2018/04/18

『ロスト』呉勝浩 感想

ロスト
ロスト
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呉 勝浩
講談社
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複雑怪奇な誘拐殺人事件を扱ったサスペンス小説。

まず誘拐事件発生から被害者の死体が発見されるまでの
ジェットコースターっぷりが素晴らしいですね。
誘拐犯が電話してきたコールセンターの混乱っぷりや
100人の刑事を使っての日本100箇所への身代金輸送、
被害者の死体発見から容疑者逮捕まで凄くテンポがいい。

合間に挿入される監禁拷問描写がどう繋がるかと思ってたら
監禁拷問されていた被害者が誘拐事件の容疑者として
逮捕されたというオチで前半が終わるという構成は
自分を物語に引き込むには十分過ぎる衝撃がありました。
殺人事件発生中にアリバイがないというのはよくありますが、
その理由がどこかで監禁されていたからというのは珍しい。

後半の事件捜査パートの構成もよく練られています。
拷問事件の被害者にして誘拐事件の容疑者である安住が
事件を追うにつれて彼自身の過去が明らかになって行き、
全てが真相に繋がっていく流れはお見事でした。

かつて罪を犯しそれを反省して人のために尽くしても、
罪を犯した本人が納得できない限りは救われない。
悪人だったらスッパリ忘れて生きるんでしょうけど、
真面目な人間ほど苦しむというのはよくあること。
救いがない話ではあるのですが、救いがない世界でも
自分が出来ることをやっていくしかないという
僅かな前向きさも感じさせてくれる作品でした。
2018/04/15

『長篠の四人 信長の難題』鈴木輝一郎 感想

長篠の四人  信長の難題
鈴木 輝一郎
毎日新聞出版 (2015-09-23)
売り上げランキング: 239,619

信長、秀吉、光秀、そして家康が活躍するシリーズ3作目。
今回はかの有名な長篠の戦が舞台となります。

三河武士といえばその勇猛さは天下に轟き、
しかもそれを率いるのが海道一の弓取りとなれば
そこいらの大名にはそうそう遅れを取らないはずですが
それでも相手が武田となると流石に分が悪い。
勝頼が来ると聞いて織田を捨てて武田に着くか
真剣に検討し始める姿は微笑ましいですね。

しかしそこで圧倒的大軍で援軍に来る信長は流石です。
軍勢だけでなく当時高価だった弾薬を
有り余るほど用意している財力も恐ろしいところ。
更に相手が射程外にいる時点から一斉射撃をはじめることで
織田鉄砲隊のレベルが低いよう見せかけるところから始まり、
主力である騎馬兵でなく歩兵ばかりを狙うことで
武田側に被害が少ないように錯覚させる手の込みよう。

長篠の戦いといえば騎馬VS鉄砲という印象が強いですが、
初手では歩兵を狙っていたという解釈は新鮮でしたね。
これに対して武田が第二陣は歩兵を出さずに速攻狙いで
騎馬ばかりで突入するという発想も納得できるものであり、
ここでようやく歴史通りの騎馬VS鉄砲の戦いとなるわけです。

ここで面白かったのが歩兵と騎馬の身長差。
徳川の歩兵が腰を落として槍を構えているのに対して
武田の騎馬は明らかに身長が高く、
それゆえに徳川歩兵の後ろからでも武田側が丸見えで
鉄砲で狙い放題になるというのは発想の勝利でしょう。
こういう単純な盲点を突く戦法は小説的に大好きです。

今回もドタバタ歴史小説として面白かったのですが、
その影で松平信康と信長に不和の気配が漂っていたりと
じわじわと不安も増してきた感があります。
次辺りで信康切腹事件だったりするのかしらん。
そうなると仲良し4人組の間にも致命的な傷が入りそうで、
残念に思いつつも期待する気持ちもあったりします。
はてさてどうなるか。
2018/04/14

『戦友たちの祭典』森村誠一 感想

戦友たちの祭典
戦友たちの祭典
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森村 誠一
中央公論新社
売り上げランキング: 311,496

90歳を超えた元撃墜王である老人が
現代日本に潜む悪をバッタバッタとなぎ倒す痛快小説。

老化から来る生活習慣病の薬を飲んでいるとはいえ
90歳以上の老人にしてはタフ過ぎる主人公ですが、
まずこのご都合主義を受け入れられるかがポイントです。
それ以外にも老人をサポートする美女たちや
自衛隊やヤクザへのコネといった便利過ぎる設定が
数々出てくるのでそういう作品だと割り切るのが重要です。

