2018/06/18

『私に似た人』貫井徳郎 感想

私に似た人 (朝日文庫)
貫井徳郎
朝日新聞出版 (2017-06-07)
売り上げランキング: 159,088

貧困層による無差別殺人「小口テロ」が常態化した日本を
様々な立場の人の視点から描いた短編連作小説。

テロという言葉を使ってはいるものの、
この手の事件は現実でも起こっていますし、
すぐ側まで来ている近未来の話に感じられました。
つい最近の新幹線の事件なんて小説より怖いぐらい。

本作の面白さは様々な視点から社会を描いている点ですね。
テロの加害者や被害者はもちろん、
テロの黒幕を追う刑事や無関係な部外者など、
視点の種類を増やすことで世界観に深みを与えています。

各短編の心理描写は流石の一言。
大事なものを全てを失ってテロに走る加害者の話では
加害者に同情してしまいましたし、
テロリストを負け組と見下す主婦の話では主婦に対して
本当にイライラさせられました。

スッキリしたのはインテリ層の話ですね。
貧乏なテロリストに同情し彼らを応援しようとする一方で
貧困問題に興味がない一般人を見下すというのは
小賢しい知識人のイメージとしてはピッタリでした。
そんな彼らが最後に手痛いしっぺ返しを食らうところは痛快。

ただ、ラストがよくある憎しみの連鎖はダメ的な
定番の結論で終わってしまったのは残念でしたね。
終わり方としては明るい方向ではあるのですが、
こういった定番の結論で社会が良くなるかと言われると
あまり説得力がないというのが正直なところでした。
結論だけがダメという訳ではなく、結論に至るまでの問答も
ありがちな流れだったというのが大きいかもしれません。
黒幕の動機は良かったんですけどね。

結末だけは微妙でしたけど各短編は面白かったですし、
最近の社会事情もあって他人事とは思えない作品でした。
2018/06/15

『家族写真』荻原浩 感想

家族写真 (講談社文庫)
荻原 浩
講談社 (2015-04-15)
売り上げランキング: 200,943

様々な家族の形を描いた短編集。

いやもう初っ端から泣かせに来てますねこれは。
妻を早くに失って男手一つで育てた娘がいよいよ結婚する…
という状況におかれたお父さんの話なのですが
心の中でいちいち亡き妻への語りかけるのがずるい。
それも重い語りではなく、妻の分まで人生を楽しもうという
前向きな心情が見えるところがより感動させてくれます。
「俺たち二人の娘が、嫁に行くぞ」は涙腺に来ました。

他には老化を認められない男や肥満を認められない男、
一戸建てに憧れる女などを描いたコメディ作品が多いのですが、
異色だったのはマネキンと家族になる男の話ですね。
孤独な男が拾ったマネキンと家族ごっこを始める話ですが、
これを爽やかな後味に仕上げているのはお見事です。
マネキンを使った精神治療、意外といけるのでは。
あと、しりとりの話は台詞だけだったのが新鮮でしたね。
前もこういう作りの話を見た気がしますけど、
何だったか覚えてないぐらい昔の話です。

最後はバラバラになった家族が再集結する表題作で締め。
写真屋という実家が嫌で飛び出した子供に残された子供。
そんな彼らが父が倒れたことによって再集結し、
昔は見えなかった実家の良さを再確認することで
父の写真屋を守り立てていくというストレートな内容。
今まで家族写真を撮ったことがない家族なのに
子供たちが成長してから始めて家族写真を撮るというのは、
家族関係がいい方向へ変化したことを感じさせる
これ以上ない演出だったと思います。

ハッピーエンドな家族ネタを読みたいならオススメな一冊。
切ないシーンはあるものの、それを前に進むバネとして
描いていますし、どの作品も読後感が爽やかでした。
2018/06/12

『冬雷』遠田潤子 感想

冬雷
冬雷
posted with amazlet at 18.06.12
遠田 潤子
東京創元社
売り上げランキング: 112,745

鷹を奉る寒村で起こった殺人事件の真相を追う物語。

主人公・代助の旧家の養子として引き取られたのに
実子が産まれると用済みという設定はありふれてますが、
そこに鷹を絡めるところで独自の田舎感を出していますね。
鷹とそれに関係する大祭を異常に重視するところは
いかにも閉鎖された田舎っぽい雰囲気があります。

その後実子が消えたことで町中から疑われた代助は
田舎から逃げ出すものの、その後10年以上経ってから
実子の死体が発見されたことで田舎に舞い戻り、
事件の真相を探っていくことに…という流れですが、
話の基本的な流れについては面白かったです。
次々と明かされていくドロドロとした人間関係は
期待通りでしたし、海へ乗り出すクライマックスも
鷹に纏わる伝承と上手く絡まって綺麗に纏まっていました。

ただ、全編に渡って弱い人物に対して同情的な描写は
個人的には肌に合わなかったですね。
辛い境遇だったから少女に手を出していいのか、
辛い境遇だったから子供を殺していいのかというと
それは絶対にノーと言えるわけで。

