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2019/09/16

『コンタミ 科学汚染』伊与原新 感想

コンタミ 科学汚染
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伊与原 新
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疑似科学を扱ったサイエンスサスペンス。

基本的には科学者サイドから見た
疑似科学の怪しさについて描写しているのですが、
一方で疑似科学を信じる人間の心情にも切り込んでいます。
万病に効く水みたいなのは誰が見ても怪しいですが、
肌が綺麗になるとか痩せるとかになると
騙されてもいいから試してみようとなりやすいです。

また、科学者から科学的に説明されると
バカにされていると感じてしまってかえって頑なに
疑似科学を信じてしまうという感情も分からなくもない。
こういうのを防ぐには日本人全体の
科学知識を底上げするしかないのかもしれませんが、
これもまたなかなか難しそうなんですよね…。

科学的な立場から疑似科学を責める科学者にしても
感情で動く人間であることに違いはないですし、
同じく感情で疑似科学を信じる人間に対しては
決定打を持てないというのがなんともやるせない。
実際、科学によって救いのなさを知るのと
疑似科学を信じて幸福でいるのとでは
後者の方が幸せというのを否定する術はないですし。

科学小説ではあるのですが、
人は結局信じようとするものしか信じないし、
それを否定されるとより頑なになってしまうという
現代の生きにくさを改めて見せつけられるお話でした。
2019/09/05

『機龍警察 狼眼殺手』月村了衛 感想

機龍警察 狼眼殺手 (ハヤカワ・ミステリワールド)
月村 了衛
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人が乗り込むロボが活躍する近未来警察物の新作、
なのですが、今回は珍しくメカ戦がありませんでした。

いつもなら序盤に派手なメカ戦が入って
数多くのモブが木っ端微塵にされるのがこのシリーズ。
しかし今回は普通の暗殺シーンから始まったので
ちょっと毛色の違いは感じてたんですよね。
しかしまさかメカ戦なしで最後まで行っちゃうとは。

自分はメカ戦目当てで読んでいる面もあるので
ちょっと物足りなさがあったのは確かですが、
話としてはいつも通り面白かったですね。
今まで言われていた「敵」以外の大物の存在も
はっきりしてきて話が広がってきた半面、
残り3年というリミットも切られたので、
話の終わりが見えてきた感もあります。

今回は外国勢力よりも日本国内の勢力の汚職の
捜査がメインということで、これまで以上に
警察小説っぽさが強調されていましたね。
実行犯がIRFのテロリストということで
ライザの描写にも重点が置かれていたものの、
本筋は国内勢力の現状整理という感じでしょうか

しかしライザと鈴石さんの因縁については
今回で一区切りついたと考えて良さそうですね。
この二人の関係についてはちょっと引っ張り過ぎな
気もしていましたので、これで一安心です。

メカ戦がなかった点こそ残念だったものの、
話の本筋は進んだこともあって満足度は高めでした。
とはいえ、次回はまた派手なメカ戦が見たいところです。
2019/08/31

『幽霊たち』西澤保彦 感想

幽霊たち
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西澤 保彦
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幽霊が出てきたり幽霊視点で進んだりする不思議小説。
西澤さんといえばこの手の不思議な作品の
名手という印象ですが、今回は微妙だったかな。

まず序盤、主人公がいきなり見知らぬ人物から
殺人事件の関係者扱いされて、幽霊と話し合いながら
記憶を遡っていくという掴みは良かったです。
主人公は60歳近い初老の男性ですけど、
幽霊の方は昔死んだ少女の姿のままという組み合わせも、
この後の記憶を遡るという展開にはピッタリでですね。

過去編に入ってからも悪くはないのですが、
途中で一人二役ネタに気付いてしまったので
ちょっと消化試合的な読み方になってしまいました。
一応、放火事件の真相追及や拳銃騒動など
他にも盛り上がりそうな場面はあったものの、
その前提である複雑な家庭環境や友人関係の描写が
いまいち中途半端な印象で話に入り切れなかったです。
同性愛やら女装やらドロドロしてはいるんですけど
どこかあっさりしていて熱中できないというか。

最後のオチが、全ては複雑過ぎる家族関係から来た
誤解による殺人だったというのも微妙でしたね。
めちゃくちゃ回り道した末の行動に
意味がなかったというオチは…ちょっとしんどい。
凹むことすらなくホント「無!」って感じです。

家族関係やギミックは複雑だったんですけど、
面白さよりも徒労感が強かったのが残念でした。
2019/08/29

『ドラゴンスリーパー』長崎尚志 感想

ドラゴンスリーパー
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長崎 尚志
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警察官OBの老人と頼りない若手刑事のコンビが
難事件を追っていくシリーズの2作目。
今回も複数の事件が複雑に絡み合うストーリーです。

発端はかつて未解決で終わった児童殺人事件…
を調査していた老人が殺されたこと。
この児童殺人事件は未解決なだけでなく
一度冤罪逮捕を生み出しているだけあって手強く、
更に同時期に中国残留孤児2世が殺されていたり、
今でもそちらに関わっている公安が出張ってきたりと、
かなりごちゃっとした状況で話が進みます。
正直、状況をまとめるだけでも大変なのですが、
実際に読んでみるとややこしいなと思わせつつも
置いて行かれるほどではないところは構成の上手さか。

事件の構造が複雑なだけあってオチに関しても
アリバイトリックから黒幕の存在まで仕掛けが多く、
それらが終盤に明らかになっていくのは痛快でした。
個人的には中国結社の扱い方がかなり好み。
数百年続く組織の底力を見せつけられた気分です。

前回に引き続き今回も見事な構成でしたし、
国家や組織といった大きな影が見え隠れするものの
事件の本質は身近という味わいは癖になります。
このシリーズは今後も追いかけたいですね。
2019/08/26

『虚の聖域 梓凪子の調査報告書』松嶋智左 感想

虚の聖域 梓凪子の調査報告書
松嶋 智左
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甥の自殺の調査をその親である姉から依頼された
中年女探偵が泥沼にはまっていくミステリー小説。

いやー、これはなかなか重い作品ですわ。
まず主人公と姉のヒステリックさがしんどいです。
姉は息子を失った姉の気持ちも分かる…
なんて言葉が消し飛ぶぐらいやかましいですし、
主人公もすぐカッと来る性格で一歩も引きません。
この二人が顔を合わせるシーンはひたすらしんどい。

調査パートについては謎が謎を呼ぶ展開で面白いです。
生徒のプライバシーを盾に非協力的な学園に対して、
個人攻撃に近いほど生徒の私生活に密着して
情報を引き出すというのは珍しい展開でしたし、
学園内に潜む謎と甥の本当の親の謎が絡み合って
甥の死の真相を隠すという構成もお見事でした。

しかしそこから導かれる結末がこれまたきっつい。
最終章でじわりじわりと新たな真相が明らかになり、
全てが明らかになって読者がこれで終わりか…
と思ったところで読者を突き落とす。
真相を明かすだけなら最後の1ページは不要ですし、
実際そこで終わる作品は多いと思うのですが、
この作品はしっかり叩き落してきましたね。
お陰様で読後とても憂鬱になった反面、
やりやがったな!という爽快感も少しあったり。

最後まで救いのない話ではあるものの
そこへ繋がる流れは丁寧に描写していましたし、
謎解きも面白かったので鬱系ミステリーとしては
ナイスな作品だったと思います。