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2018/11/04

『画狂其一』梓澤要 感想

画狂其一
画狂其一
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梓澤 要
NHK出版
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江戸時代後期の絵師、鈴木其一の物語。

私自身はこの本を読むまでは鈴木其一について
まったく知らなかったのですが、
北斎や広重と同世代の絵師なんですね。
作中では其一以外も様々な絵師の名前が登場するので、
彼らの作品を検索しながら読み進めたのですが、
素人から見ても素晴らしい作品が多くて勉強になりました。

内容としては其一が師匠に弟子入りしてから
亡くなるまでが書かれているので、
江戸時代の絵師たちの生き方がよく分かります。
自分で絵を描いても弟子であるからには
師匠の作品として出すしかないのは芸術家としては辛い。

ただ、自分の名前こそ出せないものの
代筆は暗黙の了解として知られていますし、
師匠もあちこちに連れ回してくれるおかげで
幅広いコネが出来るのでそのメリットも大きい。
ここら辺のシステムはなかなかよく出来ているなと。

其一と、その師匠である抱一の
「自分が一番上手い」という自負はいいですね。
どちらも表面上は穏やかなのですが、
その内面は絵師としての貪欲さが溢れています。
そこにどうやって折り合いをつけて自分の技術として
昇華していくのか、丁寧に描かれていました。

その反面、終盤はあっさりしてましたけど
絵師として自分の道を見つけて大成した後は
エピローグみたいなもんですしまあ仕方ないかな。
江戸時代の絵師の生き様を感じられましたし、
日本画の展覧会に行きたくなるような小説でした。
2018/11/02

『残り全部バケーション』伊坂幸太郎  感想

残り全部バケーション (集英社文庫)
伊坂 幸太郎
集英社 (2015-12-17)
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時系列がバラバラの短編を読んでいくことで
物語が見えてくるという伊坂さんらしい短編連作集。

まず1ページ目で家族の話かと思ったのですが騙された。
いやまあ最初の話は家族がメインではあるのですが、
この本の真の主役は最初の物語の主役である家族ではなく、
飄々とした不思議な雰囲気を持つ青年・岡田と、
その上司である粗暴なおっさん・溝口の二人。
どちらも実に伊坂さんらしい人間だと思います。

特に面白かったのは2章と5章ですね。
2章は岡田がターゲットに特定の情報を与えることで
勝手に想像させ出鱈目を信じさせるという話。
ターゲットにターミネーターを見せたり
偽の新聞を見せたりして徐々にタイムスリップの実在を
信じさせるという作戦は、大人の財力とコネを使った
壮大な悪戯という感じで、ワクワクさせられます。

最終章である5章はこれを溝口がやる話。
ここまで粗暴で行き当たりばったりだった溝口が
亡き岡田の手法を真似て相手をハメるのは爽快感抜群。
岡田についてのどんでん返しは
伊坂さんならこう来ると思っていましたけど、
まあそれはそれで期待通りなので問題なし。
でもラストについてははっきり描写する方が好きかなぁ。
こういう終わり方が似合う作品もありますが、
この作品はしっかり着地して欲しかったかも。

そんな感じでラストはちょっと引っかかりましたけど、
意外な人物が意外な役割を果たすという
伊坂小説の醍醐味は感じられたので満足できました。
2018/10/29

『警視庁捜査二課・郷間彩香 ガバナンスの死角』梶永正史 感想


班長を任された女性刑事が空回りしつつも奮闘する警察小説。
シリーズ物らしいですがこの本から読んでも楽しめました。

警察小説といえばハードな雰囲気の物が多いですが、
この小説は比較的ライトな雰囲気で進むのが特徴ですね。
主人公である郷間刑事はボケもツッコミもこなしますし、
地の文もコミカルな表現が多いのでサクサク読めます。
推理中に指が動きまくるという気持ち悪い癖も面白い。

そんな感じなので事件の重さや怖さは薄めですが、
地味な事件からどんどんネタが繋がっていって
大物の黒幕に辿り着くという基本は抑えられています。
相棒のセクハラ中年刑事や県警の古株刑事といった
個性豊かな刑事たちと最初はぶつかり合うものの、
話が進むにつれて打ち解けていくというのもお約束。

