな。
どの話も愚痴っぽい雰囲気が多めで乗り切れなかったです。

裏切り者の石川数正の話では数正が裏切ったのは
徳川延命のためという筋書きで話が進むのですが、
この設定自体は特に目新しいものはないですし、
そのまま縁の下の力持ちのまま終わってしまったせいで
読者としてはスッキリできなかったですね。

鳥居元忠の話と渡辺半蔵の話は
タイプの違う忠義者の話という感じで面白かったです。
特に渡辺半蔵の話は戦しか知らなかった武骨者が
遅咲きながらも人間として成長していき、
最後にはそれが報われる話なので後味もいい。

しかし千姫の話は定番の大阪城落城の悲劇物語で、
山場である淀君との仲直りもあっさりとした描写。
ラストの家康の物語は今まで滅ぼした相手が
次々と夢に現れるというこれまた定番のお話ですが、
死を目前にしている家康の立場もあって
どうしても嫌な感じの憂鬱さが漂ってしまいます。
最後は救いがあったものの、作品全体に漂う
末期的な雰囲気を払拭するところまではいきませんでした。

暗い雰囲気にするならいっそのこと予想を超えるぐらいの
奈落が見たかったですし、そうでないなら全体的に
もう少しポジティブな雰囲気な方が好みです。
2017/07/13

『影踏み鬼 新撰組篠原泰之進日録』葉室麟  感想

影踏み鬼 新撰組篠原泰之進日録
葉室 麟
文藝春秋
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伊東甲子太郎とともに新撰組を脱退した篠原泰之進の物語。
篠原泰之進といえばかの司馬遼太郎さんも一作書いていますが、
どちらも油小路の戦いが一番盛り上がるところは同じですね。
ただ、ハードカバーとしては若干薄めということもあって、
内容の方もちょっと薄くかんじられる部分がありました。

篠原という人物を掘り下げるために萩野という女性や
斎藤一を配置したのは分かりやすい作りです。
特に斎藤の飄々としたキャラクターは面白く、
敵か味方か分からない立ち位置もあって
物語の緊張感を出すのに良い働きを見せてくれました。
いつでも自分の興味を最優先する好きな変人でありながら、
非道な振る舞いは見せないところに好感が持てます。

しかし他の新撰組のメンバーの描写はかなり薄かったです。
己の野心を貫くラスボス、近藤はまだマシですが、
土方や沖田は三流悪役程度の描写しかされてません。
永倉なんかは近藤や土方の暗殺主義に反感を持ちつつも
彼らを見捨てられず付き合ってる感じでしたけど、
そこら辺の複雑さももっと描写して欲しかったところ。

伊東甲子太郎も普通の優等生という感じで
組織の首領としてのカリスマは少なかったなー。
まあこれについては主人公である篠原が有能なので
その反動として活躍できなかった面もあるかもしれません。

篠原が主人公という発想は面白かったのですが、
どうせなら他の人物ももっと掘り下げて新撰組内部の
ゴタゴタをもっと魅力あるものにして欲しかったところです。
完全に悪役な近藤や割と小物な坂本龍馬は新鮮でしたけどね。