手を出したものの感想を書き溜める場所
『吹けよ風 呼べよ嵐』伊東潤 感想
吹けよ風 呼べよ嵐
吹けよ風 呼べよ嵐
posted with amazlet at 17.06.27
伊東 潤
祥伝社
売り上げランキング: 231,426

上杉家の武将である須田満親の視点から
後の川中島の戦いへ至る流れを描いた歴史小説。

川中島の戦いの主役といえば武田信玄と上杉謙信ですが、
この本では須田家という信濃の小勢力に視点を当てることで、
川中島の前段階である武田と村上義清の戦いから描写し、
武田と上杉が激突するまでを分かりやすく見せています。

当時の信濃には小勢力が多く、それらが武田に対抗するため
村上の下に集まり、最終的には上杉と武田という
二大勢力に飲み込まれていく姿は戦国時代の縮図でしょう。
本作では須田家が身内で敵味方に分かれていますが、
両家の間に憎しみはなくそれぞれの間にあるのは
家を残そうという意思だったというのがやるせない。
しかし本作で敵として出てくる真田家も
後に似たような方法で家を残しているのは面白いですね。

ただ、物語としては物足りなかった面もあります。
この物語は第四次川中島合戦までを描いていますが、
この戦いについては歴史小説では散々使われているので
新鮮さも爽快感も控えめなまま終わった感があるんですよね。
須田満親の物語としても親友である信正との関係には
一応の決着が付くものの、満親の人生としては
まだまだこれからというところで終わってしまいます。
個人的には歴史小説としてはその人物の一生を
最後まで描くタイプが好きなのでここは引っかかりました。

調べてみたら、この後の満親は本作では宿敵扱いだった
真田幸綱の孫である信繁を預かったりするようですし、
他にも嫡男が追放されたりと、川中島以降の人生の方が
波乱万丈に見えてきてむしろこっちを読んでみたかったなと。
上杉家の家臣となった信濃勢力という着眼点は良かったので
どうせならその結末まで見せて欲しかったところです。

テーマ:歴史小説 - ジャンル:小説・文学

『完全なる首長竜の日』乾緑郎 感想

現実と脳内を行き来するSFミステリー小説。

植物状態の患者の脳にアクセスして
患者をカウンセリングしていくという設定は面白い。
似たような設定の映画に「インセプション」があるのは
巻末の選評でも触れられていましたけど、
インセプションでは外国映画らしい派手なアクションが
多かったのに対して、こちらは日本のミステリー小説らしく
精神世界での謎解きを重視した作品になっています。

この作品で印象的だったのは描写の巧みさ。
南の島の風景から主人公の作家生活までいちいち描写が丁寧で、
読んでいてそのシーンが想像しやすい作品になっています。
そのせいで現実に非現実が混じる異常な部分、
例えば首長竜のシーンなんかも容易に想像できてしまうため、
幻想小説を読んでいるような酩酊感が感じられました。
こういう現実と非現実が交じり合う作品は大好き。

ただ、良くも悪くも小さく綺麗に纏まった作品なので、
インセプションのように深く深く潜っていく作品と比べると
あっさりした読後感になってしまうのはしょうがないですかね。
これは方向性の違いでどちらがいいというわけではないです。
ひたすら深く潜って真相を求めるインセプションに対して、
この作品は死角になっている場所を発見する感じでしょうか。
どちらも知ってると比べる楽しみが出来ていいですね。

しかしインセプションはめっちゃ面白かったので
この作品も映画にすると面白そうだと思っていたのですが、
既に映画化されてたんですね…でも評価がいまいち。
ちょっと興味があるのでそのうち見てみようかな。

テーマ:読書感想文 - ジャンル:小説・文学

『アイよりアオい海の果て』体験版 感想
公式はこちら

老舗メーカーAXLの最新作である
『アイよりアオい海の果て』を体験してみました。

内容としては、いつも通りちょっと変わった舞台での
スローライフゲームという感じでしょうか。
船の上に町があるという設定は特に目新しくも無いですが、
それだけに受け入れやすいとも言えます。
眠っていた女の子を目覚めさせるという展開も
今まで数え切れないほど見てきた使い古されたものです。

しかし面白かったのはそこからアイドルというものを通じて
文化を掘り下げる方向に話が進んでいったこと。
文化がほとんど滅んでしまった船上生活において
これからどうやってアイドルをプロデュースし
文化を復活させていくかというのは興味深い展開です。

でもここからすごく面白くなりそうかというと微妙かなー。
農業や畜産やら漁業しつつ機械も弄ったりしながら
アイドルを助けていくという展開になるんでしょうけど、
体験版を触った感じでは主人公の行動に計画性が無いですし、
アイドル活動もシオンが邪魔してきそうな雰囲気が。
なんとなく小さな引っ掛かりが多くなりそうな気がします。

メインヒロインのアイのアイドル設定も難しい。
世間ではアイドルの恋愛について騒ぎになっていますが、
エロゲーでここらへんの設定は足かせになりかねない。
さらっと流してくれるならいいんですけど、
肝心なところでこのアイドル恋愛禁止設定が邪魔すると
なかなかイラッとさせられる展開になりそうです。
あとこの舞台設定だとアイドルとしてどうこうよりも先に
街角で歌いまくって歌というものを広げていった方が
いいのではないかと思ってしまいました。


