fc2ブログ
2020/04/10

『金庫番の娘』伊兼源太郎 感想

金庫番の娘
金庫番の娘
posted with amachazl at 2020.04.10
伊兼 源太郎
講談社 (2019-07-31)
売り上げランキング: 309,504

政治家の懐刀である金庫番。
その娘として産まれた女性を主人公にした政治小説。

内容としては潔癖気味だった元やり手OLの女性が、
政治家の新米秘書として政治の裏表を見ていくうちに
自分が本当に目指すものを手に入れるという話。

この本の主張は大きな目標を達成するためには
汚い手や絡め手を使ってでもそれを達成するための
力を手に入れる必要があるというものですが、
個人的にはこの主張には共感できますね。
もちろん間違った目標のためにこの手法を用いると
ただの極悪人ですが、正しい目標のためならありです。

そしてその目標が正しいか間違ってるかを
判断するためにも国民が政治を勉強する必要があると。
言われてみれば自分にしても選挙には行くものの、
新聞のマニュフェストをさらっと読むだけで
深く考えずに投票しているというのはあります。
もっと深く政策や将来の展望を語っている候補が
いるかもしれないのに、1人1人の候補を
しっかり調べるということをしてこなかった。

最近は良い政治家がいないと言いながらも、
そもそも政治家について調べていないということを
改めて気付かせてくれる作品でした。
2020/04/02

『刑罰0号』西條奈加 感想

刑罰0号 (文芸書)
刑罰0号 (文芸書)
posted with amachazl at 2020.04.02
奈加, 西條
徳間書店 (2016-08-12)
売り上げランキング: 873,884

人間の記憶を他人に転写するシステムを題材にしたSF小説。

記憶転写という題材はシンプルなのですが、
犯罪被害者の記憶を加害者に転写して苦しみを実感させ
反省を促すという使い方は面白かったですね。
こういう刑罰的な方向から話を作っているのは珍しい気が。
他人に記憶を上書きすることで永遠に生きるという
使い方もネタにしていましたが、こっちの方が定番かも。

しかし刑罰というお堅い話の方向から出発したのに
最終的には世界の危機レベル話になったのは驚きでした。
エンタメとしてはどんどん大きくなる話に
ワクワクさせられた面もあるのですが、
前半のお堅い雰囲気からすると後半とのズレは
ちょっと迷走したような印象を受けましたね。
いや、分かった上で最初から読むと記憶をテーマとして
一貫してるんですけど、初見で序盤を読んだ際には
「自我とは何か」を掘り下げるかと思ったので。

まあそんな個人的な読み違えはあったものの、
記憶をテーマにしたSFとしては纏まっていたと思います。
2020/03/16

『ニセモノの妻』三崎亜記 感想

ニセモノの妻
ニセモノの妻
posted with amazlet at 20.03.16
三崎 亜記
新潮社
売り上げランキング: 634,150

ちょっと不思議なシチュを扱った短編集。

一本目は、とあるマンションに引っ越してきた夫婦の話。
ふと夜に散歩に出かけてマンションの方を振り返ってみると
自分の部屋の明かりしかないというシチュはゾっとします。
更にマンション建設反対の旗が立ちまくっているのに
妙に優しい先住民や、自分一人しかいない住民集会など、
とにかく奇妙で居心地の悪い展開が続いていきます。
ラストも非常にモヤッとした終わり方なのですが、
これも恐らく作者の狙い通りなんでしょうね。

他にも妻のドッペルゲンガーと暮らす話、
坂道愛好家と階段愛好家の激しい戦いの話、
妻の生きている時間軸がおかしくなってしまう話と、
世にも奇妙な物語チックな話が多くなっていますが、
ドッペルゲンガーの話は偽物ネタでは定番の展開なので
オチにもう一捻り欲しかったところです。
逆に坂道愛好家の話は、変な設定の割には
スッキリ終わっていていい意味で裏切られました。

妻との時間軸がズレる話は設定は面白かったんですけど、
妻とのイチャイチャ描写がちょっと気持ち悪かったなぁ。
大人がおままごとプレイしている感じなのが辛い。
割と切ないお話なのでイチャイチャ描写も
しっとりとした感じにした方が合ったような気がします。

そんな感じで多少引っかかる部分もあったのですが、
ちょっと不思議な話を読みたいときにはちょうどいい感じ。
後味もモヤッとした不確かさは残るものの、
悪いというほどでもないので構えずに読めますね。
2020/02/28

『トラップ』相場英雄 感想

トラップ
トラップ
posted with amazlet at 20.02.28
双葉社 (2014-06-27)
売り上げランキング: 231,383

知能犯を扱う捜査二課の中堅刑事を主人公にした警察小説。

主人公が普通の中堅刑事ってのは珍しいですね。
新米でもベテランでもなく、無能でも優秀でもなく、
仕事にそこそこ慣れてるけどまだ甘いところもある刑事。
それ故に地道な捜査ばかりの話になるのですが、
汚職捜査というネタが新鮮なのでこれがなかなか面白いです。

丁寧な情報提供者の作り方や新米立候補者の隙など、
現実でもあちこちで起こってそうな事柄でありながら
滅多に表に出てこないような微妙なラインを突いている。
新聞を賑わす派手な事件よりもニュースにならないような
地味な事件の方がずっと多いということを実感します。

ただ、この本だけだとバッドエンドなので後味は悪め。
なんか凄く中途半端な終わり方だと思ったら
シリーズ物だということを知って安心しました。
単品だったら残念でしたけど続編が出ているなら良し。
縁があれば他の巻も読んでみたいところです。
2020/02/01

『マトリョーシカ・ブラッド』呉勝浩 感想

マトリョーシカ・ブラッド (文芸書)
呉勝浩
徳間書店
売り上げランキング: 482,341

過去と現代、被害者と加害者が複雑に絡み合う警察小説。

まず冒頭で一つの死体が見つかるわけですが、
その死体が昔の重大な薬害事件の関係者のものだったり、
その事件に警察の隠蔽案件が関わっていたり、
最有力容疑者が別件で逮捕されて完璧なアリバイを
持っていたりと、次から次へと情報が出てきます。

そんな事件を二人の刑事の視点から追っていくのですが、
この二人の刑事の人格は非常に人間臭いですね。
片方は大会社のお坊ちゃまで甘ったれな面もありますけど、
だからこそ青臭い正義論で突っ走ることができる。
過去を暴いて警察をクビになっても親の会社に入るから
いいやって開き直りは初めて見たかもしれません。

もう一人の刑事の、病気を持つ息子を持つが故の
殺されようと薬害事件関係者は許せないという気持ちと、
刑事としての殺人事件への責任感に揺れる心理も分かる。
お坊ちゃまだけなら青臭過ぎる話になるところですが、
こういう組織を重視する主人公と対比させたのは上手いです。

しかし刑事組がなんだかんだで悪い奴がいないのに比べて
事件の黒幕や真相はあまりにも闇が深かった。
終盤に判明する黒幕の動機はあまりにも身勝手ですし、
薬害事件の真相も救いがなさ過ぎて虚無!という感じ。
もちろんいい意味でダメージでか過ぎて虚無なのですが、
久々に邪悪な黒幕を見ることができた満足感があります。
後味が悪い作品を読みたいときにはオススメな作品ですね。