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2019/10/27

『大友落月記』赤神諒 感想

大友落月記
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赤神 諒
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戦国時代初期の大友家の内紛、姓氏対立事件の物語。
この事件を扱った作品は初めて読みました。

話のストーリー自体はなかなか凝っていて、
大友義鑑が死に大友宗麟体制が確立される過程で
とばっちりを受けて滅ぼされた小原鑑元…
という形で、姓氏対立事件を描いています。

宗麟側近である田原紹忍が実力者である小原鑑元と組み
田原親宏を討伐しようとするものの、
親宏の奇策によって逆に紹忍が追い落とされ、
小原鑑元が単独で挙兵させられるという流れは
なかなか緊迫感のある陰謀劇でしたし、
敗北した小原鑑元にしても主君である宗麟に対しては
弓引けないという理由で敗北を受け入れる形にしたのは
格を落とさないように工夫されていると思います。

ただ、前半は話が動かないので結構退屈でした。
中盤で田原紹忍が失脚する辺りからは
話が走りっぱなしになるので全体的に見ると
半分まったり、半分全速力という感じなのですが、
前半はもう少し目を引くイベントが欲しかったかなと。
主人公である吉弘鎮信の性格が地味なので、
日常シーンがあまり面白くならないのが痛いですね。

あと、大友宗麟の気まぐれさを見てると
二階崩れで宗麟が跡を継いだのが失敗としか思えない。
赤神さんの大友シリーズはまだ続くようですし、
果たして男気を見せてくれる日が来るのでしょうか。
…史実を見てると微妙な気がしますが、
このシリーズ自体は面白いので追って行こうかなと。
2019/10/22

『炯眼に候』木下昌輝 感想

炯眼に候
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木下 昌輝
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織田信長を扱った短編集は数多くありますが、
本作は逸話の種明かしの焦点を当てているのが特徴。
水鏡や山中の猿といったちょっとマイナーなものから
長篠や鉄甲船といったメジャーなものまで扱いつつ、
それぞれの話で面白いギミックに繋げています。

ギミック自体はよく知られているものも多いので
序盤でオチが読める話もあるんですよね。
山中の猿の頭痛の原因とか、鉄甲船の使い方とか、
序盤から伏線がキッチリしていることもあって
すぐにオチが分かる人も多いのではないでしょうか。
意外性という点では最初の水鏡の話が一番かも?

ギミックについては今でこそ常識なのですが、
戦国時代には知られていない知識でもあるので、
その点を上手く利用してあの時代にそこに気付く
信長すげーという流れにしたのは上手いなと。
ただ、どの話もシンプルなギミックを使っているので、
人によっては拍子抜けしてしまうかもですね。
そこをコロンブスの卵みたいに納得できるかが
この作品を楽むための条件になりそうです。

どの短編も楽しめましたが、個人的には
信長の首の行方についての短編が一番でしたね。
長年の謎について一つの答えを貰った気分です。
2019/10/08

『卜伝飄々』風野真知雄  感想

卜伝飄々
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風野 真知雄
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剣聖として名高い塚原卜伝の老年期の物語。
この作品の卜伝は達人としての完成度を感じさせつつ、
若さを感じさせるところがとても良かったですね。

剣に関しては戦う前にやれることを全てやり、
卑怯とも思えるほどの準備をして勝つ。
それでいて不意打ちも咄嗟の機転で見事にかわす。
圧倒的な強さとはまた違うのですが、
負ける姿を想像しにくいレベルに達しています。

それでいて人並みの欲望を持っているのが面白い。
自分がモテないことを自覚しつつ女性に優しくされると
男女の仲を期待してホイホイついていったり、
まだまだ強くなりたいと武者修行の旅に出たり。
若人のように勢いのある欲望ではないのですが、
何となくこうあればいいな程度の控えめな欲望なところが
経験を重ねた老人っぽさを感じさせてくれます。

個人的に好きな話は「半々猫」と「月を斬る」ですね。
どちらもどこか不思議さの残る話ですが、
現実の不思議な状況には飄々と対応する卜伝も
老いは人並みに嫌がっているところが微笑ましいです。

ガツガツせずそれでいて夢を持ち続けるというのは
自分にとっては理想の老人像でもあるので、
そんな姿を描いてくれたこの作品は非常に楽しめました。
こういう年の取り方をしたいもんです。
2019/10/07

『酔象の流儀 朝倉盛衰記』赤神諒 感想

酔象の流儀 朝倉盛衰記
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越前朝倉家末期の勇将、山崎吉家の物語。

赤神さんの作品を読むのは3度目。
前に読んだ2作はどちらも無能な主家に振り回される
配下の物語で、今回もそうかと思っていたのですが。

事実、無能な朝倉義景に尽くす山崎吉家の物語でしたし、
序盤は「またかー」と思って微妙だったのですが、
読み終わってみるとかなり満足度が高い作品でした。

特に上手くなってると思ったのは脇役の使い方ですね。
今作の主人公である山崎吉家は気が優しくて力持ちという
主人公としてはちょっと使いにくい性格ですが、
そんな彼を前波吉継や魚住景固の視点から描くことで
好感の持てる有能主人公として描写しているのは上手い。

脇役の性格を作り込み、そんな彼らの視点を使うことで
これまでの作品よりも深みがある展開になっています。
朝倉家が滅びる前に裏切った二人ですが、
裏切るのも納得な理由をしっかり描写したのはお見事。

朝倉義景と朝倉景鏡は定番の無能と腹黒でしたけど、
そんな彼らにも同情できる部分を作っていたりと、
物語としては非常に読みやすかったです。

デビュー作と比べると着実に成長が感じられた今作。
今後の活躍が楽しみな作家さんですね。
2019/09/28

『大友二階崩れ』赤神諒 感想

大友二階崩れ
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北九州の雄、大友宗麟が誕生の発端となった
二階崩れの変を題材にした歴史小説…なのですが、
主役となるのは吉弘鑑理、鑑広兄弟であり、
話の軸が二階崩れの変とは少し違うところにあるので、
タイトルに期待して読むと拍子抜けするかもですね。

第一章でいきなり二階崩れの変が起こり、
大友義鑑に属した吉弘兄弟は窮地に立たされるのですが、
普通ならこの危機をどう乗り切るかとなるところが
兄の鑑理が基本的には義を信じるだけで
積極的に行動しないところは賛否が分かれそう。
周囲の苦労のおかげで結果的に救われたような
展開になっているので、爽快感はいまいちでした。

あと、作品的には大友家の二階崩れよりも
吉弘一族の奮闘をメインとして描いているので、
作品のタイトルとしては応募時のタイトルである
「義と愛と」の方が相応しいように感じました。
まあ、そっちのタイトルでは内容が掴みにくくて
手に取ってもらえないのかもしれませんが…。

とはいえ面白くないというわけではなく、
角隈石宗や世戸口紹兵衛といった軍師の暗躍、
吉弘鑑広の戦いといった見せ場はあるので、
作品として退屈するようなことはなかったです。
義に拘って一族を滅ぼしかける鑑理の行動の
受け取り方によって評価が分かれる作品だと思います。