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2018/10/17

『日本核武装』高嶋哲夫 感想

日本核武装
日本核武装
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高嶋 哲夫
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タイトル通り、日本が核武装するべきか、
非核を貫くべきかをテーマとしたサスペンス小説。
この手の作品は非核の結論ありきなものが多いですが、
この作品は核武装のメリットデメリットについて
より掘り下げて書いてあるように感じました。

物語は、被爆3世であり防衛省の分析官でもある主人公が
日本で核兵器を作る計画が進行していることを知らされ
その調査を任されるところから始まります。
最初は地味な調査パートが多いですし
計画の真相を暴いて終わりなのかと思っていたのですが、
中盤で中国の尖閣進出により自衛官が死亡したことで
物語の緊張感は一気に高まります。
後半は常に戦争一歩手前という緊張感が半端なくて
夢中になって最後まで読んでしまいました。

日本の上層部は戦争を回避しようと足掻くものの、
いざとなれば核兵器を使う覚悟を決めた中国と
専守防衛に徹する日本では立場の強さが違い過ぎる。
自分が交渉する立場だったと考えてみても
最終兵器を持っているだけで強気に出られますからね。
もちろん核を使用すれば他国から非難されるでしょうが、
日本が焼け野原になった後に非難されても
日本にとっては何の意味もないですからね。

日本だけでなく東南アジア諸国との関係に
触れていたのも面白かったです。
実際、日本がいくら戦争する気がなくても
南下する中国とアジア諸国がぶつかる可能性もあり、
そうなったときに知らぬ存ぜぬが通用するものか。
単純に戦争反対を叫ぶだけでなく、
もっと議論が盛んになってもいいような気もします。

まず核兵器を持たないという理想を基本としつつ、
現実として国家間での激突が起きた際にどうなるのか、
そこで核兵器の有無がどう影響してくるのか、
ということを改めて考えさせてくれる作品でした。
2018/10/11

『生存者ゼロ』安生正 感想

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安生 正
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突如連絡が途絶えた洋上基地へ向かった
自衛官が見たのは血塗れの姿で横たわる死体の山。
状況から未知の細菌による感染症が疑われ
各機関が警戒に当たるものの、それをあざ笑うかのように
北海道でも大量の犠牲者が発生し…という感じなので
最初はパンデミック物かと思ったのですが、騙されました。

血塗れの死体と書かれるとどうしてもまずはエボラが
思い浮かびますし、実際序盤の描写はそちらを思わせます。
その狙い通りパンデミックだと思ってしまったのが悔しい。
そこから人を襲っていたのが変異した蟻だと判明し、
自衛隊の総力上げた防衛線へと雪崩れ込んでいく
スピード感は見事で、一気に最後まで読んでしまいました。
外敵からの侵略として自衛隊が応戦するクライマックスは
単なるパンデミック物を超えた迫力があります。

人物描写としては感染症学者の富樫が良かったですね。
優秀な学者でありながら権力闘争に敗れ研究所から追われ、
妻と息子を失ってコカイン中毒になりながらも
理性と妄想の狭間で足掻く描写には力が入っています。
ヤク中といえば麻薬を求めるイメージですが、
この男の場合は麻薬で狂った自分に戻るのが怖くて
劇薬である精神安定剤を求めているのが面白い。
緊急時における人間の善と悪を体現した人物として、
この物語に奥深さを与えてくれる存在だったと思います。

ちょっと気になったのは病気で血塗れになるのと
蟻に食い殺されて血塗れになるのとだと
傷跡を調べればあっさり違いが分かるのではという点。
パンデミックと虫害では差が大き過ぎる気がします。
が、そこはまあ意外性の面白さがあったので
自分的にはスルーしてもいいかなと思えるレベルでした。
2018/10/06

『暗手』馳星周 感想

暗手 (角川書店単行本)
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つい先日まで爽やかサッカー小説を読んでいたのに
次は八百長サッカー小説を読むのも読書の楽しみ方の一つ。

内容としては馳星周さんらしい血を血で洗う闘争劇ですね。
八百長を生業にする主人公がサッカー選手をはめたものの、
選手の姉に惚れてしまったせいで掌を返して
八百長組織のメンバーを殺しまくるという展開。