まとめ。
だいたいいつものAXLという感じ。
このゆったりした舞台設定には引かれる部分があるものの、
引っかかる部分も多いので今回もスルーですかね。
スタッフ的にだいたいの出来が読めているので
体験版を気軽に触る分にはいいのですが、
製品版に手を出すにはあと2歩ぐらい何かが欲しいです。

本当に代わり映えしないので謎の安心感はあるのですが…。

テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム

『オー!ファーザー』伊坂幸太郎 感想
オー!ファーザー (新潮文庫)
伊坂 幸太郎
新潮社 (2013-06-26)
売り上げランキング: 60,384

4人の父親を持つ少年が主人公のドタバタコメディ。

基本的にはいつもの伊坂小説という感じで、
ヘンテコな登場人物たちがヘンテコな状況に陥りつつも
なんだかんだで協力して危機を脱するという内容です。

4人の父親がいるというと世間的にはとても駄目な状況ですが、
自分は女性中心のハーレムが結構好きだったりするので
個人的にはそれほど拒否感を持っていなかったりします。
まあ世間的にはとても駄目でしょうけど。

でもこの小説の家族はホント楽しそうで憧れます。
博打好き、インテリ、ナンパ師、体育教師と、
これだけ父親がいれば大抵の事態はなんとかなるでしょう。
もちろん実際に血が繋がっているのは一人だけですが、
産まれたときから一緒に暮らしているのなら
血の繋がりなんて些細なものでしょうね。
ここらへんは重力ピエロに通じるところがあります。

ただ、多恵子や鱒二は好きになれないなー。
いいところもあるんですけど、それ以上に普段の行動が嫌い。
こういう人が嫌がっててもぐいぐい来るタイプは苦手です。
だから富田林さんが鱒二を脅すシーンはスカッとしましたね。
まあこういう人ともそれなりに付き合っておけば
何かの拍子に役に立つということなのかもしれませんが。

とはいえバラエティー豊かな父親たちは面白かったですし、
彼らのおかしな親子関係が羨ましくなりました。
父親たちも結構フリーダムなのに不快感が無いのは不思議。
読んだ後にちょこっと親孝行したくなる作品です。

テーマ:読書感想文 - ジャンル:小説・文学

『Chrono Box』 感想
公式はこちら

NO BRANDのデビュー作である『Chrono Box』の感想です。
軽くネタバレを含む内容なのでご注意を。

作品としては完全にシナリオ重視で、
ほぼ一本道のエログロサスペンスという感じでしょうか。
グロ自体はそれほどキツイ物ではありませんが、
それでもモツがばっちり見えたりするので
グロ耐性がまったくない人には厳しいと思われます。

基本的な話の筋はループを繰り返していくうちに
世界の謎が解き明かされていくというよくあるものですが、
一周が短くて次々繰り返すタイプなのでテンポが良いですね。
一周が長い作品だと序盤の記憶が曖昧になった頃に
ループすることもあるのですが、この作品では心配なし。
最初のキャラが整列してるシーンで前の世界との違いが
視覚的に分かる作りになっているのは良く出来ています。

少しずつ減っていくクラスメイトや黒い箱についての真相は
いい意味で予想を裏切る形になっていたので満足。
「今回の犠牲者はこの娘か…」と思いながら
女の子といちゃいちゃしてるシーンを見るのは楽しかったです。
核心キャラである屍の掘り下げに入るタイミングも絶妙。
ループに飽き始めたところで雰囲気が一転しますし、
全体の構成がしっかり練られていることを実感します。

ただ、期待はずれというほどのことではないのですが、
自分が何か隠し持っていそうだと期待していたキャラほど
本筋に関わってこなかったのは少し残念でしたね。
この期待していたキャラはイコール好きなキャラでもあるので、
結果的にキャラクター面ではそれほどハマれなかったです。
機会があれば無罪組でスピンオフを見てみたいですね。

しかしエロシーンが笑えるノリだったのは嫌う人も多そう。
イチャラブシーンはともかく、鬼畜エロシーンの方は
キャラの反応が面白くてギャグとして楽しんでしまいました。
シチュは酷いんですけどキャラの反応がそれ以上に激しい。
下品に叫ぶ系のギャグが好きな人なら楽しめるかもですが、
エロとして使えるかといわれると返答に困りますし、
もうちょっと抑え目でも良かったような気はしますね。


まとめ。
エログロサスペンスとして満足できる作品でした。
この世界に隠された真相についてはなかなか凝っているので
推理で完全に的中させるのは難しいとは思いますが、
設定としては面白くて新鮮な驚きが味わえました。

エロシーンは特殊なシチュが多くグロシーンも多いですが、
ここにも真相に繋がるヒントが隠されているのが面白いです。
単なる特殊性癖だと思っていたものが後半真相が分かると
あれが伏線だったと気付かせられるのは見事でしたね。
体験版をプレイして惹かれた人なら
期待を裏切られることは少ないのではないかと。

惜しむらくは、自分の場合はメインの屍も含めて
強烈に惹かれるキャラがいなかったので
何度もプレイするモチベが保てないってことですかね。
まだまだ見落としがあるでしょうし勿体無いとは思うものの、
こればかりはどうにもならんです。

テーマ:美少女ゲーム - ジャンル:ゲーム