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2020/11/28

『呉漢』宮城谷昌光 感想

光武帝配下の雲台二十八将の二位、呉漢の物語。

下層の農民から光武帝政権の最重臣まで上り詰めるという
サクセスストーリーなのですが、主人公である呉漢が
功名心が薄く落ち着いた人格なところは宮城谷さんらしい。

物語の前半でオリジナルキャラやエピソードを盛って
物語として楽しめるように作るのも宮城谷さんらしさですね。
まず様々な特技を持つ仲間を集めてチームを作り、
それを中枢として兵を率いるようになるという流れは
いつもの流れはあるんですけどワクワクさせられます。

オリキャラの中でも特別なのは呉漢の師匠ともいえる祇登。
呉漢と出会った頃は知識と頭脳こそあるものの
仇討ちに囚われ、性格も少し捻くれていたのですが、
呉漢の中にある大器に魅せられてからは
教養のない呉漢をサポートすることが生きがいになります。

こいつを育てていけば面白い光景を見られるかも、
程度の考えで呉漢を育て始めた祇登ですが、
呉漢が成長するにつれて祇登が持っていた
捻くれた部分も消えていくのは良かったですし、
最終的に祇登が呉漢を庇って死ぬというのもエモい。
この祇登の生き様は物語として綺麗に纏まっていて
宮城谷さんのキャラの中でも心に残る存在になりました。

久々に宮城谷さんの作品を読みましたが、
この爽やかさと広大さを感じさせる作風はやっぱ好きですね。
2020/04/22

『信長を生んだ男』霧島兵庫 感想

信長を生んだ男
信長を生んだ男
posted with amachazl at 2020.04.22
兵庫, 霧島
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織田信長物語の序盤最大の敵である織田信行の物語。
信行は歴史小説での出番は多いものの、
主人公として扱われている小説を読むのは初めてかも。

この作品の信行は、有能な優等生であるところは
数々の信長小説で描かれてきた人物像に近いです。
ただ根本的に兄大好きであるところが大きな違いですね。
ちょっと病んでるブラコンキャラというのはFGOに近い。
兄の才能に嫉妬しつつもそれ以上に兄大好きというのは
捻くれたブラコン好きにはたまらない性格でしょう。

終盤の展開も面白かったです。
信長を非情にするために自分を殺させるというのは
愛の重い作品では割とよくある展開なのですが、
そこに帰蝶を巻き込んだのは面白い。
子供こそ産めなかったものの信長の母代わりとして
確固たる地位を築いていた帰蝶を信行が殺すことで、
信長が信行を殺すしかないように仕向ける。
信長、帰蝶、信行という仲の良かった三人の関係が
信長の尻を叩くために崩壊していくのがたまりません。
帰蝶早死に説をこう使ってくるのは新鮮でした。

織田信行の最期は信長による暗殺と言われていますが、
その裏にこういう事件があったのかもしれないと
妄想させてくれる、良い作品だったと思います。
2020/04/16

『敗れども負けず』武内涼 感想

敗れども負けず
敗れども負けず
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涼, 武内
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歴史の中での敗者たちに焦点を当てた短編集。

いずれの短編も敗者を扱っているため
結末がすっきりしない話が多いのですが、
扱っている人物が珍しいので退屈はしませんでした。
敗者を扱っている割には読後感は重くなく、
短編なので心情を深く掘り下げていないところが
かえって読みやすさに繋がっているのかもしれません。

メインになるのは上杉憲政、板額御前、
龍造寺隆信、足利持氏の子である春王と安王、
そして源頼朝の庶子である貞暁。
長編の主役になれそうなのは龍造寺隆信ぐらいかな。
板額御前なんて歴史小説で初めて見たかも。

どの短編も短い中で各人物にとっての重大事件を
読みやすくさらっと描いていたのですが、
一番読後感が良かったのは貞暁の話ですね。
他の話はただでは負けないという感じであるものの、
結局負けであることには変わりはないのですが、
貞暁の話だけは勝ち寄りの結末です。
頼朝の子でありながら将軍にならないという選択は
一見負け組に見えるものの、自らの生き様を
しっかりと貫いているので読後感が爽快でした。

短編なので読後の達成感は控えめですが、
珍しい人物の話を気軽に読めるのは良かったです。
2020/03/29

『大阪の陣』岡田秀文 感想

大坂の陣
大坂の陣
posted with amachazl at 2020.03.29
岡田 秀文
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タイトル通り、大阪の陣を題材にした物語。
大阪の陣については手垢のついた素材ではあるのですが、
家康視点をメインにしつつも他に多数の人物の視点を
挿入することによって、単調にならない構成になっています。

期間としては、関ケ原の合戦終了後から家康が死亡するまで。
この間の流れについては基本的に家康の計算通り。
大久保長安事件のような想定外のイベントはあったものの、
二度の大阪の陣から豊臣家の結末までについては
ほぼ完全に流れをコントロールしていたと言えます。
最後の真田幸村の突撃はちょっと危なかったものの、
裏工作で秀頼を出陣させないようにしたことによって
分厚い紙一重が生まれたことを考えると、
やはり全体として家康の掌の上だった感があります。

あと面白かったのは秀頼のキャラクター性ですね。
小さい頃から他人が何でもやってくれたせいで
他人に任せるのが当然になり、他人に任せろと言われると
鷹揚に頷くことしかできないというのは悲しい解釈。
そんな悲しい人生の中でただ一つ、華やかな死に対する
憧れだけが自分の中で育っていったというのは、
ただただ虚無という感じで見ていて哀れになります。
一軍の総大将としては迷惑極まりないですが。

他にも吉川広家や福島正則、片桐勝元に織田有楽斎、
その他にも大勢の小ネタが挟まり、短いながらも
それぞれの人生が描写されているので退屈しなかったです。
豊臣と徳川の決戦について基本的な流れを知っていても
改めて読みたいという人にはオススメの本かもしれません。
2020/03/22

『英龍伝』佐々木譲 感想

英龍伝
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佐々木 譲
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江戸時代末期に異例の出世を遂げたものの
開国直後に病死した江川英龍の物語。

江川英龍といえば結構マイナーな人物ですが、
彼が作った韮山反射炉は歴史番組ではよく登場しますね。
私自身も彼についてはほとんど知らなかったのですが、
田舎の代官から幕府の最高幹部である三奉行を目指し、
ライバルである鳥居耀蔵の妨害に会いながらも
出世していくという立身物として楽しめる内容でした。

この物語は鎖国開国以前の海外の技術を
受け入れるか受け入れないかがメインですが、
それでもこれだけ前に進まないのだから大変です。
答えを知っている後の世から見ればバカバカしいですが、
当時の人間としては外国の圧倒的技術や
幕府の崩壊は想像できるものではないでしょう。
だからこそ、それを想像できた英龍が
幕府の中枢に入る直前に死亡したのは惜しいですね。

戊辰戦争についてはよく小説でも見るのですが、
その直前をテーマにした作品は少ないので、
色々と新鮮に感じる場面が多い作品でした。