でも割り切ってしまえばトンデモ作品として楽しめるわけで、
大物官僚を成敗したりペット虐待犯を私刑に処したりと
今時珍しいほどの単純明快さはある意味味わい深い。
作者である森村さんの御歳故かレトロな言葉遣いが
ちらほらと見受けられましたが、主人公が老人なので
違和感が少なく、一つの個性として受け入れられました。

基本的に主人公たちSUGEEEEなノリなので
読むときの気分次第ではげんなりさせられそうですが、
今回は頭を空っぽにして楽しむことが出来ました。
2018/04/11

『かりぐらし恋愛』 感想

公式はこちら。
『かりぐらし恋愛』を応援しています!
ASa Projectの最新作である『かりぐらし恋愛』の感想です。

前作であるサンカク関係は個別ルートが微妙だったのですが、
今回は最後まで軽快なイチャラブコメディでしたね。
どのルートも特に重い悩みが発生するわけではないので
盛り上がるポイントがないという欠点はあるものの、
そこはテンション高めのテキストで押し切った感じですね。
テンション高めなノリが気に入って買うなら満足できるはず。

シリアスが皆無になったのは前作の反省があったせいか。
ここまでシリアスがないと話は作りにくかったでしょうけど、
何とかルートごとに特徴を出そうとしているのは感じました。
例えば理兎だと二人きりに同棲生活状態になったり、
ひよりだとひよりと一緒に他ヒロインの家に泊まったりと、
イチャラブ形態の差別化をしようと頑張っていたと思います。
二人だけのイチャラブが好きなら理兎ルートがいいでしょうけど、
自分の場合は個別に入ってからも皆でワイワイして欲しいので
理兎以外の3人のルートの方が好みでしたね。

しかしキャラとしては理兎の見せ方は上手かったですね。
体験版時点ではちょっと理不尽気味なキレキャラだったので
あまり印象が良くなかったのですが、体験版以降だと
共通ルートでもかなりデレてくれるんですよね。
ここで早めにデレさせたのは英断だと思います。

逆に杏姉がここまで変わらないのは意外でした。
最初から最後までグータラだったので
自分としてはあまり印象がよろしくないのですが、
ダメ姉が好きな人にとっては変わらない方がいいでしょう。
ルートとしてはダメ人間に振り回される主人公とパパが
面白かったので満足度という点では低くないです。

体験版で好みだった絢花とひよりは期待通りでした。
絢花は妙な家族とのドタバタや絢花のムッツリぶりが、
ひよりはボケキャラかと思わせておいて
実は突っ込みが多いという振り回されキャラぶりが
それぞれしっかりと発揮されていたと思います。

ひよりは前作のツインテ妹が失速したので不安でしたが、
今回はしっかりボケツッコミ役を貫いてくれました。
「こいつホントに自分のこと好きなのか?」と
お互い思ってしまうようなおバカな付き合い方だけど
実際めっちゃ気が合ってる、みたいなカップル好きなので
ひよりルートは特にじっくり堪能させて頂きました


まとめ。
期待にしっかり応えてくれる作品は少ないのですが、
今作は期待していたものをちゃんと見せてくれました。
シリアスが極端に少なくドタバタとイチャラブばかりという
割り切った作りが見事に当たったということでしょう。

ただ、この作りは日常テキストの面白さがあってこそで、
日常がダメだと悲惨なことになってしまうのが難しいところ。
とはいえASaプロはそれを面白く出来る実力がありますし、
次回作もこんな感じでお願いしたいところです。
2018/04/04

『殿さま狸』簑輪諒 感想

殿さま狸
殿さま狸
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学研プラス (2015-03-24)
売り上げランキング: 44,403

蜂須賀といえば秀吉を支えた小六が有名ですが、
この本の主人公は息子の方である家政の方。
自身は十分に優秀といえる才覚を持ちながらも、
秀吉や小六といった英雄たちを身近に見ていたせいで
微妙に自己評価の低い家政が一人の大名として
自立していく姿を描いた歴史小説です。

この作品の家政は基本的によく悩み迷うのですが、
それを隠そうと常に強がっているのが特徴です。
一歩間違えると強がりが過ぎて嫌われそうな人格ですが、
彼自身が自分の欠点を弁えていてそれを補うために
考え続けるという努力をしているところは好印象。
自分の才能の限界を承知しているからこそ
常に自分の作戦に見落としがないか考え続ける
臆病なところは小心者としてはとても共感できますね。

序盤から思わせぶりに登場していた法斎の正体や、
作中で何度も使われていた川並衆という言葉が
クライマックスに結び付く構成もお見事。
関ヶ原に参戦せず出家したと見せかけて…という展開は
小説として上手く想像力を広げて作った感がありますね。
こういうのは歴史小説の醍醐味でしょう。

父親に対して素直になれない反抗期の青年が
狸と言われる大名にまで成長する姿を
見事に描ききった作品だと思います。