2018/02/07

『化け札』吉川永青 感想

化け札
化け札
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吉川 永青
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稀代の謀将として名高い真田昌幸の物語。

物語は武田家滅亡寸前から始まり、
第一次上田合戦で昌幸が徳川軍に勝利して終わります。
昌幸が武田を見切るまでの流れは
自分が滅びない程度に主家の力になるという感じで、
当時の小勢力のあり方をよく表していますね。

その後の上杉北条徳川の間での寝返り連発はお見事ですが、、
ここに昌幸の限界を見たような気がしなくもない。
大勢力を上手く噛ませ合う策略は見事ですし、
自身が少しずつ勢力を蓄える手腕も認めますけど、
そのせいで周囲からは警戒される状況になっていますし、
どう頑張っても小勢力止まりだったのかも。
大大名を狙うのなら早々と秀吉あたりに気に入られて
領地替えワンチャンを狙った方がよかったかもしれません。
まあそれをやると第二次上田合戦で小勢で大軍を
翻弄するというロマンが実現されなかったでしょうけど。

作中の昌幸は信玄になりたいと何度も考えますが、
既に周囲が大勢力で固まっている状況で
かつての信玄並みの領地を得ようとするなら
よっぽどの奇策が必要だと思います。
昌幸が一流の策謀家なのは確かですが、
それでも分不相応な夢であるように見えましたし、
信玄のように敬意と恐怖を覚えられるにはほど遠い。
これならまだ領地欲が希薄で策謀が趣味な
性格だったりした方が納得しやすかったかも?
昌幸の綱渡りのような策略は面白かったですけど、
人物像としてはちょっと曖昧なように感じられました。
2018/01/28

『泣き虫弱虫諸葛孔明 第伍部』酒見賢一 感想

泣き虫弱虫諸葛孔明 第伍部
酒見 賢一
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酒見賢一さんのヘンテコ三国志もこれにて完結。

三国志の代表人物たる劉備も曹操も既になく、
物語の進行はいよいよ孔明の双肩に委ねられることに。
本作の内容は孔明の南征と北伐メインということもあって
今回の孔明は主人公に相応しい活躍を見せてくれます。

とはいえ、最初に比べると酒見さん特有の悪ノリは薄れ、
既存の物語に近い内容になってしまったのはちょっと残念か。
南蛮相手の南征はまだコメディちっくなノリでしたけど、
失敗すると分かっている北伐を軽いノリで描くのは
流石の酒見さんといえど難しかったのかもしれません。

しかしそれでも三国志という題材のポテンシャルもあって
楽しめる作品に仕上がっているのは確かです。
特に司馬懿の手強さはきっちり描かれていましたね。
孟達を討つ際の手際の華麗さは頭おかしいレベル。
まあそれでも孔明に走らされるのですが。

若干パワーダウンを感じさせる最終巻でしたが、
最後の、孔明の本職は政治家で北伐は無謀だったとしても、
この北伐があったからこそ輝くという結論には目から鱗。
孔明的には蜀を維持するための悪足掻きだったんでしょうけど、
これがなければ三国志の後半はもっと味気ない物語に
なっていたでしょうし、一人の読者として
孔明の行動を肯定してあげたくなる作品でした。
2018/01/13

『裏関ヶ原』吉川永青 感想

裏関ヶ原
裏関ヶ原
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関が原の合戦に関わった6人の武将たちの物語。

黒田如水、真田昌幸の物語は少し似ています。
両者ともに当時屈指の策士であり相応の野心を持ちながら、
なぜ天下を取ることができなかったかということを
それぞれ甘く見ていた息子たちに教えられるという展開。
どちらも野心から開放されて終わるので爽快感があります。

佐竹義宣の生き様は非常に強かで痛快ですね。
三成と家康、それぞれに対する義理はしっかり果たしつつ、
決して義理以上の手助けはしないという頑固っぷり。
表面上は義理堅さを見せつつ内心では隙があれば
全力で勝ち馬に乗ろうと考えてるズルさも面白いです。

