FC2ブログ
2020/02/23

『将軍家康の女影武者』近衛龍春 感想

将軍家康の女影武者
将軍家康の女影武者
posted with amazlet at 20.02.22
近衛 龍春
新潮社
売り上げランキング: 141,061

徳川家康といえば数多くの側室でも有名ですが、
これはそのうちの一人である於奈津を主人公にした物語。

タイトルに女影武者とあるように、
この作品の於奈津は家康の代わりに輿に乗ったり、
家康の戦略にアドバイスしたりと男勝りな活躍を見せます。
声真似が得意で、顔を見せなければ周りを騙せるのが面白い。
真田幸村が切り込んできたときに相対するシチュは
来るのが分かっていても楽しめましたね。

家康へのアドバイスについては、
家康の考えを補強する方向なのが面白かったです。
基本的に家康の方が於奈津よりは優秀なんですけど、
ヘタレで臆病な家康は決断力に欠けるところがあって
於奈津が家康の思考を理解し納得することで
家康も決断できるというのがいいコンビだなぁと。
家康の賢さとずるさと臆病さを持ちながらも
どこか愛嬌を感じさせるキャラクターも良かったですね。

家康の女影武者というトンデモ設定を生かして
上手く物語を盛り上げている作品だったと思います。
2020/02/16

『兵』木下昌輝 感想

兵
posted with amazlet at 20.02.16
木下 昌輝
講談社
売り上げランキング: 140,420

戦国時代の様々な人物を主人公にしつつ、
その合間に「日本一の兵(つわもの)」を探す
道鬼斎の物語を差し込んで一本の物語とした短編連作集。

どの話も木下さんらしく、意外性を持たせつつ
綺麗に纏まっている感じだったのですが、
個人的に一番面白かったのは「兵」という本筋から
少し離れる安国寺恵瓊の話、「怪僧恵瓊」ですね。

関ケ原での敗北者であった恵瓊の真の狙いと、
それを踏まえて関ケ原の合戦を見ると
がらりと状況が変わって見える構成はお見事でした。
我々はその後に来る豊臣家滅亡、江戸幕府誕生の流れを
知っているから偉そうに分析できますけど、
確かに合戦の状況を見ると別の未来もあったのかも。

あとはタイトルが回収される「日ノ本一の兵」ですね。
真田信繁の鬱屈には共感できる部分もありますが、
それはそれとしてこういう後ろ向きな男が報われないと
「ざまぁ」と思ってしまうのもまた事実。
悪人でも前向きな男なら爽快感がありますが、
この作品の信繁はひたすら後ろ向きですからね。
日本一の兵を討ち取ることを目指した信繁が
一番皮肉な形でカウンターを食らう展開は痛快でした。

爽快感のある作品もあれば重い結末の話もありましたが、
いずれも戦国時代の兵の姿を見事に描いていたと思います。
2020/02/13

『西郷の首』伊東潤 感想

西郷の首
西郷の首
posted with amazlet at 20.02.13
伊東 潤
KADOKAWA (2017-09-29)
売り上げランキング: 294,659

西郷隆盛の首を発見した千田登文と
大久保利通暗殺の主犯である島田一郎の物語。

加賀藩といえば明治維新では地味な存在ですが、
そんな加賀藩で親友として育った二人の視点から
明治維新を描いていくという発想は面白い。
幕末屈指の大藩でありながら混迷する状況への対処が遅れ
存在感を出せない歯がゆさがしっかり描かれています。

こういう、幕府が勝つと思ってたらあれよあれよという間に
薩長の方に流れが行ってしまう展開を見ていると、
もし慶喜が腰を据えて徹底抗戦を選んでいたら
どうなっていたかという妄想をしてしまいますね。
幕府が勝つ展開もあったのか、それとも日本を二分する
内戦状態が何年も続くことになったのか…。

