2018/02/21

『うつろ屋軍師』簑輪諒 感想

うつろ屋軍師 (祥伝社文庫)
簑輪諒
祥伝社 (2018-01-12)
売り上げランキング: 95,637

丹羽家に仕え続けた江口正吉の物語。
長秀死後の丹羽家の領土大削減と改易、
大名家としての再生は知っていたのですが、
それを支え続けた重臣・江口正吉については
ほとんど知らなかったので新鮮な気持ちで読めました。

本作の正吉は気宇壮大な軍略家であると同時に
実現できない戦略を考え続けるうつろ屋(空論家)です。
そんな正吉が丹羽長秀や豊臣秀吉といった人物を
間近で見て学びつつ、持ち前の突飛な思考と
現実をすり合わせる術を会得していくというのが
本作も基本的な流れになります。

長秀没後、秀吉によって領土が削減され
次々と重臣たちが出て行く中、丹羽家に残って
立て直しを図るという展開は実に主人公らしい。
武力ではなく職人集団として功績を挙げるという発想は
うつろ屋の面目躍如といったところでしょう。

北陸の関ヶ原といわれた浅井畷の戦いも面白かった。
数では圧倒的に勝る前田軍に対して
だまし討ちと情報戦で対抗する丹羽軍。
敵役である前田利長もなかなかの切れ者に描かれていて、
緊張感のある読み合いが展開されるのが良かったです。

ただ丹羽家改易はちょっと駆け足になってしまったかな。
特にエピソードもない時期なので話を広げるのは
難しかったでしょうけど、ここまでが丁寧だっただけに
駆け足っぷりが目立ってしまった印象です。

とはいえ面白い作品であったのは確かで、
正吉以外にも前田利長や長連龍といった脇役の見せ方も渋く、
マイナーな人物の意外な活躍が楽しめる作品でした。
まだまだ作品数が少ないものの、
今後の活躍が楽しみな作者さんですね。
2018/02/19

『ぼぎわんが、来る』澤村伊智 感想

ぼぎわんが、来る (角川ホラー文庫)
澤村伊智
KADOKAWA (2018-02-24)
売り上げランキング: 1,418

謎の怪異「ぼぎわん」と戦うホラー小説。

まず、ぼぎわんという響きが不気味なのがよい。
平仮名の意味不明な言葉って独特の不気味さがあります。

怪異の接近を現代的な家族問題と絡めたのも面白い。
一見幸せそうな家庭でも現代風の子育て問題を抱えていて、
その隙に怪異が入り込んでくるという理屈は納得できる。
…と見せかけて実際強いのは昔ながらの呪術だったりしますが。

得体の知れない不気味さがよく出ている話ですが、
数々の犠牲者を出しつつも最後に霊能者と大バトルして
何とか勝利する、という話なので読後感は明るめです。
勝利しつつも新たな怪異の芽も描写して
まだ終わっていない感を出すというオチもお約束。

ただ、ラストの大バトルが割とアクション映画的なので
爽快ではあるものの不気味さは薄れてしまったかな。
エンタメとしては面白いんですけど、
ホラーとしては少し評価が下がるところかもしれません。

とはいえ、終盤まで不気味さで話を引っ張る手腕は
とてもこれがデビュー作とは思えないほどでしたし、
ラストの大バトルにしても自分としては楽しめました。
この方の次回作が楽しみです。
2018/02/12

『ファイブスター物語 14巻』永野護 感想

ファイブスター物語 14 (ニュータイプ100%コミックス)
永野 護
KADOKAWA (2018-02-10)
売り上げランキング: 6

久々の新刊です。

主役メカがMHからGTMに変わって以降、
イマイチ物語に入り込めなかったのですが、
今回はそんなモヤモヤが一気に吹き飛ばされました。
相変わらずGTMの名前と形は一致しませんし
参戦勢力も多過ぎて状況はゴチャゴチャしているのですが、
その一方で話の方は非常に分かりやすかったのが大きい。

追い詰められたAP騎士団の支部にソープがやって来て、
それに釣られるように様々なメンバーが集結。
最後はバッハトマ連合の大軍に包囲されるものの
みんなの力と助っ人の乱入により粘り勝つという展開。
まるで映画のように綺麗で爽快な流れだったと思います。
基本的な展開は昔のコーラス戦に近いんですけど、
より纏まっていて勢いのある流れになっているところに
永野さんの漫画家としての技量の上昇を感じました。

それは人物描写についても同じで、
エルディアイが人間らしくなっていくところや
ハレーの復活など、人物の成長の見せ方も良かったです。
デコーズがファティマを道具として気遣い始めたのもいい。
あくまで優秀な道具を大事にするという感じですが、
ファティマ側からするとその方が気楽かもしれません。
アマテラスは相変わらず非人間的なところがありますけど、
まああいつはああいうやつだししょうがない。

ギャグ描写も面白くて、ラキシスはいつも通りだし
バランシェファティマたちのノリもぶっ飛んでます。
前々からハイスペックだと言われていた令令謝、
確かにハイスペックですけどノリはウザキャラですね。
にゃーにゃー五月蝿いけど個人的には好きだなぁ。
そんな令令謝を舌戦で撤退させる京も面白過ぎる。

