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2020/01/19

『罠に落ちろ』藤田宜永 感想

罠に落ちろ: 影の探偵’87 (文芸書)
藤田 宜永
徳間書店
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社会の影に生きる探偵・影乃が活躍するハードボイルド小説。

依頼人の父親の死体を発見した影乃が
死因を調査していくうちに大掛かりな経済犯罪に
首を突っ込むことになるというのが話の大筋ですが、
この作品で面白いのは影乃の太々しいキャラクターですね。
悪徳警官やヤクザが出てきてもまったく動じない。
戦場帰りの元ゲリラという設定のせいか、
どこか命の危機を楽しんでるところがありますね。

この作品では様々なワルが出てきますが
その中で一番ワルなのは多分影乃なんですよね。
本人の戦闘力も高いのですが、一番の武器は悪知恵でしょう。
仲間は裏切らないし義理も大事にするのですが、
悪人に対してはこちらが引くほど手段を選びません。
しかも一流の戦闘能力を持ちながら肝心なところでは
自分の手を汚さず漁夫の利を得るところがずるい。
ただ、一度刑務所に入ってうんざりした経験から
出来るだけ安全策を取るという方針は
影乃の強かさを強調出来ているので悪くないです。

タフで男らしい探偵は色々見てきましたが、
こういった悪知恵をメインにするタイプは少ないかも。
肉体だけでなく精神面でもタフな探偵が見たい人なら
楽しめる作品になっているかと思われます。
2020/01/11

『もう「はい」としか言えない』松尾スズキ 感想

もう「はい」としか言えない
松尾 スズキ
文藝春秋
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内容は松尾スズキさんらしい混沌とした中編が2つ。
どちらも主人公は中年おっさん脚本家である海馬です。

まず一本目は海馬が「世界を代表する5人の自由人」に選ばれ
授賞式のためにパリに行くというもの。
しかし授賞式に行く理由が妻と毎日セックスするのがつらくて
それから逃れるためというのがかなり酷い。
毎日セックスすることになった原因が
海馬が浮気したためというのも酷いですが。

しかし授賞式に出るためにかなりの不自由を強いられて、
一方で賞を作った富豪は自殺することで自由を勝ち取るという
なんというか、馬鹿なのに妙に深いところがなくもない。
まあ松尾さんの小説はいつもこんな感じですが。

2本目は海馬の過去の話。
ちょっと変わった少年としてちやほやされたことにより
小学生にしてちやほやされることが生きがいになった海馬少年。
そんな彼を中心として小学生特有のシンプルでありながらも
容赦ない人間関係が面白おかしく描写されています。
自分より下の人間は付き合いやすいとか刺さる人もいるでしょう。

表題となっている「神様ノイローゼ」というのは
いつも神様に監視されているという被害妄想のことですが、
作中での神様ノイローゼの扱いは割と軽めで
むしろ重大なのは少年水死体事件ですね。

この少年水死体事件というキーワードがことあるごとに
出てくるので読者としては非常に気になるわけですが、
その真相が明かされるのはこの中編の最後。
しかも最高にくだらない真相というのが松尾作品らしい。

基本的には頭空っぽにして楽しめるおバカ小説ですが、
そんな中に人間の本質を鋭く抉った部分があるのが
松尾作品の面白さなんですよね。
2019/12/30

『腸詰小僧』曽根圭介 感想

腸詰小僧(ちょうづめこぞう) 曽根圭介短編集
曽根 圭介
光文社
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ミステリーのセオリー外しに拘った短編集。

各短編の開始時のシチュは分かりやすいものなので
普通ならこうなるだろうという予想はできるのですが、
そこをしっかり外してくるのがポイントですね。
基本的に話が犯罪を達成する方向に進むので
物語としては真っ当に終わらないのですが、
結末が暗いにも関わらずある種の爽快感が得られます。

基本的に被害者視点かと思えば実は加害者だった、
あるいはその逆のような叙述トリックが多いので
ある程度身構えながら読むのですが、
結末が読めたのもあり読めなかったのもあり。
最後の作品である「留守番」だけは
仕掛けがシンプル過ぎたような気がしましたが、
概ね意外性の楽しめる作品だったと思います。

手軽なクライムサスペンスや叙述トリック物を
読みたい人にはオススメできる短編集かもしれません。
2019/12/20

『インソムニア』辻寛之 感想

インソムニア
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辻 寛之
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PKO派遣で現地の民兵と戦闘になった自衛官たち。
一人の戦死者を出しながらも何とか無事帰国したものの、
帰国した自衛官たちの心の傷は深くついには自殺者が。
果たして彼らは現地で何を経験したのか…。
という感じで、自衛隊のPKO派遣を扱った社会派ミステリー。

基本的には派遣された自衛官たちの話を聞きながら
隠された真実に近付いていくという流れになるのですが、
真実の隠し方が上手くてついつい引き込まれます。

戦闘があったかどうかで紛糾する国会、
妊娠した女性隊員、死体が見つからない戦死者。
これらの断片的な情報からでも色々妄想できるのですが、
明かされた真実は予想より救いのないものでした。

戦場帰りのPTSDは社会問題ではあるのですが、
社会問題として騒ぐことでPTSDを持っている本人が
どういう影響を受けるのかという視点は
どうしても忘れがちになってしまいますね…。

PKO派遣の是非や自衛隊の立場という問題提起だけでなく、
派遣される自衛官側の視点に力を入れることによって
問題化する方も他人事なのではと思わされました。
そんな重いテーマを扱いながらも謎解き物としての
エンタメ性もしっかり備えていて読み応えのある作品でした。
2019/12/15

『ヴルスト! ヴルスト! ヴルスト!』原宏一 感想

ヴルスト! ヴルスト! ヴルスト!
原 宏一
光文社
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ドイツのソーセージ、ヴルスト作りを目指す男たちの物語。

私は食についてはあまり詳しくないので、
ヴルストというものについて今回初めて知りました。
まあソーセージですし何度も見ているはずなのですが、
これまではソーセージとしか認識してなかったです。

主人公は脱サラしたおっさん・髭と中卒の青年・勇人。
ボロアパートで大学入学を目指そうと頑張る勇人ですが、
髭のヴルスト作りに巻き込まれてさあ大変。
しかしヴルストを作っているうちにその楽しさに目覚め、
髭とぶつかり合いながらも友情を育んでいくという
王道年の差友情物という感じの流れになっています。

髭も勇人も大きな挫折を味わっているだけあって
頑なで捻くれている部分があるのですが、
根は善人なので読んでいて不快感は少ないですね。
脇役たちも善人が多いので全体的に雰囲気は暖かめ。
意表を突かれる展開は少ないので一歩間違えると
特徴のない物語になってしまいそうですが、
そこはヴルストの蘊蓄を上手く挟むことによって
読者の興味を引き続ける作りになっています。

珍しいネタを使った王道人情物という感じで、
読みやすくて後味が良いので万人にオススメな作品です。
2時間ぐらいの映画にも向いているかもしれませんね。