2017/07/26

『スタープレイヤー』恒川光太郎 感想

スタープレイヤー (角川ebook)
KADOKAWA / 角川書店 (2017-04-05)
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巷では異世界召喚物がブームですが
この作品も異世界召喚物といえばそうなんでしょう。
与えられるのは10回だけ願いを叶えることができる謎の板。
この板を渡されスタープレイヤーとなった女性・夕月が
いかにして生きていくかを描いたのが本作となります。

こういう異世界召喚物だとまず衣食住が問題になりますが、
そこをあっさり願いで解決してしまうのは新鮮でした。
しかしいきなり数キロ単位の庭園を作るというのは
願いの万能感を出すにはいい展開かもしれません。

「豪邸と食料」というようにセットで願うと
1カウントしかされないというのも面白いです。
いくらでもセットに出来るのは一見すると便利ですが、
限界まで詰め込むせいで下準備に時間がかかるのは困り物。
自分だったらこの設定があるせいで咄嗟の事態でも
使い惜しみしてしまうかもしれません。

ファンタジックな雰囲気や能力の大きさに反して、
序盤がドロドロした展開なのも掴みの上手さでしょう。
かつて自分を襲った相手を召喚して監禁するとか、
召喚設定をこういう生かし方する作品は初めて見た気がする。
後半の対国家戦も面白かったですけど、
序盤のヒリヒリした感じは独特な雰囲気がありましたね。

とはいえその序盤があったおかげで
後半の主人公の成長も実感できましたし、
最後も爽快な雰囲気なので読後感も良かったです。
何でも叶えられる力の「何でも」という可能性について、
改めて考えさせてくれる作品でした。
2017/07/06

『竜が最後に帰る場所』恒川光太郎 感想

竜が最後に帰る場所 (講談社文庫)
講談社 (2013-10-11)
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5本の短編からなる幻想短編小説集。
構成としては、最初の作品は幻想要素少なめで
後半は完全にファンタジーという流れになっています。

自分が一番好きだったのは2本目ですね。
主人公が自分の母親を殺した男を監禁し、
時間をかけて洗脳して正義の味方にするという
本来ならサイコホラー寄りの内容ではあるのですが、
主人公の心情描写が淡々としているせいか、
他の幻想小説に通じる静謐さのある物語になっています。
肉体や精神に苦痛を与える復讐は数多くありますが、
正義の味方にするという復讐方法も新鮮でした。

他に1本目や3本目も人間を主人公にしていたのに対して、
後半の4本目と5本目は非人間が主人公なのが興味深い。
4本目は人に寄り添う形で、5本目は人の前から
姿を消すという逆方向に進んでいくのも面白いです。
どちらの結末も爽やかな読後感でしたし
どちらが巻末を飾ってもおかしくないと思うのですが、
話の壮大さを優先して竜の話になったのかな。

タイトルになっている「竜が最後に帰る場所」ですが、
このタイトルの作品が収録されていないのは珍しいかも。
この言葉は5本目の短編に出てくるものですけど、
確かに5本目のタイトルである「ゴロンド」は
表題にするには意味が分かりにくいですね。
逆に5本目のタイトルとしては「竜が最後に帰る場所」より
「ゴロンド」の方が相応しいような気がします。
ここはよく考えて作られた本だなと。

恒川さんの本を読むのは2冊目ですが、
今回も人間のドロッとした部分を書きつつ
美しい幻想的な雰囲気を作るのが本当に上手いですね。
この季節、雨の音を聞きながら読むのに最適かもしれません。
2017/07/04

『蜃気楼の犬』呉勝浩 感想

蜃気楼の犬
蜃気楼の犬
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呉 勝浩
講談社
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とある地方都市で起こった陰惨な難事件を
二周り年下の妻を持つ刑事・番場が解決していく短編集。
なんでしょうね、この全編渡って漂うじっとりした雰囲気は。
ある意味、梅雨に読むのに相応しいのかもしれませんが。

最初の2本はバラバラ死体に空を飛ぶ死体と、
いかにもミステリー小説という事件。
しかしどちらも実につまらない人間による犯行で、
この世に夢もロマンもないということを見せ付けてくれます。
警察小説としては面白いのでまったく問題ないですが。

次の2本は弱者の醜さを描く物語。
容疑者が一人しかいないので犯人は絞られていますが、
その容疑者が弱者側なので何か事情があったのだろう…
と思いきや、その事情がなかなかの身勝手っぷり。
しかしそれに対して法が適切な裁きを下せるかというと
これまた微妙なところで、法の無力さを実感します。
番場が個人的な判断で裁いているという状況は
法の番人としてはあってはならないことなのですが
他にやりようがあったかと言われると…。

