2018/07/11

『鬼を纏う魔女』吉田恭教 感想

鬼を纏う魔女
鬼を纏う魔女
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吉田恭教
南雲堂 (2014-06-01)
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ちょっとレトロな雰囲気が漂うミステリー小説。

舞台は現代なんですけど全体的に昭和っぽい印象ですね。
身体に般若が掘られた異様に若い女性死体や
樹海で暗躍する謎の宗教団体など
興味を引かれる要素は多かったのですが、
30年前ならともかく現代の話としてはちと古いか。

あと、舞台がド田舎という訳でもなく
早い段階でそこそこ大規模に警察が介入しているので
もっとさくさく真相が判明しそうな気もします。
しかしそこさえスルーすれば楽しめる作品でした。

とにかく情報の小出しの仕方が上手いですね。
死体が見つかる、般若の刺青が見つかる、
年齢の割には異様に若いことが判明する、というように
じわじわと掘り下げられていくので最後まで飽きません。
宗教団体からカニバリズムに繋がっていくのも
田舎の秘密儀式に通じる雰囲気があります。

しかしオチは若干盛り上がりに欠けましたね。
推理を披露するシーンは探偵小説っぽいのですが、
犯人サイドの事情には普通に同情できますし
探偵役も普通に許すので丸く収まってしまった感が凄い。
共感はできるのですが大人しい終わり方でした。

なんというか、隔離された辺境で起こりそうな事件を
現代の街中でやっているような違和感があるのですが、
そこがまた癖になりそうな不思議な小説でした。
この作者さんの他の作品も読んでみたいです。
2018/07/06

『凄腕』永瀬隼介 感想

凄腕
凄腕
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永瀬 隼介
文藝春秋
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新宿歌舞伎町の闇に潜む犯罪者たちと
それを負う刑事たちの戦いを描いた警察小説。

まず序盤の展開の早さに引き込まれました。
暴力団絡みの難しい事件に対して
本庁から投入された老エースが颯爽と解決したかと思いきや、
本人もコカイン中毒で逮捕されるという急展開。
しかしそんなエースの捜査能力に魅せられた新米刑事は
彼のような刑事になることを決意する…という感じで、
序章としての掴みはバッチリでした。

その後の新米刑事の活躍も面白い。
囮捜査などで犯罪者を騙すことも躊躇わないくせに
利用した相手にはあまり不幸にならないで欲しいというのは
矛盾した考えではあるものの、共感できる面もあります。
ライバルにして相棒に当たる上司は犯罪者をゴミ扱いするのに
家族には優しく、主人公とはいい対比になっています。

更に物語は名を変えて潜伏している極左の大物や
捜査のために極秘で呼び戻された老エースが絡んできて
最後の対決へと繋がって行くわけですが、
最後の最後まで緊迫感があって楽しめる作品でした。
ラストは今後の刑事たちのドロドロした戦いを予感させつつも、
タフで強かな男たちの性格のせいか
爽やかな読後感になっているのが良かったですね。
2018/06/21

『小説 創業社長死す』高杉良 感想

小説 創業社長死す
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高杉 良
KADOKAWA/角川書店
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とある食品会社のゴタゴタを描いた企業小説。

うーむ、面白くなりそうでならなかった作品ですね。
基本的に内輪の話がダラダラと続くだけで、
盛り上がりそうな展開の後もやっぱりダラダラという感じ。

前半は食品メーカー社長である小林が急死するまでですが、
小林と親友である北野との関係こそ悪くないものの、
社内力学のゴタゴタの末に性格の悪い筒井が
小林の後釜に座るという展開は後味が悪い。
青木を飛ばした経緯を見ると小林の器も小さいですね。

後半は暴走する筒井に対して北野や
他の対抗勢力が一矢報いるのかと思いきや、
ひたすら筒井の対する愚痴を垂れ流すだけで終わります。
北野が暗躍して小林の遺志を継ぎ会社を立て直すかと
期待していたのにとんだ肩透かしですよ。

