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2019/07/18

『しゃらくせえ 鼠小僧伝』谷津矢車 感想

しゃらくせえ 鼠小僧伝
谷津 矢車
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江戸時代に活躍した盗賊、鼠小僧の物語。

鼠小僧といえば義賊として有名ですが、
この作品の鼠小僧は小悪党として描かれています。
極悪人というわけではないのですが、
お金がなくなればあっさり盗みに走りますし、
自分の手で人を殺すのは躊躇うものの、
人殺しへの加担にはそれほど抵抗がない。
義賊扱いされるようになったのも
たまたまお金をばら撒いてしまっただけというオチ。

そんな小悪党として描かれている鼠小僧ですが、
その弱さに共感してしまうのは自分も弱いからか。
運悪く職を失い収入を絶たれた場合、
盗みぐらいなら…と思う人はいるでしょうし、
だからこそ当時鼠小僧が持ち上げられたのでしょう。

とはいえ所詮は悪人なので処刑されるわけですが、
最後の最後で盗みによって繋がった人たちが
差し入れをしてくれたこともあって、
読後感は思ったよりも爽やかでした。
これが流されるままに盗賊になって皆から嫌われて
終わりだったら流石に後味悪過ぎでした。

どんな理由があっても犯罪者に慈悲はないという
考え方の人には合わない作品ですが、
例え犯罪者であろうと一人の人間だと思える人なら
また違った想いで楽しめる作品ではないでしょうか。
2019/07/11

『奪うは我なり 朝倉義景』吉川永青 感想

奪うは我なり 朝倉義景
吉川永青
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越前の雄である朝倉義景を主人公とした歴史小説。

本作は朝倉義景という珍しい人物を扱っていますが、
人物描写の方もなかなか攻めた描写をしています。
この作品の義景はコミュ障の根暗キャラ。
人前ですぐ妄想に入るわ、独り言が多いわ、
突然爆笑するわと、とにかく陰湿な人間です。
主人公にこういうキャラ付けしてくるのは面白い。

ただ、そんな義景にとっての唯一武器と言えるのが
周到に準備し他人を罠にはめる謀略の才能。
その才能を使って信長包囲網を形成していくのですが、
信長包囲網の黒幕が義景という発想は新鮮でした。
気位だけ高くて朝倉を利用しようとする足利義昭を
信長に押し付け、信長と潰し合ったところで
漁夫の利を得るという狙いは悪くない。

ただ、根が根性なしのネクラということもあって、
一手外されるとあっという間に崩れるんですよね。
義昭が信玄を頼っていた描写はよくありますが、
それはこの作品の義景も同じで、震源が死んだ途端
打つ手がなくなってしまったという…。
こういう策に溺れる人間は普通は敵側に多いのですが、
あえて主人公に持ってきたのが本作の面白いところ。

そんな小物な義景が最後の最後で人の優しさに触れ
癒される姿には不覚にもホロリと来ました。
そしてこういう流れだと朝倉景鏡がクソ野郎になるのは
分かり切っているのですが、分かっていても許せぬ。
最後にもう一捻り、景鏡の死に様の掘り下げまであれば
より読後感がスッキリしたかもしれませんね。

とはいえ、朝倉義景という珍しい題材に対して
面白い掘り下げ方をした物語として楽しめる作品でした。
2019/06/24

『第六天の魔王なり』吉川永青 感想

第六天の魔王なり (単行本)
吉川 永青
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今まで数多く書かれてきた織田信長物ですが、
この作品の特徴は全体的に女々しいところですね。
沸点が低くて切れやすい…というと
信長物ではよくある書かれ方なのですが、
この作品では女性的なヒステリーが多い印象です。

内面描写を見ると決して共感できない人物ではなく
他人を信じて裏切られて怒ったり悲しんだりと
普通に人間でもよくある感情で生きているのですが、
その感情を周囲にわかって欲しいと思いながらも
それを素直に出さず八つ当たりばかりしています。

これで立場が低かったり才能がなかったりすれば
叱ってくれる人間もいたのでしょうけど、
なまじ出来る人間として突っ走ってしまったせいで
どんどんコミュ障を拗らせてしまったのが哀れ。

しかし信長の光秀に対する感情が
「お前ほどの人間が何故俺の事を分かってくれない!」
なのは流石に乙女アピールが過ぎると思いました。
光秀の信長を宿命から解放するために殺すという想いも
相思相愛すれ違いカップル感があって、
面白いんですけどカップル萌え的な面白さでした。
歴史小説好きからは評価が分かれそうな作品ですね。
2019/06/22

『悪左府の女』伊東潤  感想

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保元の乱という珍しい素材を使った歴史小説。
しかも女性が主人公ということでどうなることかと
思っていたのですが…うん、少女小説だこれ!

主人公である春澄栄子は醜女として有名な女性。
しかしそれゆえに藤原頼長によって見出され、
醜女好きである近衛天皇の子供を産むという
極秘任務を託されることになります。

ここまでなら普通の政争物という感じなのですが、
この栄子、醜女設定の割に滅茶苦茶モテるんですよね。
ざっと書くだけでも近衛天皇、平清盛、源頼賢、
藤原師長、万寿麻呂と、次から次へとモテる。
政争よりも恋の行方の方が気になっちゃいましたよ。

一方で政争の方はというと、肝心の藤原頼長が
成績は優秀でも実際の仕事では微妙というタイプで、
劣勢な状況でもそれほど有効な手を打てないまま
栄子を送り込むことぐらいしかできないのが情けない。
負け組になるのも仕方ないという無様さでした。

保元の乱の流れ自体に特に目新しさはないのですが、
少女小説的な方向で楽しんでしまいました
たまにはこういう変化球歴史小説もいいものですね。
2019/05/31

『家康の遠き道』岩井三四二 感想

家康の遠き道
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岩井 三四二
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タイトル通り徳川家康の物語なのですが、
この本の面白いところはその期間。
関ケ原の合戦後から家康が死ぬまでの短い期間を
一冊の本として書いているのは珍しいですね。

この本の家康は、後書きにもあるように作者が家康を
サイコパスとして描こうとしていることもあって
なかなか恐ろしい性格をしています。
決して過度に冷たいというわけではないのですし、
豊臣家にしても臣下の礼を取るなら残してやろうという
甘さもあるのですが、一度滅ぼすと決めると迷わない。
この決断力のおかげで天下を取れたという解釈です。

期間が期間だけに岡本大八事件や大久保長安事件といった
内政方面での事件も扱っているのも珍しい。
これら2つの事件の描写も面白くて、
大八事件は諸外国との付き合いを考えたうえで、
長安事件は長安が役に立つかどうか考えたうえで
判断を下していて、事件の当事者たちの事情なんて
欠片も気にしていないところがこれまた怖かったです。

あと、家康が死後に東照大権現になった裏にある
心理に触れられてるのも新鮮でしたね。
秀吉の死後の状況を見て自分の死後について考えたり、
宗教家たちを呼んで神について研究したりと、
こういう点について書かれた小説はちょっと珍しいかも。

これまでも家康の物語は色々と読んでいますが、
まだまだ面白い切り口があると実感する作品でした。