そして最後はありふれた復讐劇。
ありふれていますが、だからこそ同じ状況になると
自分も復讐に走ってしまうと共感してしまいます。
もしかしたら、自分の身内を殺した犯人が分からない方が
幸せなのかもしれないと思ってしまいました。

ただ、番場と二周り年下の妻の関係の裏には
ドロドロした何かが隠されていると思っていたのですが、
そこらへんがスルーされたのは物足りなかったですね。
番場も妻もどことなく頭がおかしい雰囲気を出してたように
感じたのですが、特に大きな破綻も無く終わりましたし。
いや一応別居とかしてますけど、もっと凄いのが来ると
思っていたので拍子抜けした感があります。

とはいえ全体的に漂う重い雰囲気は素晴らしく、
事件の意外なオチという点でも満足できました。
どんでん返しでより救いの無い動機が明かされる展開は好き。
この作者さんの作品はデビュー作である「道徳の時間」も
楽しめましたし、今後も追って行きたいと思います。
2017/06/25

『完全なる首長竜の日』乾緑郎 感想


現実と脳内を行き来するSFミステリー小説。

植物状態の患者の脳にアクセスして
患者をカウンセリングしていくという設定は面白い。
似たような設定の映画に「インセプション」があるのは
巻末の選評でも触れられていましたけど、
インセプションでは外国映画らしい派手なアクションが
多かったのに対して、こちらは日本のミステリー小説らしく
精神世界での謎解きを重視した作品になっています。

この作品で印象的だったのは描写の巧みさ。
南の島の風景から主人公の作家生活までいちいち描写が丁寧で、
読んでいてそのシーンが想像しやすい作品になっています。
そのせいで現実に非現実が混じる異常な部分、
例えば首長竜のシーンなんかも容易に想像できてしまうため、
幻想小説を読んでいるような酩酊感が感じられました。
こういう現実と非現実が交じり合う作品は大好き。

ただ、良くも悪くも小さく綺麗に纏まった作品なので、
インセプションのように深く深く潜っていく作品と比べると
あっさりした読後感になってしまうのはしょうがないですかね。
これは方向性の違いでどちらがいいというわけではないです。
ひたすら深く潜って真相を求めるインセプションに対して、
この作品は死角になっている場所を発見する感じでしょうか。
どちらも知ってると比べる楽しみが出来ていいですね。

しかしインセプションはめっちゃ面白かったので
この作品も映画にすると面白そうだと思っていたのですが、
既に映画化されてたんですね…でも評価がいまいち。
ちょっと興味があるのでそのうち見てみようかな。
2017/06/15

『オー!ファーザー』伊坂幸太郎 感想

オー!ファーザー (新潮文庫)
伊坂 幸太郎
新潮社 (2013-06-26)
売り上げランキング: 60,384

4人の父親を持つ少年が主人公のドタバタコメディ。

基本的にはいつもの伊坂小説という感じで、
ヘンテコな登場人物たちがヘンテコな状況に陥りつつも
なんだかんだで協力して危機を脱するという内容です。

4人の父親がいるというと世間的にはとても駄目な状況ですが、
自分は女性中心のハーレムが結構好きだったりするので
個人的にはそれほど拒否感を持っていなかったりします。
まあ世間的にはとても駄目でしょうけど。

でもこの小説の家族はホント楽しそうで憧れます。
博打好き、インテリ、ナンパ師、体育教師と、
これだけ父親がいれば大抵の事態はなんとかなるでしょう。
もちろん実際に血が繋がっているのは一人だけですが、
産まれたときから一緒に暮らしているのなら
血の繋がりなんて些細なものでしょうね。
ここらへんは重力ピエロに通じるところがあります。

ただ、多恵子や鱒二は好きになれないなー。
いいところもあるんですけど、それ以上に普段の行動が嫌い。
こういう人が嫌がっててもぐいぐい来るタイプは苦手です。
だから富田林さんが鱒二を脅すシーンはスカッとしましたね。
まあこういう人ともそれなりに付き合っておけば
何かの拍子に役に立つということなのかもしれませんが。

とはいえバラエティー豊かな父親たちは面白かったですし、
彼らのおかしな親子関係が羨ましくなりました。
父親たちも結構フリーダムなのに不快感が無いのは不思議。
読んだ後にちょこっと親孝行したくなる作品です。