正妻と愛人のグダグダはちょっと面白かったですけど、
どこの大学へ行ったとかどこで寿司を食べたとか
終始どうでもいい話が多かったのも残念。
それでも最後の逆転を信じて読み進めましたが、
特に何も起こらないまま終わる残念な作品でした。
2018/06/18

『私に似た人』貫井徳郎 感想

私に似た人 (朝日文庫)
貫井徳郎
朝日新聞出版 (2017-06-07)
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貧困層による無差別殺人「小口テロ」が常態化した日本を
様々な立場の人の視点から描いた短編連作小説。

テロという言葉を使ってはいるものの、
この手の事件は現実でも起こっていますし、
すぐ側まで来ている近未来の話に感じられました。
つい最近の新幹線の事件なんて小説より怖いぐらい。

本作の面白さは様々な視点から社会を描いている点ですね。
テロの加害者や被害者はもちろん、
テロの黒幕を追う刑事や無関係な部外者など、
視点の種類を増やすことで世界観に深みを与えています。

各短編の心理描写は流石の一言。
大事なものを全てを失ってテロに走る加害者の話では
加害者に同情してしまいましたし、
テロリストを負け組と見下す主婦の話では主婦に対して
本当にイライラさせられました。

スッキリしたのはインテリ層の話ですね。
貧乏なテロリストに同情し彼らを応援しようとする一方で
貧困問題に興味がない一般人を見下すというのは
小賢しい知識人のイメージとしてはピッタリでした。
そんな彼らが最後に手痛いしっぺ返しを食らうところは痛快。

ただ、ラストがよくある憎しみの連鎖はダメ的な
定番の結論で終わってしまったのは残念でしたね。
終わり方としては明るい方向ではあるのですが、
こういった定番の結論で社会が良くなるかと言われると
あまり説得力がないというのが正直なところでした。
結論だけがダメという訳ではなく、結論に至るまでの問答も
ありがちな流れだったというのが大きいかもしれません。
黒幕の動機は良かったんですけどね。

結末だけは微妙でしたけど各短編は面白かったですし、
最近の社会事情もあって他人事とは思えない作品でした。
2018/06/15

『家族写真』荻原浩 感想

家族写真 (講談社文庫)
荻原 浩
講談社 (2015-04-15)
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様々な家族の形を描いた短編集。

いやもう初っ端から泣かせに来てますねこれは。
妻を早くに失って男手一つで育てた娘がいよいよ結婚する…
という状況におかれたお父さんの話なのですが
心の中でいちいち亡き妻への語りかけるのがずるい。
それも重い語りではなく、妻の分まで人生を楽しもうという
前向きな心情が見えるところがより感動させてくれます。
「俺たち二人の娘が、嫁に行くぞ」は涙腺に来ました。

他には老化を認められない男や肥満を認められない男、
一戸建てに憧れる女などを描いたコメディ作品が多いのですが、
異色だったのはマネキンと家族になる男の話ですね。
孤独な男が拾ったマネキンと家族ごっこを始める話ですが、
これを爽やかな後味に仕上げているのはお見事です。
マネキンを使った精神治療、意外といけるのでは。
あと、しりとりの話は台詞だけだったのが新鮮でしたね。
前もこういう作りの話を見た気がしますけど、
何だったか覚えてないぐらい昔の話です。

最後はバラバラになった家族が再集結する表題作で締め。
写真屋という実家が嫌で飛び出した子供に残された子供。
そんな彼らが父が倒れたことによって再集結し、
昔は見えなかった実家の良さを再確認することで
父の写真屋を守り立てていくというストレートな内容。
今まで家族写真を撮ったことがない家族なのに
子供たちが成長してから始めて家族写真を撮るというのは、
家族関係がいい方向へ変化したことを感じさせる
これ以上ない演出だったと思います。

ハッピーエンドな家族ネタを読みたいならオススメな一冊。
切ないシーンはあるものの、それを前に進むバネとして
描いていますし、どの作品も読後感が爽やかでした。