FC2ブログ
2019/01/11

『乱世をゆけ 織田の徒花、滝川一益』佐々木功 感想

乱世をゆけ 織田の徒花、滝川一益
佐々木功
角川春樹事務所
売り上げランキング: 321,250

織田家重臣の一人、滝川一益の物語。

織田家の出世頭と言えば豊臣秀吉が有名ですが、
この滝川一益の立身出世っぷりもなかなかのもの。
そんな一益が主人公となっているのが本作なのですが、
内容としてはちと盛り上がりに欠けたかなと。

甲賀忍者としての一益に焦点を当てたのは面白い。
小説としてこんなに面白い題材はないですし、
実際三方ヶ原の戦いまでは面白かったです。
飛び加藤のような大物忍者が出てくるところも良い。

ただ、信長が死んだ途端あっさりやる気をなくして
どこか投げやりになってしまうのはよろしくないです。
一応、物語としてのクライマックスは
神流川の戦いなのですが、意外性はほとんどなし。
主人公なら信長に使われるだけではなく、
信長の死後にもう非t段階化けて欲しかったです。
滝川軍団の結束というのもいまいち共感しにくかった。

終わってみると忍者ネタが多かった前半は面白かったのに
後半の駆け足っぷりが残念に思える作品でした。
確かに信長が死んでからの一益は精彩を欠きますが、
だからこそそこからの生き様をしっかり描いて
新たな一益像を見せて欲しかったです。
2018/12/23

『劉裕 豪剣の皇帝』小前亮 感想

劉裕 豪剣の皇帝
劉裕 豪剣の皇帝
posted with amazlet at 18.12.23
小前 亮
講談社
売り上げランキング: 192,521

中国南北朝時代、南朝の宋を建てた劉裕の物語。
小前さんの作品に前秦を扱った「王道の樹」がありますが、
時代としてはその直後から始まる形になりますね。

今作の特徴は劉裕の豪傑っぷりですね。
一兵卒から皇帝へのし上がった人間は他にもいますが、
これだけ個人の武力が強調される展開は珍しい。
ここは史実のエピソードを上手く膨らませて
主人公や物語の個性として成立させていた印象です。

性格面でも豪傑然とした人物として描かれていて、
決断力や判断力には優れているものの、
内政については腹心に頼ることが多かったですね。
人間的には薄いと取るか一本気と取るか微妙なところ。

物語の終盤には皇帝としての自覚も形成されて
政治にも関わるようになったものの、
そうなってから死ぬまでが早過ぎました。
もう少し早く政治の面白さに目覚めていれば
宋の根幹を確たるものにできたかもしれませんが…。

一人の剣豪の成り上がり物語としては痛快でしたが、
ラストは彼が建てた国の行く末を描いて終わるので
後味としては痛快さよりも寂しさが勝ってしまいました。
そこがまた歴史小説の醍醐味ではあるのですが…。
小前さんの中国歴史小説は他では読めないような人物を
ネタにしてくれるので、次の題材が楽しみです。
2018/12/20

『燕雀の夢』天野純希 感想

燕雀の夢
燕雀の夢
posted with amazlet at 18.12.19
天野 純希
KADOKAWA (2017-02-25)
売り上げランキング: 418,786

戦国に輝く英雄の父親たちを主人公にした短編集。

それぞれの話で主役となるのは長尾為景、武田信虎、
伊達輝宗、松平広忠、織田信秀、木下弥右衛門。
その活躍は息子たちに比べると地味ではあるものの、
息子たちが飛躍する基盤を作ったことに違いはないです。
いやまあラストの弥右衛門は例外ですが。

天野純希さんといえば自分の中では気鋭の作家なのですが、
同じ戦国短編の名手である伊東潤さんと比べると
まだ若干粗さが残るという印象ですね。
伊東さんと比べるとどんでん返しの衝撃は弱めで、
あくまで人物描写がメインという感じです。

