2018/07/04

『維新の肖像』安部龍太郎 感想

維新の肖像
維新の肖像
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安部龍太郎
潮出版社 (2015-04-02)
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日本人初のイェール大学教授である朝河貫一が
二本松藩士であった自分の父を主人公にして
明治維新の小説を書くという一風変わった歴史小説。

物語はアメリカに住む主人公・朝河貫一が
日本の中国侵略によってアメリカで非難される話と、
朝河貫一の父である朝河正澄が戊辰戦争を生き抜く作中作が
平行して進むという構成になっています。
凝った構成ではありますが、明治維新から太平洋戦争へと
繋がっていく流れは自然で、説得力がありました。

満州事変を起こし戦争へと突き進む日本を
アメリカに住んでいる日本人の視点で見るというのは新鮮。
日本の起こした事件が悪いとはいえ、
それとは直接関係のないアメリカ在住の日本人への
差別が発生するところは、アメリカといえど
同じ人間の国家だということを実感させてくれます。

明治維新サイドは二本松藩視点なのが面白かったです。
戊辰戦争では完全に脇役な小藩なのですが
薩長や会津の思惑に振り回されながらも
武士としての生き様を見せようとする足掻く姿は
読んでいてついつい応援したくなりました。

終わり方も爽やかだったのですが、
それでも微妙にスッキリしない感が残るのは
この後日本が太平洋戦争に進むのが決定しているからか。
今後の展開を知っているせいでメタ的な視点だと
「やっぱだめじゃん!」となるのが歴史小説の難しさ。
ここを上手く誤魔化してくれれば文句なしでしたが、
それを抜きにすれば十分楽しめる作品でした。
2018/07/01

『賤ヶ岳の鬼』吉川永青 感想

賤ヶ岳の鬼
賤ヶ岳の鬼
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吉川 永青
中央公論新社
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信長没後、秀吉の天下を決定付けた賤ヶ岳の戦いを
佐久間盛政視点から描写した歴史小説。

物語は信長が討たれてから盛政が斬首されるまで。
秀吉、勝家の双方が信長死後の主導権を握るために
あの手この手で駆け引きするのは面白いですし、
結果的に戦闘が発生する流れも分かりやすかったです。

ただ、駆け引き面では終始秀吉が優勢ですし、
戦闘にしても盛政が一瞬秀吉をヒヤリとさせるものの、
盛政の失策が原因で勝家側が敗北するのは史実と同じ。
まあ大敗したのは前田利家の逃走も原因ですが…。
タイトルの割には盛政があまり活躍していないので
読後のスッキリ感は少なかったですね。
どちらかといえば秀吉の傑物ぶりが目立っていました。

賤ヶ岳の戦いだけで長編を作る難しさを実感する作品。
そこそこ面白いのは確かですが、それは史実のおかげで、
歴史小説としてのプラスアルファが少なかったです。
小説なんだからもう少し冒険して欲しかったところ。
賤ヶ岳ネタは伊東潤さんもいくつか書かれていますが、
切れ味のいい短編向きなネタなのかもしれません。
2018/06/07

『道誉と正成』安部龍太郎 感想

道誉と正成
道誉と正成
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安部 龍太郎
集英社
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南北朝時代初期の流れを北朝の重要人物・佐々木道誉と
南朝の重要人物・楠木正成を中心に描いた歴史小説。

護良親王によって見出された二人は協力し、
足利尊氏と後醍醐天皇を支えて倒幕を達成します。
しかし護良親王の失脚によって新政権に失望した道誉は
尊氏を支持して武家政権の復興を目指し、
一方正成は後醍醐天皇の否を諫言しつつも
最後まで後醍醐天皇方として奮戦することになります。

道誉と正成が敵対関係になってもお互いを認め合い、
特には協力して南北朝の融和を図るのはいいですね。
こういう敵になっても友情が続く展開は好きです。
道誉は敵対していても皇族を尊重していますし、
正成も後醍醐天皇に敵対する武士たちに共感している。
こういう二人の懐の深さが友情を持続させたのでしょう。
あと地味に千種忠顕がいい奴になっていくのが好きですね。
最初はザ・京都人という感じだったのに
最後の方は正成のために色々動いてくれますし、
こういう変化はよくある流れですけど大好物です。

