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2019/04/16

『二重螺旋の誘拐』喜多喜久 感想

二重螺旋の誘拐 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
喜多 喜久
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二つの視点で進む誘拐ミステリー。
物語の中心にいるのは一人の女の子で、
その女の子と仲のいいぽっちゃり型中年研究員と
女の子の父親の二つの視点から物語が進んでいきます。

父親側の誘拐事件は中編小説としてはまずまずで、
事件の真相のどんでん返しも良かったと思います。
研究者側は少女への思い入れが気持ち悪かったですが、
それも一つの魅力としてこれまた読み応えがありました。

話の仕掛け自体はこの手の物語としては定番で、
二つの視点の間の情報のズレはすぐ分かりました。
それ自体は物語の構成上仕方がない面もあるのですが、
二つの物語が繋がった際のカタルシスが少なかったのは残念。
二つの誘拐事件がそれぞれで纏まっているせいで
謎の少女についての種明かしが蛇足になった感があります。

ラストもロリコン大勝利なのはまあいいのですが、
あまりすんなり大勝利になるのもな…という感じですね。
世間的にはあまりよろしくない関係だけに、
それを吹き飛ばすような展開が欲しかったところです。
いや年の差カップルは好きなんですけど、
それだけに基準が厳しくなってしまうんですよね…。
2019/04/07

『営繕かるかや怪異譚』小野不由美 感想

営繕かるかや怪異譚
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小野 不由美
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家を題材にしたライトなホラー短編集。

それぞれの話で様々な不可思議現象が起こるのですが、
建物を直すことで解決するという展開が面白いです。
例えば誰もいない部屋で何かが暴れる音がした時には
部屋に窓を作ってやって解決するみたいな感じで
何だかよく分からない現象に対して
きちんと理屈で納得できる結論が用意されています。

幽霊や妖怪っぽい存在が相手ではあるのですが、
それらを除霊するではなく同居人として
上手く共存する方向へ持っていくのも新鮮ですね。
先住民を尊重する優しさのようなものを感じます。
あと、自分も古い家に住んでいるので
リフォーム関連など興味深い点も多かったですね。

古い家が舞台になるだけあって
しっとりとした雰囲気が楽しめる作品でした。
怖さも控えめなのでホラーがちょっと苦手な人でも
気軽に手を出せる作品になっていると思います。
2019/04/02

『本性』伊岡瞬 感想

本性
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伊岡 瞬
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前半は謎の女・サトウミサキが色々な人物に近付き、
その人物を破滅させていく姿を描き、
後半はこの女を追う刑事たち視点で物語が進みミステリー。

基本的に登場人物はクズばかりなので
疲れているときに読むとげんなりするのですが、
物語としては面白いので最後まで読んでしまいました。
特に3章の仕掛けは短編小説として使えそうなぐらい
纏まっているので、この章に限れば読後感は良かったです。

後半の刑事による追跡パートも良かったですね。
サトウミサキを追うベテラン刑事と、
ベテラン刑事の狙いを読もうとする新米の関係が面白い。
サトウミサキの正体自体は後半に入った頃には
読者からは薄々想像できますし実際その通りなんですが、
それでも最後まで楽しめたのは描写の上手さゆえか。

ただ、ラストがバッドエンド気味なのは微妙。
ベテラン刑事は自業自得な面がなくもないのですが、
新米刑事の活躍が尻切れトンボになった感があります。
この終わり方だったら新米刑事を出す必要がないか、
もっと出番を減らしてもよかったのでは?
新米刑事を主人公格として扱うのなら
新米刑事とサトウミサキを対決させて欲しかったです。

そんな感じでラストはちょっと引っかかりましたけど、
クズ博覧会を楽しむ分には良い小説でした。
2019/03/16

『警察回りの夏』堂場瞬一 感想

警察回りの夏 (集英社文庫)
堂場 瞬一
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報道と警察、そしてネットが複雑に絡み合った社会派小説。

冒頭の幼い姉妹殺人事件からその事件の話かと思いきや、
新聞記者である南が警察からの情報で母親が犯人であるという
記事を書いたあたりから雲行きが怪しくなり、
更に記事が出た直後に警察が否定したことから流れが一変。
物語は新聞の誤報とその後の対応、更にはそれを誘った
警察に対する調査がメインになっていきます。

誤報をテーマにした作品というのはあまり見ないですし、
真相への情報も丁寧に小出しにされていたので、
最後まで興味深く読むことが出来ました。
心情描写も流石の上手さで、誤報と判明した直後の
南の恐怖と重圧は読んでるこちらにも伝わってきましたね。

新聞社が作った調査チームの5人は誰も彼もが有能なので
難しい調査の割にはサクサク進んだ印象がありますが、
それでもこれだけ分厚い本になってしまったということは
これで足手まといがいたらどうなっていたことやら。
定番の設定だと一人ぐらい足手まといが入るのですが、
それがいなかったため話もテンポよく進んだ感があります。

話としてはマスコミの傲慢さを描きつつも、
今回の陰謀では新聞社が被害者側ということもあって
若干マスコミ寄りな結末に感じられるため、
マスコミ嫌いな人には引っかかるかもしれませんね。
ただ、マスコミが傲慢であることは確かでも、
真実を知りたいという要求も本物であるはずなので
それを信じたいという結論に持って行ったのは
物語の落としどころとしては悪くないように思えました。
2019/03/14

『ライト マイ ファイア』伊東潤 感想

ライト マイ ファイア
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伊東 潤
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よど号事件をアレンジした公安小説。
伊東さんは歴史小説以外は微妙な印象でしたけど
この作品なかなか緊張感があって面白かったですね。
いやこの作品も近代歴史小説みたいなもんですが。

まず公安刑事がスパイとして学生運動に潜入したものの、
途中で組織から抜けることが出来ないまま
ハイジャックまで実行してしまうという発想が面白い。
序盤からスパイ物としての緊張感がありましたし、
ハイジャック犯たちの北朝鮮での生活や
そこから脱出する流れにもドキドキさせられました。

公安刑事の過去サイドに比べると、
過去の事件を現代視点で探っていく現代サイドは
答え合わせの消化試合といった印象ですが、
最後の最後で主人公の寺島と過去のハイジャック事件が
繋がる仕掛けは良かったですね。
でも絶体絶命のピンチに突然現れた味方が
敵全員を車で跳ねて助かるというのは笑いました。
ここはクライマックスなのにコント臭が凄かったですね。

ラストがちょっと駆け足気味でしたけど、
よど号事件という珍しい題材をエンタメに仕上げたのは見事。
学生運動について調べなおしたくなる作品でした。