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『機巧のイヴ』乾緑郎 感想
機巧のイヴ
機巧のイヴ
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乾 緑郎
新潮社
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我々が知っているものとは微妙に異なる江戸時代を舞台に
カラクリに纏わる様々な出来事が描かれる幻想時代小説。

最初の短編「機巧のイヴ」は人間と機械人形の心を扱った
定番のSFストーリーを時代劇風の味付けで見せた感じで、
これはこれで短編小説としてよく出来ていたのですが、
それ以降の物語でどんどん世界観が掘り下げられていって
短編集としての構成の妙を感じられる作品でした。

タイトルの機械人形・伊武は重要キャラではあるものの、
彼女を起点として多種多様な人物を絡ませることで
読者を飽きさせない物語を見せてくれるのが素晴らしい。
世界観の説明にしても長々と地の文で説明するのではなく、
捔力取り、隠密、天帝といった人物が行動して示すことで
読者にはあっさりと、それでいて面白く見せています。

5つの短編の流れも面白いですね。
最初の2つは機械に関わった人間の不幸を描いていたので
そういう雰囲気のまま続くのかと思いきや、
3つ目ではこの世界観を生かしたサスペンス調になり、
4つ目、5つ目では人間と機械の小さな幸福を描いています。
綺麗に雰囲気が反転する短編集を読んだのは久々かも。
そのおかげで、怪しげな雰囲気の幻想小説にもかかわらず
日常物のような温かい読後感になっているのは興味深い。

機械人形という題材は使い古されたものですが、
単なる江戸時代ではなく架空の時代設定を混ぜることで
より幻想的な雰囲気を強くすることに成功した作品。
この世界観での物語をもっと見たくなる短編集でした。

テーマ:読書感想文 - ジャンル:小説・文学

『PK』伊坂幸太郎 感想
PK
PK
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伊坂 幸太郎
講談社
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PKといえばサイキックかサッカーを思い浮かべますが、
これはそのどちらにも関係する物語。

今回の物語は3本の短編で成り立っていて、
全ての短編を読むと一つの物語が浮かび上がるという
伊坂さんの本ではよくある構成になっています。

全体的な雰囲気としては明るいSFホラーという感じ。
なんだか矛盾した表現にも思えますが、
得体の知れない力に影響される怖さはよく出ていますし、
それでいて登場人物の行動がどこかコミカルなので
妙に前向きな雰囲気が漂ってるんですよね。
読後に根拠もなく未来はそんなに悪くないのでは、
と思わせてくれる本になっていると思います。

ただ、雰囲気は良かったんですけど、
今回の作中の謎や展開はそれほど強力に感じられず、
先が気になるとまでは行かなかったのは残念。
サッカー、政治家、作家、スーツアクター、
そしてゴキブリという要素の繋げ方は面白いんですよね。
ただ、面白いといっても上手いこと言ったレベルで、
物語としての面白さとはちょっと質が違うかなと。

短編集ならこんなもんなのかもしれませんが、
もっと広げられそうな設定だけに物足りなく思うのかも。
さらっと読むにはいい本かもしれませんが、
歯応えを求めるには向いていない本だと感じました。

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『ブルーネス』伊与原新  感想
ブルーネス
ブルーネス
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伊与原 新
文藝春秋
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伊与原新さんといえば理系ミステリーなイメージですが、
今回の作品はミステリー色薄めのエンタメ小説です。

テーマとなるのは新型津波感知システム。
舞台となるのは東日本大震災を経験し南海トラフが迫る日本。
主人公・準平の所属するチームは一刻も早い
新型システムの稼動を目指して動き出したものの、
そこには既存のシステムや学閥が立ちはだかることに。

国家レベルのプロジェクトとなると動きが鈍くなり、
革新的なシステムが受け入れられるには
実際の災害で実績を出すしかないというのは分かりますが、
災害から人間を守るシステムを認めさせるために
災害が必要というのはなんとも皮肉ですね。
机上の理論に資金を出せないというのも分かるのですが…。

とはいえ、これは権威側だけの問題ではなく、
災害対策に失敗したとき叩く市民側の問題でもあります。
前例も予算も時間もなく、それでも予報や分析を外したら
ボロクソに言われるんだから守りに入るのも分からなくもない。
この本の終盤のように海保(政府)と学者と民間が
それぞれ自分に出来ることで積極的に力になる心構えこそが
地震大国日本では求められているのかもしれません。

現在の災害対策の限界を見せつつも
その最前線で戦う人々の懸命さをしっかり描くことで
爽やかな読後感を与えてくれる小説でした。

テーマ:読んだ本の感想等 - ジャンル:小説・文学

『ブレイン・ドレイン』関俊介 感想
ブレイン・ドレイン
ブレイン・ドレイン
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関 俊介
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テストによってサイコパスが隔離されるようになった世界で、
サイコパス判定試験に引っかかってしまった主人公が
なんとか真っ当な世界へ帰ろうと足掻くSFアクション小説。

前半の舞台である危険人物だけが隔離された島の
スラムっぷりはなかなか緊張感があって面白いですね。
単純に治安が悪化してモヒカンが徘徊しているような
世界観は近未来SFではよくありますけど、
一つの島がサイコパスの溜まり場というのは珍しいかも。

ラスボスもザ・サイコパスって感じで良かったですね。
人を騙して傷付けることを心底楽しんでるのが
伝わってきましたし、それでいて狡猾さも持っているので
絶対に出会いたくないタイプと言えるでしょう。

ただ、主人公は物足りなかったです。
お人好しで実に主人公らしいタイプではあるのですが、
設定で精神異常を扱っている割には普通過ぎでした。
殺意を読むという能力の使い方は面白かったですけどね。
どうせなら主人公もサイコパスか、サイコパスほどでなくても
性格的に何らかの異常なところがある人物だったら
もっと深い作品になったような気がします。

本作のサイコパス判定試験は結果的に穴があったわけですが、
近い未来、脳の仕組みが解明されれば判定は可能でしょう。
しかしいざ可能になったときどう対応するかについては
今から考えておいた方がいいのかもしれませんね。

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『漆黒の象』海野碧 感想
漆黒の象
漆黒の象
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海野 碧
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2つの奇妙な親子関係を扱った探偵小説。

自分が提供した精子から生まれた
5人の息子を探して欲しいという依頼は面白いですね。
依頼主である社長夫婦も何か隠していそうで先が気になる。
それに加えて主人公の過去に多大な影響を与えた
母子惨殺事件の真相も絡んできたりして、
序盤はなかなか複雑な展開を見せてくれます。

しかし最後まで読んでみると思っていたよりも
これら二つの事件が絡んでいなかったような印象でした。
特に息子捜索の方は序盤の謎が謎を呼ぶ展開の割に
拍子抜けのオチで、これなら息子の数を減らして
短編小説として書いた方がすっきりしたような気がします。

一方、母子惨殺事件の方はしっかり推理していて、
事件に隠されていた真相は面白かったですし、
話の重要な鍵となる青年・哲也の使い方や
主人公の過去と事件の関係などが
綺麗にオチに繋がっていたのは対象的でした。
とはいえ、これもボリューム的には中編レベルですが…。

なんだか、二つの作品を混ぜて長編に仕立て上げたものの
融合が上手く行かずに空中分解したような作品でした。
最初から短編集として出せばまた違ったかもしれません。

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