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2020/05/27

『人間に向いていない』黒澤いづみ 感想



引き篭もりが突然異形に変化する奇病が発生。
ただでさえお荷物だった家族が異形に変化したとき、
果たして周りの家族はどう対応するのか…。
そんな設定で現代の家族関係を掘り下げた作品ですね。

主人公となるのは、引き篭もりの息子が
人間と虫が混じった異形に変化してしまった母親。
法律的には異形となった時点で死亡扱いになるものの、
それでも諦められず一緒に生活しながら
様々な人物と関わることで、自分にとって
息子とは何なのか掘り下げて行く…という流れです。

異形となった息子をあっさり見捨てる父親。
娘が異形になってしまった若い母親。
そして異形の身内を持つ親たちの互助会。
このような異形への態度が違う人たちと交流させて
主人公の考えを深めていくという構成は分かりやすい。
異形となってしまった時点で死亡扱いなので
殺してしまっても無罪というのはシビアな設定ですが、
無罪でも子殺ししたという事実は消えないわけで、
そこら辺の苦悩はやはり人間らしさだなと。

ラストは母親の献身で子供が元に戻るわけですが、
その献身が出来ないような家庭は崩壊し続けており、
家族関係のままならなさを感じさせられる内容でした。

と最後まで読んで気付いたんですけど、
これメフィスト賞受賞作品だったんですね。
よくまとまった素人離れしてる作品だとは思いますが、
メフィスト賞にしては優等生的過ぎる印象で驚きました。
2020/05/05

『MECHANICA―うさぎと水星のバラッド―』 感想

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同人サークル『Loser/s』さんの最新作である
『MECHANICA―うさぎと水星のバラッド―』の感想です。

物語の舞台となるのは遥か遠い未来の水星。
音楽を演奏しながら細々と生活する主人公は、
ある日、福引で超高性能メイドロボを当ててしまいます。

万能だけどプライド高めなメイドロボ・メカニカ。
彼女とのラブコメが始まると思いきや、突然崩壊する宇宙。
そのまま3日前に飛ばされた主人公とメカニカは、
最後の3日間を繰り返しながら宇宙崩壊の謎に迫ることに…。

このゲームを表す言葉は、SF、セクハラ、音楽ですね。
SFという面では未来の水星が舞台というだけでなく、
人間やめてそうな登場人物が多いという点でも面白い。
メイドロボでも高度な知性があると認められれば
人権が認められるという設定もワクワクします。

音楽で人の心を開いて手がかりを得るシステムも楽しい。
作中で使用されている楽曲は粒ぞろいですし、
脇役たちもそれぞれ重めの過去を背負っているので、
彼らの物語もSF短編としてなかなか読み応えがあります。
包丁ウサギのエピソードはめっちゃ寂しくて好き。
他はクトゥルフおじさんの存在も神話が
遠い未来でどうなってるか考えさせてくれて好き。

音楽を演奏するためにはメカニカにセクハラして
音楽パワーをゲットする必要があるというシステムは
いかにもエロゲー的ですが、メカニカの好感度に応じて
セクハラへの対応が変わるというのは良いですね。
セクハラもエッチシーンもあっさり気味ではあるのですが、
両方合わせるとかなりの数になり、恋人同士が
楽しんでイチャイチャしている雰囲気が伝わってきます。
ラストの盛り上がりも凄く、これまでの話が
音楽を通じて次々と繋がっていく演出は鳥肌ものでした。

惜しかったのはヒントが分かりにくいことと、
シーンや音楽を鑑賞するモードがないところですね。
シナリオはフローチャートで確認できるようにして、
そこでヒントやシーン回想もできるようになれば
もっと便利になったような気がします。


まとめ。
非情に気持ちのいいSFエロゲーでした。
主人公はダウナーだけどいい奴ですし、メカニカは可愛い。
退廃的な寂しさの中に暖かさを感じさせる雰囲気は
スチームパンクに通じるものがありますし、
宇宙の崩壊を止めるために平穏な日々を過ごすという
一見相反したテーマも見事に書ききったと思います。