面白かったのは同じ作者が書いた新田義貞の話と比べて
登場人物の扱い方がまったく違っていたこと。
新田義貞は主人公だったときには勇猛で真っ直ぐな
熱血漢だったのですが、今回は優柔不断で
周囲からの評価も低いダメ大将として描かれています。
足利直義も前は真面目な苦労人だったのが、
今回は汚い冷血漢の嫌われ者という扱いでした。
ここまで描写が変わるとなると、同じ人物が他の作品では
どう扱われているのか、もっと知りたくなりますね。

鎌倉時代から室町時代へ変化する混迷の時期に
武家と公家の間で板挟みになりつつも足掻き続けた
二人の大将の物語を、しっかり楽しめる作品でした。
2018/06/03

『三人孫市』谷津矢車 感想

三人孫市
三人孫市
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谷津 矢車
中央公論新社
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戦国時代の鉄砲大将として名高い雑賀孫市の物語。

雑賀孫市はその有名度の割には足跡が不明瞭ですが、
この物語の「雑賀孫市」は鈴木家の父と3人の子たちが
それぞれ名乗っていたという形を取っています。

物語の筋は知略に優れた長兄、武勇に優れた次兄、
そして鉄砲撃ちの才能に優れた末弟が
最初は協力して鈴木家を盛り立てていくものの、
それぞれの主義のために次第に対立していくという流れ。
仲良しが対立する展開好きな自分としては楽しめましたが、
話の展開で引っかかる部分もありました。

まずプロローグが信長を狙撃するところから始まるので
信長がラスボスかと思っていたのですが、
作中での信長の扱いがかなり軽かったのは拍子抜けですね。
三兄弟対立の遠因にはなっているのですが、
あくまで脇役レベルの出番しか与えられてません。
そのせいで読み終わってみるとプロローグと
エピローグが繋がっていないような印象を受けました。
三兄弟の生き様がメインなんだから
プロローグも三兄弟の話で良かったような気が。

そんな感じで全体を見るとちぐはぐな部分もありますが、
孫市の名前をピックアップしたのは新鮮でしたし、
三兄弟だけでなく親父の立ち回りも面白かったです。
歴史小説というには追加設定が多いですが、
そこは史実での経緯がよく分からない雑賀の設定を
妄想で補ったと思うことにしましょう。
2018/05/27

『天下人の茶』伊東潤 感想

天下人の茶
天下人の茶
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伊東 潤
文藝春秋
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戦国時代の武将たちを茶道の視点から描いた短編集。
どの短編も伊東さんらしく面白い出来なのですが、
一番新鮮だったのは秀吉と利休の関係の真相ですね。

本能寺の変の黒幕ネタは今となってはありふれていますし、
その黒幕を利休に求めたというところまでは
それほど意外性は感じられません。
ただ、そこから先にある秀吉と利休の
茶を巡る確執については新しい解釈だったと思います。

信長を光秀に討たせ、更に秀吉に天下を取らせた後は
芸術が分からない秀吉を美味く口車に乗せて
自分がこの世の芸術を支配するという利休の野望。
しかし秀吉が自分を超えるかもしれないと知ってしまい、
嫉妬から秀吉の名声を貶めるために暗躍し、
それがバレて切腹を命じられるという結末…うーん、面白い。

黄金の茶室といえば下品なイメージが強かったですが、
この本ではそれを究極の侘びとして捉えているのが新鮮。
利休にとっての本来の侘びとは、庭や茶室、茶器によって
その人間の有り様を表現してみせること。
しかしそれに辿り着けない凡才たちは利休の真似をし、
質素な茶の形だけをコピーするにとどまるだけ。
利休自身もそんな凡才たちを上から見ていたのですが、
それを覆して見せたのが黄金の茶室というわけです。

黄金の茶室だけを見ると確かに下品ですが、
天下を統一した栄光や傲慢な独裁者を表す作品として見れば
なるほど、確かに完成された芸術作品にも思えてきます。
こういった新たな解釈の発見は歴史小説の醍醐味ですね。
結果的には利休は自分の死と引き換えに
秀吉の豪華絢爛な茶をも葬ったわけですが、
もし秀吉の茶がこのまま発展していればどうなったのか。
その先を見てみたくなる小説でした。