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2018/12/12

『私はあなたの瞳の林檎』舞城王太郎 感想

私はあなたの瞳の林檎
舞城 王太郎
講談社
売り上げランキング: 7,150

舞城さんが描く3本の青春恋愛短編小説。
いつもの舞城さんの作品としては癖は弱めですが、
普通の小説と比べると癖が強いぐらいのバランスですね。

一本目はちょっと変わった中学生男子が高校生になり、
ずっと好きだった女の子と付き合うことになるお話。
と書くとただのロマンチックな少女小説ですが、
この女の子が小さい頃から虐待されていて
その現場で助けたことで初恋が始まるからややこしい。
こんな経験をした女の子は一筋縄ではいかないわけですが、
男の子の方もそこを気にしない辺りちょっとずれてて、
どこかヘンテコな恋愛劇が繰り広げられることになります。

二本目は芸術家の卵である女子大生のお話。
この話では高槻君と高橋君という才能豊かな
二人の男性が出てくるわけですが、
主人公と付き合うことになるのは高槻君の方。
しかし高槻君の圧倒的な才能に尻込みした主人公は
結局逃げるように彼の前を去ってしまいます。
その後高橋君と付き合う…となるとありがちな話ですが
別にそんなことはなく、高橋君は一人の芸術家として
主人公の自作を卑下するような態度をめっちゃ怒る。
お前の作品を好きな俺を馬鹿にしてるのコノヤロウ、
って感じで本気で怒るのでどこか笑えてしまいます。
ライトな芸術論小説としても面白い。

最後は自分は15歳で死ぬと思っていた少年の話。
いかにも少年ちっくな妄想という感じですが、
ことあるごとに周りから叩かれるのが面白いです。
実際、どうせ死ぬんだからと周りを醒めた目で見るより、
今を全力で楽しむ同級生の方が賢いでしょうしね。
自分も醒めた方だったのでどうこう言えません。
この話を読んでると分かるのが自分を矯正してくれる
女の子のありがたさ…叱ってくれる女の子マジで欲しい。

どの話も変化球気味ではありますが、
読んでいて若い頃に戻りたくなるという点では
間違いなく青春小説していたと思います。
2018/11/04

『画狂其一』梓澤要 感想

画狂其一
画狂其一
posted with amazlet at 18.11.04
梓澤 要
NHK出版
売り上げランキング: 318,139

江戸時代後期の絵師、鈴木其一の物語。

私自身はこの本を読むまでは鈴木其一について
まったく知らなかったのですが、
北斎や広重と同世代の絵師なんですね。
作中では其一以外も様々な絵師の名前が登場するので、
彼らの作品を検索しながら読み進めたのですが、
素人から見ても素晴らしい作品が多くて勉強になりました。

内容としては其一が師匠に弟子入りしてから
亡くなるまでが書かれているので、
江戸時代の絵師たちの生き方がよく分かります。
自分で絵を描いても弟子であるからには
師匠の作品として出すしかないのは芸術家としては辛い。

ただ、自分の名前こそ出せないものの
代筆は暗黙の了解として知られていますし、
師匠もあちこちに連れ回してくれるおかげで
幅広いコネが出来るのでそのメリットも大きい。
ここら辺のシステムはなかなかよく出来ているなと。

其一と、その師匠である抱一の
「自分が一番上手い」という自負はいいですね。
どちらも表面上は穏やかなのですが、
その内面は絵師としての貪欲さが溢れています。
そこにどうやって折り合いをつけて自分の技術として
昇華していくのか、丁寧に描かれていました。

その反面、終盤はあっさりしてましたけど
絵師として自分の道を見つけて大成した後は
エピローグみたいなもんですしまあ仕方ないかな。
江戸時代の絵師の生き様を感じられましたし、
日本画の展覧会に行きたくなるような小説でした。
2018/11/02

『残り全部バケーション』伊坂幸太郎  感想

残り全部バケーション (集英社文庫)
伊坂 幸太郎
集英社 (2015-12-17)
売り上げランキング: 99,635

時系列がバラバラの短編を読んでいくことで
物語が見えてくるという伊坂さんらしい短編連作集。

まず1ページ目で家族の話かと思ったのですが騙された。
いやまあ最初の話は家族がメインではあるのですが、
この本の真の主役は最初の物語の主役である家族ではなく、
飄々とした不思議な雰囲気を持つ青年・岡田と、
その上司である粗暴なおっさん・溝口の二人。
どちらも実に伊坂さんらしい人間だと思います。