代助自身は、真犯人にもう少し優しくしていれば…
と思っていますけど、自分としては
そこまで責任を負う必要はないように感じました。
あと一度は血の繋がらない子供を切り捨てた両親が
また血の繋がらない子供を引き取るってのもなー。
掌返しが激し過ぎていまいち信用できなかったです。

全体的な物語の流れは好きなんですけど、
細かいところに引っかかりを感じる作品でした。
2018/06/07

『道誉と正成』安部龍太郎 感想

道誉と正成
道誉と正成
posted with amazlet at 18.06.07
安部 龍太郎
集英社
売り上げランキング: 557,568

南北朝時代初期の流れを北朝の重要人物・佐々木道誉と
南朝の重要人物・楠木正成を中心に描いた歴史小説。

護良親王によって見出された二人は協力し、
足利尊氏と後醍醐天皇を支えて倒幕を達成します。
しかし護良親王の失脚によって新政権に失望した道誉は
尊氏を支持して武家政権の復興を目指し、
一方正成は後醍醐天皇の否を諫言しつつも
最後まで後醍醐天皇方として奮戦することになります。

道誉と正成が敵対関係になってもお互いを認め合い、
特には協力して南北朝の融和を図るのはいいですね。
こういう敵になっても友情が続く展開は好きです。
道誉は敵対していても皇族を尊重していますし、
正成も後醍醐天皇に敵対する武士たちに共感している。
こういう二人の懐の深さが友情を持続させたのでしょう。
あと地味に千種忠顕がいい奴になっていくのが好きですね。
最初はザ・京都人という感じだったのに
最後の方は正成のために色々動いてくれますし、
こういう変化はよくある流れですけど大好物です。

面白かったのは同じ作者が書いた新田義貞の話と比べて
登場人物の扱い方がまったく違っていたこと。
新田義貞は主人公だったときには勇猛で真っ直ぐな
熱血漢だったのですが、今回は優柔不断で
周囲からの評価も低いダメ大将として描かれています。
足利直義も前は真面目な苦労人だったのが、
今回は汚い冷血漢の嫌われ者という扱いでした。
ここまで描写が変わるとなると、同じ人物が他の作品では
どう扱われているのか、もっと知りたくなりますね。

鎌倉時代から室町時代へ変化する混迷の時期に
武家と公家の間で板挟みになりつつも足掻き続けた
二人の大将の物語を、しっかり楽しめる作品でした。
2018/06/05

『瞬旭のティルヒア』 感想

公式はこちら

Liar-softの新作でありスチパンシリーズの新作でもある
『瞬旭のティルヒア』をクリアしてみました。

うーん、面白くないわけではないが…という感じでしょうか。
話としては非常に分かり易く、青年剣士・伊庭八郎が
謎の少女・りんとともに戊辰戦争を駆け抜けるというもの。
最初は無表情だったりんが感情豊かになっていく姿や、
そんなりんに少しずつ惹かれていく八郎の姿は
まさにボーイミーツガールの王道を体現したものでした。

設定面でも架空の幕末を舞台にして日本古来の侍と
スチパンらしい蒸気メカがぶつかり合うという
幕末好きとしてもスチパン好きとしても楽しめる作り。
前作に引き続いてニコラテスラが顔を見せるという
ファンサービスもシリーズ物ならではでしょう。

そんな感じでざっくり見てみるなら
かなり面白そうな作品ではあるのですが、
終わってみると全体的に薄味な印象が否めませんでした。
幕末が舞台なだけに大物キャラが多い作品なのですが、
八郎に関係ないところであっさり死んでいくので
物語として凄く淡白に感じられるんですよね。

これだけ脇役同士の争いが多いのなら
上手くやれば面白い群像劇になったかもしれませんが、
結果的には薄味の死亡シーンがたくさんできただけ。
設定は美味しいんだからもう少し練って欲しかったですね。

ライバル役である河上彦斎の薄さも微妙なところ。
見た目は某抜刀斎っぽくて面白かったんですけど、
性格は単なる戦闘狂で掘り下げられる要素はなかったですし、
その割には何度も出てきて悪い意味でしつこかったです。
個人的には戦闘狂キャラは嫌いではないですけど、
こいつとの戦いはあんまり盛り上がらないんだよなぁ。


まとめ。
幕末という素材は良いんですけど出てきた料理は微妙でした。
スチパンシリーズは全て抑えておきたい、
ニコラテスラの極東での活躍が見たいという人でなければ
積極的に手を出す必要はないと思います。
自分的にも一番盛り上がったのは
テスラお爺ちゃんが登場した中盤でしたしね。
五稜郭を飛ばすアイディアはロマンがあって好きですけど。

この出来だと次回作は買わない…とまでは行きませんが、
どんなものが出てくるのか不安を感じてしまいますね。