細川幽斎の立ち回りもお見事。
歌を極めたがゆえに秀吉の耄碌を見抜き、
歌で作った人脈によって大軍に攻められても生き延びる。
ラストでは成長した忠興に歌でチクリと
反撃されるところも愛嬌がありました。

最上義光の物語は殺された娘の復讐譚でしたけど、
これについては使い古されたネタだったのが残念。
謀将として見た場合も意外性のある策が少なく、
全体的に新鮮さの薄い作品でした。

ラストの織田秀信の話はちょっと切ない。
信長の孫としての呪縛を振り切った秀信が
自分の意思で三成に味方するという展開はいいのですが、
終わり方が物悲しくて爽快感は少なかったです。

全体で見ると前半の黒田、佐竹、細川、真田の物語は
爽快感の溢れるハッピーエンドだったのに対して
後半の最上、織田の物語が重めの内容だったせいで、
一冊の本としては微妙な後味になってしまった感が。
前半の4本の雰囲気のまま最後まで走ってくれれば
文句なしの良作だったんですけどね。
もしくは最初から暗めの作品ばかりを集めるか。
前半だけでも十分楽しめたのですが、
それだけに後半の落差が惜しい作品でした。
2017/12/30

『蝮の孫』天野純希 感想

蝮の孫
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美濃斎藤家の最後の当主である斎藤龍興の物語。

斎藤龍興といえば、歴史上での最大の役割は
美濃を信長に奪われるところなのは確かですが、
この物語では主人公を張っているるだけあって
美濃を奪われてからの彼の生き様がメインとなります。

ダメ人間だった龍興が竹中半兵衛に城を奪われたことで
領主としての自覚に芽生えるという展開は面白い。
領主としての内政を重視する龍興と、
謀略による軍事を重視する半兵衛のライバル関係も新鮮です。
もしこの二人がしっかり手を組んでいたら
信長も退けられたかもと思わせる描写が上手いですね。

信長包囲網の一翼を担う過程での
鈴木孫一や朝倉義景との関係も面白かったです。
特に義景についてはよくある無能な人物ではなく、
信長という脅威に対して足掻き続けようとする
地方領主という書き方に徹していたのが良かったですね。
読後に義景メインの作品を読みたくなりました。

オチに関しても希望があって読後感も良かったのですが、
基本的に敗戦が多く、龍興自身がトップとして
戦う局面が少なかったこともあって
全体的には小さく纏まってしまった感はあります。
史実での活躍が地味な人物を主人公にすると
この問題から逃れるのが難しいのは仕方ないですけど。
とはいえ小説としては読みやすかったですし、
龍興の大活躍を期待しなければ楽しめる作品だと思います。
2017/12/07

『天下を計る』岩井三四二 感想

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豊臣家の兵站を支えた長束正家の物語。

長束正家については伊東潤さんも書いていて
あちらの正家は全く融通の利かない石頭でしたね。
岩井さんの正家も数字に拘る頑固な面はあるものの、
人間的には好意的に見られる部分も多かったです。

この本の正家はとにかく計算が好きなのですが、
石頭なりに嫁や子供を大事にしていたり、
主君への忠義を持っていたりするところが魅力ですね。
正家の喜怒哀楽をしっかり描くことによって
冷たいロボットではなく一人の人間として描写しています。

検地によって全国の富を数字化することに
ロマンを感じるところは数字オタクらしいですが、
新しいデータを見たいという欲望には共感できます。
島津征伐や北条征伐の頃はやりがいのあった兵站管理が、
朝鮮出兵時には絶望しかない仕事になっているのも面白い。
かつて兵站を重視していた秀吉がボケていくことで
兵站軽視になっていくという書き方は新鮮でした。

関が原についてはあっさりした描写ですが、
小大名で活躍の機会もないことを考えると仕方ないか。
とはいえ、不正は許さないという生き方を
家康に対しても貫いた生き様は見事といえるでしょう。
切腹すらも仕事と考えて淡々とこなす姿に
彼の仕事人としての矜持を見せ付けられた思いです。