特に面白かったのは2章と5章ですね。
2章は岡田がターゲットに特定の情報を与えることで
勝手に想像させ出鱈目を信じさせるという話。
ターゲットにターミネーターを見せたり
偽の新聞を見せたりして徐々にタイムスリップの実在を
信じさせるという作戦は、大人の財力とコネを使った
壮大な悪戯という感じで、ワクワクさせられます。

最終章である5章はこれを溝口がやる話。
ここまで粗暴で行き当たりばったりだった溝口が
亡き岡田の手法を真似て相手をハメるのは爽快感抜群。
岡田についてのどんでん返しは
伊坂さんならこう来ると思っていましたけど、
まあそれはそれで期待通りなので問題なし。
でもラストについてははっきり描写する方が好きかなぁ。
こういう終わり方が似合う作品もありますが、
この作品はしっかり着地して欲しかったかも。

そんな感じでラストはちょっと引っかかりましたけど、
意外な人物が意外な役割を果たすという
伊坂小説の醍醐味は感じられたので満足できました。
2018/10/29

『警視庁捜査二課・郷間彩香 ガバナンスの死角』梶永正史 感想


班長を任された女性刑事が空回りしつつも奮闘する警察小説。
シリーズ物らしいですがこの本から読んでも楽しめました。

警察小説といえばハードな雰囲気の物が多いですが、
この小説は比較的ライトな雰囲気で進むのが特徴ですね。
主人公である郷間刑事はボケもツッコミもこなしますし、
地の文もコミカルな表現が多いのでサクサク読めます。
推理中に指が動きまくるという気持ち悪い癖も面白い。

そんな感じなので事件の重さや怖さは薄めですが、
地味な事件からどんどんネタが繋がっていって
大物の黒幕に辿り着くという基本は抑えられています。
相棒のセクハラ中年刑事や県警の古株刑事といった
個性豊かな刑事たちと最初はぶつかり合うものの、
話が進むにつれて打ち解けていくというのもお約束。

決して強い特徴があるわけではないですが、
笑いあり推理あり、そしてちょっぴり泣ける場面ありと
軽めの推理ドラマを見るノリで楽しめる作品でした。
2018/10/27

『ゼロの激震』安生正 感想

ゼロの激震 (『このミス』大賞シリーズ)
安生 正
宝島社
売り上げランキング: 393,043

東京壊滅をテーマにした災害小説。

地震によって東京が壊滅する小説は数多くありますが、
この小説の設定は東京でカルデラ噴火が起こるというもの。
東京全体が吹き飛ぶというのは思い切った設定ですが、
それだけにワクワクさせられたのもまた確かです。
物語中盤で出てくる、関東平野が宇宙までぶっ飛んで
第二の衛星になるという説は荒唐無稽であるものの、
読者へのインパクトとしては申し分ないでしょう。

仕掛けが大きいだけに説明文は多めですが、
東京の地下にマグマ溜まりを発生させるために
必要な要素の複雑さを考えると仕方ないか。
マグマって元々ああいうものかと思っていたのですが、
減圧融解や加水融解で岩が溶けてできるというのは
この小説を読んで初めて知りました。

説明が多いとはいえ、ちょうどダレ始めたころに
派手な事件が発生するので退屈はしなかったです。
新宿噴火なんて普通の小説ならクライマックス相当ですが、
この本では中盤の山場でしかないですからね。

ただ、市民革命もどきのシーンは余計だったかな。
主人公の木龍は自分のトラウマ解消で手一杯で、
結果的にその親友である香月の描写は薄くなってしまい
勝手に暴走して勝手に死んだ印象が強かったです。
東京カルデア噴火ネタだけでも十分面白い作品なので
災害対策だけに的を絞っても良かったのではないかと。

などと細かいところで引っかかりはしたものの、
壮大なネタを武器に最後まで突っ走ってくれる作品でした。
結末も自然の凄まじい力と、それに対して最後まで抗った
人間の誇りが感じられて良い落とし所だと思います。