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『完全なる首長竜の日』乾緑郎 感想

現実と脳内を行き来するSFミステリー小説。

植物状態の患者の脳にアクセスして
患者をカウンセリングしていくという設定は面白い。
似たような設定の映画に「インセプション」があるのは
巻末の選評でも触れられていましたけど、
インセプションでは外国映画らしい派手なアクションが
多かったのに対して、こちらは日本のミステリー小説らしく
精神世界での謎解きを重視した作品になっています。

この作品で印象的だったのは描写の巧みさ。
南の島の風景から主人公の作家生活までいちいち描写が丁寧で、
読んでいてそのシーンが想像しやすい作品になっています。
そのせいで現実に非現実が混じる異常な部分、
例えば首長竜のシーンなんかも容易に想像できてしまうため、
幻想小説を読んでいるような酩酊感が感じられました。
こういう現実と非現実が交じり合う作品は大好き。

ただ、良くも悪くも小さく綺麗に纏まった作品なので、
インセプションのように深く深く潜っていく作品と比べると
あっさりした読後感になってしまうのはしょうがないですかね。
これは方向性の違いでどちらがいいというわけではないです。
ひたすら深く潜って真相を求めるインセプションに対して、
この作品は死角になっている場所を発見する感じでしょうか。
どちらも知ってると比べる楽しみが出来ていいですね。

しかしインセプションはめっちゃ面白かったので
この作品も映画にすると面白そうだと思っていたのですが、
既に映画化されてたんですね…でも評価がいまいち。
ちょっと興味があるのでそのうち見てみようかな。

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『オー!ファーザー』伊坂幸太郎 感想
オー!ファーザー (新潮文庫)
伊坂 幸太郎
新潮社 (2013-06-26)
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4人の父親を持つ少年が主人公のドタバタコメディ。

基本的にはいつもの伊坂小説という感じで、
ヘンテコな登場人物たちがヘンテコな状況に陥りつつも
なんだかんだで協力して危機を脱するという内容です。

4人の父親がいるというと世間的にはとても駄目な状況ですが、
自分は女性中心のハーレムが結構好きだったりするので
個人的にはそれほど拒否感を持っていなかったりします。
まあ世間的にはとても駄目でしょうけど。

でもこの小説の家族はホント楽しそうで憧れます。
博打好き、インテリ、ナンパ師、体育教師と、
これだけ父親がいれば大抵の事態はなんとかなるでしょう。
もちろん実際に血が繋がっているのは一人だけですが、
産まれたときから一緒に暮らしているのなら
血の繋がりなんて些細なものでしょうね。
ここらへんは重力ピエロに通じるところがあります。

ただ、多恵子や鱒二は好きになれないなー。
いいところもあるんですけど、それ以上に普段の行動が嫌い。
こういう人が嫌がっててもぐいぐい来るタイプは苦手です。
だから富田林さんが鱒二を脅すシーンはスカッとしましたね。
まあこういう人ともそれなりに付き合っておけば
何かの拍子に役に立つということなのかもしれませんが。

とはいえバラエティー豊かな父親たちは面白かったですし、
彼らのおかしな親子関係が羨ましくなりました。
父親たちも結構フリーダムなのに不快感が無いのは不思議。
読んだ後にちょこっと親孝行したくなる作品です。

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『ウルトラマンF』小林泰三 感想
ウルトラマンF (TSUBURAYA×HAYAKAWA UNIVERSE)
小林泰三
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初代ウルトラマンの後日談的小説…でいいのかな?
自分はウルトラマン本編は見ていないですし
設定についても基本的な知識しか持っていないのですが、
それでも特に引っかかることなく最後まで読めました。
…いやむしろ初代を見ていた方が引っかかるのかも。

話としては、ウルトラマンが去った後も地球には
様々な脅威が飛来し、人類が四苦八苦するというもの。
研究シーンが多いのは面白いですね。
今まで現れた怪獣の研究から怪獣に対抗するための
超兵器や巨大化の開発まで、SFとしても興味深い内容です。