6作の中では親子の複雑な関係を扱っているものが面白く、
そうでない為景、広忠の話は一段落ちる印象でした。
息子のために領土を広げようとするものから
息子に蹴落とされるものまで、様々な関係が楽しめます。
個人的にはあちこち流浪する信虎が一番面白かったかな。

広忠も一応家康のために頑張っているのですが、
肝心の家康が小さ過ぎたため他の親子と比べると
男としての対抗心が入る余地が少なかったですね。
弥右衛門と秀吉はほとんど絡みがなかったんですけど、
そこを生かしたオチになっているのが面白かった。

天野さんはまだまだこれからの作家だと思うので、
どんどん新しい本を出して、腕を磨いて欲しいです。
2018/11/16

『光の王国 秀衡と西行』梓澤要 感想

光の王国 秀衡と西行
光の王国 秀衡と西行
posted with amazlet at 18.11.16
梓澤 要
文藝春秋
売り上げランキング: 629,961

奥州藤原氏の繁栄を西行の視点から描いた歴史小説。

時代としては3代目秀衡の青年時代がメインで、
源平合戦が起こる前ということもあって
それほど大きな事件が起こるわけではありません。
あくまで京都人である西行が奥州の厳しい自然や、
そこで暮らす人々の日常を知っていくという物語です。

藤原氏をメインにするというのも珍しいですが、
奥州の人々の生活を描くというのも珍しい。
一歩間違えれば淡々としてしまいそうですが、
そこは秀衡の恋や仏教都としての平泉の描写が上手く、
終始落ち着いた雰囲気なのに退屈しませんでした。
若き日の運慶が平泉にいたりするのも面白い。

ただ、「画狂其一」でも感じたんですけど、
この方の本の終わり方って微妙にモヤモヤしますね。
凄くあっさりしたビターエンドというか、
余計な一言を付け加えて終わったような感があります。
今回であれば西行と秀衡が再開を約束して終わるだけで
良かったと思うのですが、そこに奥州藤原氏の末路を
わざわざ付け加えてしまったのが蛇足。
奥州藤原氏の末路なんて周知の事実みたいなもんですし
読者に想像させても良かったと思うんですけどね。
基本的に面白い作品ですが、最後だけが残念でした。
2018/11/11

『くるい咲き 越前狂乱』大塚卓嗣 感想

くるい咲き 越前狂乱
くるい咲き 越前狂乱
posted with amazlet at 18.11.11
大塚 卓嗣
光文社
売り上げランキング: 385,882

越前朝倉氏といえば信長の敵対勢力として有名ですが、
この小説ではその朝倉氏滅亡後の越前の混乱、
そして騒動の主人公ともいえる富田長繁の活躍を
彼の背中を撃った小林吉隆の視点から描いています。

この作品の富田長繁は己の欲望のまま動く危険人物。
しかしその直感力や戦の腕は本物で、
最後の吉隆の裏切りがなければ第二の織田信長に
なっていたかもしれないというのが作中での評価です。

越前の混乱や富田長繁の行動は前からは知っていたのですが、
改めて見てみると確かに長繁の行動はキレッキレですね。
朝倉滅亡の前兆を感じるといち早く織田に寝返り、
前波吉継の政治の綻びを見るや越前に一揆衆を引き込んで
吉継を討ち取り、更に一揆衆と敵対すると
数万の一揆衆に700の軍勢で挑んであっさり勝利する。
この史実での行動力だけでも大したものですが、
作中の描写も長繁の異常さを強調する方向です。

織田信長にできて自分にできないはずがないという思考。
敵が10万と聞いた時にも「桶狭間の戦い」よりも
美味しい戦いが出来そうでラッキー程度の反応ですし、
相手が武士だけでなく農民も多い一揆衆とはいえ
この戦力差で何度も勝利しているのは凄まじいです。
だからこそその溢れんばかりの狂気と才能を恐れ、
ともに戦争地獄を進むかここでお終いにするか悩んだ末に
運任せで弾を放った小林吉隆にも共感できました。

この時代の越前を扱った小説を読んだのは初めてですが、
混乱期の越前の中で短期間といえど輝いていた
富田長繁の怖さが実感できる作品でした。