しかし大久保暗殺の動機は共感できなかったですね。
特権が剥奪され生活できなくなる士族たちのためという
島田一郎の考えは理解できなくもないのですが、
あくまで士族の特権を取り戻すという
凄く狭い視点に囚われたまま暗殺を行った印象。
そういうこともあって爽快感のある話ではなかったです。
普通なら自分の分をわきまえてる千田登文よりも
国を変えようとする島田一郎の方が好みなはずなんですけど
島田一郎の主張が薄っぺら過ぎたのが原因かな。

ともあれ、加賀藩という珍しい視点で
維新の物語を味わうことが出来たのはいい経験でした。
確かに大藩故に人材の宝庫だったかもしれませんが、
それでも薩長の後塵を拝したところを見ると
やっぱり突破力のある人材は大切だと思います。
2020/02/06

『決戦! 広島城 天下大乱の火種を消すべし』松永弘高 感想

決戦!  広島城 天下大乱の火種を消すべし
松永 弘高
朝日新聞出版
売り上げランキング: 577,130

江戸時代初期の大事件である福島家改易事件の物語。

大事件とはいえ実際に戦になったわけでもないですし
どうしても地味な印象が印象があったのですが、
この本ではそんな事件を当事者視点から描くことで
なかなか緊迫感のある物語として仕上げています。

原因となったのが福島正則の慢心という点は
これまでよく言われているのと同じですね。
ただ、正則視点からしてみれば、自分の今までの功績と
徳川秀忠の実績を比べて傲慢になるのも分かります。
戦国時代の生き抜いた他の大名たちにしても
幕府の家臣という実感は薄かったでしょうしね。

幕府側と福島家家臣の交渉描写も面白かったです。
幕府はまだ出来たばかりで、少しでも折れると
諸大名から舐められると思い込んでいる幕府上層部。
一方で主である正則がいない間にやすやすと城を渡せば
日本中からの笑いものになると意地を張る福島家家臣。
一歩間違えれば全面戦争という状況の中、
最前線で交渉する人々はいかに無血開城をまとめたか。

歴史上では福島正則が改易されたという
一文で終わる事件ですが、幕府、福島家家臣、
更に将軍秀忠、福島正則がどんな気持ちで選択したか、
丁寧に描写されている作品だったと思います。
2020/01/26

『天魔ゆく空』真保裕一 感想

天魔ゆく空
天魔ゆく空
posted with amazlet at 20.01.26
真保 裕一
講談社
売り上げランキング: 719,033

細川京兆家の全盛期を築いた細川政元の物語。

時代としては応仁の乱が終わり戦国時代に突入する、
ちょうどその狭間の物語ということになるでしょうか。
嘉吉の乱以降下がり続けていた将軍の権威に
止めを刺したのが細川政元なのかもしれませんね。

話の内容としては陰謀陰謀また陰謀という感じで、
この時代の権力闘争の複雑さが感じられる内容です。
権力を手放そうとしない将軍家とそれに取り入ろうとする
数々の勢力が絡み合って非常に複雑な状況になっています。

この本では政元の出自に重点を置いていて、
彼の疑り深さや繊細さ、嫁を持たない変人っぷりは
彼自身が父勝元の子でないと言われ続け、両親の仲違いを
近くで見てきたせいであるという説を取っています。
この設定自体は理解しやすく、政元の持つ思慮深さへの
説得力にもなっているのですが、最後まで過去を克服できず
暗殺されてしまったので後味はよろしくない。

終盤の家臣に背かれる流れや養子を3人迎えた辺りの
説得力も薄めで、特に養子たちの各勢力に対して
ほとんど放置したまま手を打たなかったのは解せない。
優秀な者が自然に勝つという考えだったにしても
流石にこれだけ放置し続けたのは少し引っかかりました。

終盤の流れはしっくり来なかったものの、
なかなか題材にされない時代の話なので面白かったです。
この時代の話ももっと増えて欲しいですね。