戦闘以外でのイザコザが多かったのも面白い。
人類の組織間での手続きや勢力争いのせいで
怪獣対応が後手に回ってしまうことが多かったですが、
これは初代からそうだったのか気になるところです。

怪獣が出るとまず交渉しようとするのも新鮮でしたね。
戦隊やライダーだと敵が一つの勢力なことが多いですし
毎回交渉する必要なんてないですけど、
ウルトラマンでは様々な知的生命体が存在するのが違いか。

新たなウルトラマン「F」が誕生する流れから
ウルトラマンの本質を掘り下げていたのは良かったですし、
更にその後も続く戦いにまで触れていたりして
まさに今だから書けるウルトラマン小説という感じでしたね。
大人となった今改めてウルトラマンを見たくなりました。

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『猟犬の國』芝村裕吏 感想
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ガンパレで有名な芝村裕吏さんのハードボイルド小説。

今回は予備知識無しで読み始めたんですけど、
マージナルオペレーションのスピンオフ小説だったんですね。
自分はマージナルについては全く知らなかったのですが、
初見でもついていけないほどではなかったです。

ただ、1話と2話以降で雰囲気が変わるのは気になりました。
1話はまだハードボイルドな雰囲気があったのですが、
2話以降は後輩との掛け合いがメインになってしまって
スパイ家業がおまけになってしまったような気が。
個人的には1話の雰囲気が好きだったのでちょっと残念。
2話以降の雰囲気が変わったせいで一冊の本としても
ちぐはぐな印象が残ってしまった感がありますし、
これなら2話から始めた方がすっきり読めたと思います。

あとちょくちょく入る車ネタの微妙さ。
言ってることは分からなくはないんですけど
ネットの車オタみたいな感想で全体的に軽かったです。
主人公がにわか車オタという設定なら分かりますが、
多分そうではないでしょうし単純に余計な描写だったかなと。
エロゲーでよくいる、オタクじゃない主人公が
オタクネタを使う違和感に近いものを感じました。

スパイに関する設定は面白かったんですけど、
どこか小説として洗練されていない感じを受ける作品でした。

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『機巧のイヴ』乾緑郎 感想
機巧のイヴ
機巧のイヴ
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乾 緑郎
新潮社
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我々が知っているものとは微妙に異なる江戸時代を舞台に
カラクリに纏わる様々な出来事が描かれる幻想時代小説。

最初の短編「機巧のイヴ」は人間と機械人形の心を扱った
定番のSFストーリーを時代劇風の味付けで見せた感じで、
これはこれで短編小説としてよく出来ていたのですが、
それ以降の物語でどんどん世界観が掘り下げられていって
短編集としての構成の妙を感じられる作品でした。

タイトルの機械人形・伊武は重要キャラではあるものの、
彼女を起点として多種多様な人物を絡ませることで
読者を飽きさせない物語を見せてくれるのが素晴らしい。
世界観の説明にしても長々と地の文で説明するのではなく、
捔力取り、隠密、天帝といった人物が行動して示すことで
読者にはあっさりと、それでいて面白く見せています。

5つの短編の流れも面白いですね。
最初の2つは機械に関わった人間の不幸を描いていたので
そういう雰囲気のまま続くのかと思いきや、
3つ目ではこの世界観を生かしたサスペンス調になり、
4つ目、5つ目では人間と機械の小さな幸福を描いています。
綺麗に雰囲気が反転する短編集を読んだのは久々かも。
そのおかげで、怪しげな雰囲気の幻想小説にもかかわらず
日常物のような温かい読後感になっているのは興味深い。

機械人形という題材は使い古されたものですが、
単なる江戸時代ではなく架空の時代設定を混ぜることで
より幻想的な雰囲気を強くすることに成功した作品。
この世界観での物語をもっと見たくなる短編集でした。

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