同人ゲームですしボリューム的に小粒ではありますが、
大作ゲームに匹敵するカタルシスを得られる作品でした。
2020/04/22

『信長を生んだ男』霧島兵庫 感想

信長を生んだ男
信長を生んだ男
posted with amachazl at 2020.04.22
兵庫, 霧島
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織田信長物語の序盤最大の敵である織田信行の物語。
信行は歴史小説での出番は多いものの、
主人公として扱われている小説を読むのは初めてかも。

この作品の信行は、有能な優等生であるところは
数々の信長小説で描かれてきた人物像に近いです。
ただ根本的に兄大好きであるところが大きな違いですね。
ちょっと病んでるブラコンキャラというのはFGOに近い。
兄の才能に嫉妬しつつもそれ以上に兄大好きというのは
捻くれたブラコン好きにはたまらない性格でしょう。

終盤の展開も面白かったです。
信長を非情にするために自分を殺させるというのは
愛の重い作品では割とよくある展開なのですが、
そこに帰蝶を巻き込んだのは面白い。
子供こそ産めなかったものの信長の母代わりとして
確固たる地位を築いていた帰蝶を信行が殺すことで、
信長が信行を殺すしかないように仕向ける。
信長、帰蝶、信行という仲の良かった三人の関係が
信長の尻を叩くために崩壊していくのがたまりません。
帰蝶早死に説をこう使ってくるのは新鮮でした。

織田信行の最期は信長による暗殺と言われていますが、
その裏にこういう事件があったのかもしれないと
妄想させてくれる、良い作品だったと思います。
2020/04/16

『敗れども負けず』武内涼 感想

敗れども負けず
敗れども負けず
posted with amachazl at 2020.04.16
涼, 武内
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歴史の中での敗者たちに焦点を当てた短編集。

いずれの短編も敗者を扱っているため
結末がすっきりしない話が多いのですが、
扱っている人物が珍しいので退屈はしませんでした。
敗者を扱っている割には読後感は重くなく、
短編なので心情を深く掘り下げていないところが
かえって読みやすさに繋がっているのかもしれません。

メインになるのは上杉憲政、板額御前、
龍造寺隆信、足利持氏の子である春王と安王、
そして源頼朝の庶子である貞暁。
長編の主役になれそうなのは龍造寺隆信ぐらいかな。
板額御前なんて歴史小説で初めて見たかも。

どの短編も短い中で各人物にとっての重大事件を
読みやすくさらっと描いていたのですが、
一番読後感が良かったのは貞暁の話ですね。
他の話はただでは負けないという感じであるものの、
結局負けであることには変わりはないのですが、
貞暁の話だけは勝ち寄りの結末です。
頼朝の子でありながら将軍にならないという選択は
一見負け組に見えるものの、自らの生き様を
しっかりと貫いているので読後感が爽快でした。

短編なので読後の達成感は控えめですが、
珍しい人物の話を気軽に読めるのは良かったです。
2020/04/10

『金庫番の娘』伊兼源太郎 感想

金庫番の娘
金庫番の娘
posted with amachazl at 2020.04.10
伊兼 源太郎
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政治家の懐刀である金庫番。
その娘として産まれた女性を主人公にした政治小説。

内容としては潔癖気味だった元やり手OLの女性が、
政治家の新米秘書として政治の裏表を見ていくうちに
自分が本当に目指すものを手に入れるという話。

この本の主張は大きな目標を達成するためには
汚い手や絡め手を使ってでもそれを達成するための
力を手に入れる必要があるというものですが、
個人的にはこの主張には共感できますね。
もちろん間違った目標のためにこの手法を用いると
ただの極悪人ですが、正しい目標のためならありです。

そしてその目標が正しいか間違ってるかを
判断するためにも国民が政治を勉強する必要があると。
言われてみれば自分にしても選挙には行くものの、
新聞のマニュフェストをさらっと読むだけで
深く考えずに投票しているというのはあります。
もっと深く政策や将来の展望を語っている候補が
いるかもしれないのに、1人1人の候補を
しっかり調べるということをしてこなかった。

最近は良い政治家がいないと言いながらも、
そもそも政治家について調べていないということを
改めて気付かせてくれる作品でした。