GTMに設定変更が入った前巻は面白さよりも
設定変更への反発が強かったのですが、今回は逆。
FSSはこうでなきゃ…という展開がてんこ盛りで、
GTM編を新しいFSSとして納得させてくれる内容でした。
どのMHがどのGTMになったかとか、根本的に設定が
変更された部分とか把握できていない点も多いですが、
今後も出来る限り追って行きたい作品ですね。
…と言いつついつの間にか20年以上追ってるんだよなぁ。
2018/02/07

『化け札』吉川永青 感想

化け札
化け札
posted with amazlet at 18.02.07
吉川 永青
講談社
売り上げランキング: 453,620

稀代の謀将として名高い真田昌幸の物語。

物語は武田家滅亡寸前から始まり、
第一次上田合戦で昌幸が徳川軍に勝利して終わります。
昌幸が武田を見切るまでの流れは
自分が滅びない程度に主家の力になるという感じで、
当時の小勢力のあり方をよく表していますね。

その後の上杉北条徳川の間での寝返り連発はお見事ですが、、
ここに昌幸の限界を見たような気がしなくもない。
大勢力を上手く噛ませ合う策略は見事ですし、
自身が少しずつ勢力を蓄える手腕も認めますけど、
そのせいで周囲からは警戒される状況になっていますし、
どう頑張っても小勢力止まりだったのかも。
大大名を狙うのなら早々と秀吉あたりに気に入られて
領地替えワンチャンを狙った方がよかったかもしれません。
まあそれをやると第二次上田合戦で小勢で大軍を
翻弄するというロマンが実現されなかったでしょうけど。

作中の昌幸は信玄になりたいと何度も考えますが、
既に周囲が大勢力で固まっている状況で
かつての信玄並みの領地を得ようとするなら
よっぽどの奇策が必要だと思います。
昌幸が一流の策謀家なのは確かですが、
それでも分不相応な夢であるように見えましたし、
信玄のように敬意と恐怖を覚えられるにはほど遠い。
これならまだ領地欲が希薄で策謀が趣味な
性格だったりした方が納得しやすかったかも?
昌幸の綱渡りのような策略は面白かったですけど、
人物像としてはちょっと曖昧なように感じられました。
2018/02/06

『彼方のアストラ』篠原健太 感想

彼方のアストラ 5 (ジャンプコミックス)
篠原 健太
集英社 (2018-02-02)
売り上げランキング: 358

クッソ面白かった。

内容としては熱血友情SFミステリーという感じでしょうか。
楽しい惑星旅行に行くはずだった少年少女たちが
突如遠い宇宙に飛ばされ、時にはぶつかり合いながらも
協力して故郷を目指すという物語です。

この物語の大きな要素は三つ。
一つは故郷に戻る途中で寄る惑星での大冒険。
各惑星ともの個性溢れる生態系が設定されていて、
次の星ではどんなトラブルが待っているのか、
いつもワクワクさせられました。
映画のインターステラーなどに代表される
惑星冒険ものが好きな人にはたまらないでしょう。

もう一つは彼らが遠くへ飛ばされた謎。
二重三重に隠されたSF的ギミックが明らかになり
壮大な設定に繋がっていく流れはお見事。
SFらしいセンスオブワンダーはしっかり感じられました。
最初から読み直すと納得できる伏線も多いですし、
シュタゲやEver17といったこれまでのSFミステリーの
名作ゲームと比べても遜色ない出来だと思います。

そして最後の一つが少年漫画らしい熱血友情要素です。
主人公兼リーダーであるカナタはホント素晴らしい人物。
お馬鹿ではあるものの終始前向きで、
いざというときの行動力も抜群。
最初は彼に対して否定的だったメンバーも
中盤辺りではしっかり彼を認めてるのがいいですね。
特に最初は一匹狼を気取っていたウルガーが
後半は堂々とカナタへの信頼を口にしているのが熱い。
リーダーシップという目に見えにくいものを
これだけはっきり描いた作品は何気に少ないのでは。

5巻という巻数も終わってみればちょうどよかった。
キャラが多いだけにそれぞれを掘り下げるには
これぐらいの巻数が必要でしたでしょうし、
逆にこれ以上長くしてもトラブル解決までの
テンポが悪くなってしまったと思います。
あと5巻なら一気に買って一気に読めるのいいですね。
もちろん連載時に読んでも面白いでしょうけど、
個人的には短時間で一気に読む爽快感を重視したい。


まとめ。
少年漫画的なSFって久し振りに読んだかも。
少年少女たちの友情的な盛り上がりと
SF謎解き的な盛り上がりが絶妙に交じり合っていて、
最高の読後感を味わえる作品になっているのが凄い。
作者である篠原さんにはただただ感謝しかないです。
素晴らしい物語をありがとうございました。

今年はまだ序盤なのにいい作品引いちゃったなぁ。