主人公は最初から最後まで身勝手なのですが、
徹頭徹尾自分のために行動しているので不快感は薄め。
前半はあれだけ周到に罠にはめたサッカー選手を
女に惚れたため掌返して守り出すという無茶な展開なのに
それが自然に見えるのは主人公の心理描写が上手いからか。
こういう行動をとった人物は最後に殺されるのが定番ですが、
この男はなんとか生き延びるところが良かったです。

といっても決してハッピーエンド的な意味ではない。
この男にとって死は救いでしかないですし、
何も手に入れられないまま生き延びて
更に死体の山を築く未来を想像させてくれた方が
この本のドロドロとした雰囲気には似合っているでしょう。
そこを外さない辺りは流石は馳星周さんだなと。

一度壊れた男がもう一度壊れていく様子を
疾走感と泥沼感溢れる文章で見せてくれる作品でした。
この男にはまだまだ地獄の底でのたうち回って欲しいですね。
2018/10/05

『ヘダップ!』三羽省吾 感想

ヘダップ!
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三羽 省吾
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サッカーの才能に溢れる主人公・桐山勇は
高校卒業後にJFLのチームのスカウトに応えて加入。
J1チームからもスカウトされたことのある桐山にとって
JFLのチームは物足りなさを感じることが多かったものの、
長く在籍するうちに自分に足りないものが見え始め…。

という感じで、俺様だったサッカー小僧が
サッカー青年へ成長していく姿を描いた青春小説ですね。
描写が上手いせいか、JFLという言葉も初めて知ったぐらい
サッカーに疎い自分でも楽しむことができました。

部活との違いで戸惑う描写は面白かったですね。
部活の厳しさが分かりやすいのに対して、
プロは結果を出さない人間には厳しいものの、
ある程度結果を出しているとなあなあになるというか。
チーム最年少の勇が生意気な口を叩いても
大人たちは誰もまともに怒らずスルーするだけ。
まあこれはこれである意味怒られるより厳しいですが。

その後は勇が心身ともに成長して
周囲に気を使えるようになるだけでなく、
周りの大人たちも勇の真っ直ぐさに影響されて
サッカーへの情熱を取り戻していく行くという、
お互いがいいバランスで歩み寄るのが良かったですね。
少しでもどちらかに寄ると後味が悪くなったでしょうけど、
この作品はそこが上手く爽やかな読後感がありました。

この作者さんの作品を読むのは2作目ですが、
どちらも押し付け過ぎない爽やかさが好印象ですね。
ますます他の作品も読みたくなってきましたよ。
2018/10/02

『黒い波紋』曽根圭介 感想

黒い波紋
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曽根圭介
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不祥事で警察をクビになったロクデナシが
とある政治家を脅迫するところから始まるサスペンス。

最初はこの元警察官・加瀬が主人公かと思ったのですが、
途中からは政治家一族の元汚れ仕事担当である
老人・貞次郎がメインになっていましたね。
このバトンタッチが自然だったのは人格の差のおかげか。
加瀬も抜け目ない小悪党でしたけど
それ以上に貞次郎の老獪さが魅力的でした。
加瀬の最期が若干唐突でも気にならなかったのは
興味が貞次郎に移ってたからでしょうね。

その貞次郎の生き方の複雑さも面白かったです。
先々代、先代の家族の一員として遇され
その恩を返すべく当代のダメ政治家に尽くすものの、
肝心のダメ政治家からは裏切り者扱いされる始末。
それでも主家のために人を殺そうとするぐらい
忠誠心が高かったものの、肝心のダメ政治家が
過去殺人を犯していたことを知ると見切りをつける。
この手のひら返しっぷりは、どんな忠犬にとっても
越えられない一線があることを雄弁に語ってくれました

特に大きな盛り上がりがあるわけではないのですし、
視点も状況もごちゃごちゃしているのですが、
加瀬の脅迫計画からそれに対する貞次郎の動き、
更に政治家一家内でのゴタゴタへと状況が流れるように
動くのでいつの間にか読み終わっていました。
少し寂しい終わり方ですが、それを覚悟の上で選ぶ
貞次郎の生き様は心に残るものがあります。