決して強い特徴があるわけではないですが、
笑いあり推理あり、そしてちょっぴり泣ける場面ありと
軽めの推理ドラマを見るノリで楽しめる作品でした。
2018/10/27

『ゼロの激震』安生正 感想

ゼロの激震 (『このミス』大賞シリーズ)
安生 正
宝島社
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東京壊滅をテーマにした災害小説。

地震によって東京が壊滅する小説は数多くありますが、
この小説の設定は東京でカルデラ噴火が起こるというもの。
東京全体が吹き飛ぶというのは思い切った設定ですが、
それだけにワクワクさせられたのもまた確かです。
物語中盤で出てくる、関東平野が宇宙までぶっ飛んで
第二の衛星になるという説は荒唐無稽であるものの、
読者へのインパクトとしては申し分ないでしょう。

仕掛けが大きいだけに説明文は多めですが、
東京の地下にマグマ溜まりを発生させるために
必要な要素の複雑さを考えると仕方ないか。
マグマって元々ああいうものかと思っていたのですが、
減圧融解や加水融解で岩が溶けてできるというのは
この小説を読んで初めて知りました。

説明が多いとはいえ、ちょうどダレ始めたころに
派手な事件が発生するので退屈はしなかったです。
新宿噴火なんて普通の小説ならクライマックス相当ですが、
この本では中盤の山場でしかないですからね。

ただ、市民革命もどきのシーンは余計だったかな。
主人公の木龍は自分のトラウマ解消で手一杯で、
結果的にその親友である香月の描写は薄くなってしまい
勝手に暴走して勝手に死んだ印象が強かったです。
東京カルデア噴火ネタだけでも十分面白い作品なので
災害対策だけに的を絞っても良かったのではないかと。

などと細かいところで引っかかりはしたものの、
壮大なネタを武器に最後まで突っ走ってくれる作品でした。
結末も自然の凄まじい力と、それに対して最後まで抗った
人間の誇りが感じられて良い落とし所だと思います。
2018/10/17

『日本核武装』高嶋哲夫 感想

日本核武装
日本核武装
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高嶋 哲夫
幻冬舎 (2016-09-23)
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タイトル通り、日本が核武装するべきか、
非核を貫くべきかをテーマとしたサスペンス小説。
この手の作品は非核の結論ありきなものが多いですが、
この作品は核武装のメリットデメリットについて
より掘り下げて書いてあるように感じました。

物語は、被爆3世であり防衛省の分析官でもある主人公が
日本で核兵器を作る計画が進行していることを知らされ
その調査を任されるところから始まります。
最初は地味な調査パートが多いですし
計画の真相を暴いて終わりなのかと思っていたのですが、
中盤で中国の尖閣進出により自衛官が死亡したことで
物語の緊張感は一気に高まります。
後半は常に戦争一歩手前という緊張感が半端なくて
夢中になって最後まで読んでしまいました。

日本の上層部は戦争を回避しようと足掻くものの、
いざとなれば核兵器を使う覚悟を決めた中国と
専守防衛に徹する日本では立場の強さが違い過ぎる。
自分が交渉する立場だったと考えてみても
最終兵器を持っているだけで強気に出られますからね。
もちろん核を使用すれば他国から非難されるでしょうが、
日本が焼け野原になった後に非難されても
日本にとっては何の意味もないですからね。

日本だけでなく東南アジア諸国との関係に
触れていたのも面白かったです。
実際、日本がいくら戦争する気がなくても
南下する中国とアジア諸国がぶつかる可能性もあり、
そうなったときに知らぬ存ぜぬが通用するものか。
単純に戦争反対を叫ぶだけでなく、
もっと議論が盛んになってもいいような気もします。

まず核兵器を持たないという理想を基本としつつ、
現実として国家間での激突が起きた際にどうなるのか、
そこで核兵器の有無がどう影響してくるのか、
ということを改めて考えさせてくれる作品でした。